Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

狼と香辛料VIII対立の町(上)

今日の本は「狼と香辛料VIII」。

8巻は「対立の町」という話の前編。舞台はケルーベという町です。この町には三角州があり、その上が市場になっているのですが、三角州を挟んだ北と南はちょっとした対立関係になっていて、かなりの緊張感があります。

前回ロレンスを騙したエーブに追い付いた一行に対して、エーブは争うことなく降参することを選択します。その理由はホロが激怒しているからです。

相手が理屈で怒っているのであれば理屈で対応もできるが、感情で怒っているのであれば理屈はは逆効果しか生み出さない。
(p.28)

理屈で通じないというのは、現実世界でもよくあるシーンなのですが、うまく対応できる人はなかなかいないですね。ロレンスは商人なので、騙した相手に報復するのではなく、条件を有利に使って利益を取ろうとします。

この巻の最後の方で、面白いものが出てきます。

こっち側の漁師が海で捕まえたのはイッカクだ
(p.239)

イッカクは不老不死の薬になるので売れば大金になる、ということになっています。イッカク千金です。ということでこれをうまく処理すれば南北のバランスが崩れて戦争になるかも、というような大事件が発生したところで下巻に続きます。

さて、今回もストーリーは無視して興味を持ったところを紹介します。

「物を食べる時は口元を隠せ、というのは教会でも教えられます」
「それは逆にいいものを食べていることを隠すためだろう?」
(p.37)

コルの言葉にロレンスが突っ込みを入れたのですが、武士は食わねど…とは真逆ですね。口を隠すというのは普通はお上品な作法なのですが、実は隠さないといけないものを食べているという話。キリスト教は一応何を食べてもいいことになっていますが、この世界の教会はどのような教義なのだろうか。

「金で物を買うことは悪ではありません。物以外のなにかを買う時に、大抵悪だといわれるのです」
(p.51)

権威や権力を金で買うのが悪だという話です。

人というものはさまざまな一面を持っているものだから気を付けろよ
(p.57)

光あるところに影あり。表があれば裏がある。ロレンスは相変わらずコルの教師役になっているようです。

次の逸話は私は聞いたことがありませんが、オリジナルなのでしょうか?

 心優しい主人が、従順にして誠実な奴隷に自由を与え、お前は今後誰にも仕えることもなく自由に生きていくのだ、と言いつける。すると奴隷は主人の言いつけをいつまでもきっちりと守り、その後誰に仕えることもなく生きていった。
 最後まで主人の言いつけを守ったこの奴隷は、果たして本当に自由だったのだろうか?
(p.77)

禅で重要なのが無我の境地。「考えるな」と強制されますが、この時「考えるなということも考えるな」といわれるようです。

若いうちは知らないことのほうが多いものじゃ。
(p.117)

ま、当たり前のことですが。これはホロからコルへの言葉です。

嘘をつく最大のコツは、これは考えようによっては嘘ではないと自分に言い聞かせることだ。
(p.170)

本人が嘘ではなく真実だと思っていれば、嘘っぽい雰囲気は出ることがありません。


狼と香辛料VIII対立の町(上)
支倉 凍砂 著
文倉 十 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048670685