Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ことばと思考

今日の本は、今井むつみさんの「ことばと思考」です。

言葉、言語によって思考は変わるのか、という話です。

ことばというのは、世界をカテゴリーに分ける。
(p.3)

「分かる」という言葉には「分」という字が出てきます。分けることができれば分かったことになる、という考え方は割と定番です。これは集合論的な考え方で、例えば犬という言葉は、世界に存在しているモノを「犬」に属するものと「犬」に属さない犬以外のものに分けるのですが、分けることが可能なら、犬とは何なのかが分かっているはずだ、ということになります。

言語と思考というネタだと必ず出てくるのが色の話ですが、

実は日本語も同様で、黒に近い、濃い青を「紺」と呼ぶ。
(p.22)

ここで問題にしているのは、青と紺が違うカテゴリになるかどうかです。先日紹介した本には、日本語の青が green を含んでいるという話が出てきました。 この本にも出てきます。 実は日本語の「あお」には「青」「蒼」「碧」の3つがあって、和色の「あお」はこの3つは使い分けています。案外細かいのです。

この本には、日本語の名詞に基本的に性別がないという話も出てきます。英語にも基本的にありません。例外的に、ship は女性なので代名詞で受ける時に she とする書き方がありましたが、今は ship も it で受けるそうです。

ドイツ語やフランス語は名詞に性別があって話をややこしくしています。 この本が紹介しているのはザンデ語で、名詞を男の人、女の人、動物、それ以外という4種類に分類します。その分け方も単純ではないという例として、

月や太陽、星などはどういうわけか「それ以外」ではなく「動物」カテゴリーに入れられる。

これは単純に月、太陽、星を動物だと解釈しているのではないかと思います。 太陽は姿を変えるので、生物だと考えても別に不思議ではありません。むしろ無生物だと考えると明るさや色が変わるのは不思議ではないかと思います。

日本語でもう一つ特徴的なのが、数え言葉です。人を「一人」というのはわかるとして、なぜ動物は「一匹」なのか。ウサギは「一羽」なのか。細かいことはおいといて。

近年、日本では、モノの数え方が、伝統的な助数詞ではなく、なんでも「つ」や「個」で代用することが多くなっている気がする。
(p.81)

個人的には同感です。

最後に、言語学者鈴木孝夫氏のエピソードが面白かったので紹介しておきます。

鈴木氏は英語の orange という色のことばを日本語の「オレンジ色」と思い込んでいた。その結果、レンタカーを借りたとき、orange car が来る、と言われ、ずっと待っていたのにいくら待っても車は来ない。かわりにこちらの様子をうかがっている茶色(と鈴木氏には思われた)の車がホテルの前に停まっていた。
(p.215)

orange という英語は茶色も含んでいるという話です。個人的には、オレンジ色というと赤と黄色の中間の色のイメージで、確かに茶色という発想はないです。


ことばと思考
今井 むつみ 著
岩波新書
ISBN: 978-4004312789