今日も司馬遼太郎さんの「日本人を考える」から紹介する。最初の対談相手は高坂正堯さんで「政治に〝教科書〟はない」。
高坂さんは国際政治学者で、ざっくりいえば、やらせて失敗体験をさせないとうまくいかない、という話をする。政治のテクニックとして語っているのが面白い。
いくところまでいかして、それではダメなんだという実例を見せつけないといけない
(p.129、高坂)
それで致命傷を負っては元も子もないのだが、実際に失敗しないと納得しないというのは分かる。やらないとダメかどうかも分からない人が結構いるはずだ。
もう一つ対談を。辻悟さんの「若者が集団脱走する時代」。これも1970年の対談で、今から50年前の話になる。
仲間を持っているということは、成人に圧倒されてしまわずに青年期の苦闘を一定期間持続し、しかも自分がこわれないですむための重要な砦になる
(p.159、辻)
若者が学生運動などで集団を作るシステムを説明している。今の大学はこのようなシステムとしては機能しているだろうか。サークルや部活と学生運動は次元が違うような気がする。団塊の世代に聞いてみたい。
最近になって若干「根性」みたいな言葉が再流行し始めたような気もするのだが、若者はどんどん甘やかされて育って今に至る、みたいな流れが当時からあったと思う。
まあ大学というのは、若い人の幼稚園みたいな遊び場所として(笑)、非常に社会的な意義があると私はいいかげんに思っています
(p.164、司馬)
司馬さんは案外優しいようだ。
生きる目標なんていう高邁なものはいつの時代の人々もそれを考えずに生きていた。食うことだけが、生きる目標だったんですから。
(p.174、司馬)
ところが、誰でも食えるようになったので、目標を失ってしまった。だから今の若い人は大変だ、という話。これが50年前に話題になっていたという所に注目したい。ネットの投稿を見ていると、大学入試で落ちたら死にます、という人が大勢いる。国民が苦心して誰でも食える、餓死することのない社会を作ったら、生きる目標が無くなってしまった。
(つづく)
新装版 日本人を考える 司馬遼太郎対談集
司馬 遼太郎 著
文春文庫
ISBN: 978-4167901257