Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

書くということ

これは書評ではない。連投しないと Hatena Blog がカウントしてくれないので、だったら毎日書いてみるかという試みである。毎日書くというのは苦手ではない。実際、このブログの姉妹ブログ【謎】の Phinloda のいつか聴いた曲というブログは、昨日で連続3千日程度毎日書いている。正確にいえば昨日で2991日連続のはずだ。計算が間違ってなければ。

逆にいえば、毎日書くのがどれだけ大変かということも知っている。クオリティを落としていいのなら簡単だ。「ドトールなぅ」とでも書いてしまえば1日書いたことになる。今はドトールではなくスタバだが。何故頭の中にドトールが出てきたのかは定かではない。ドトールの攻撃?

投稿するときは、まずザッと書いてみる。それから推敲する。推敲するのは昔ライターをしていたときの癖なのか、あるいは性格なのか、自分でもよく分からなくなってしまったが、とにかく書きっぱなしは殆どない。ちなみに、この投稿は、あえて書きっぱなしにするつもりで書いている。

書く時間は、初稿が1とすれば、推敲3とか、それ以上の時間をかける。推敲に時間をかけている。もちろんこのブログもそうだ。プレビューを表示してから後に時間がかかってしまう。だから、毎日1投稿がキツい。時間が足りない。

しかも読む時間だってかかる。前回紹介した「ただし少女はレベル99」は何回も読んだ本なのだが、紹介するときにもう一度読んでいる。この本は多分じっくり読んで2時間程度かかっている。じっくりというのは、読みながら紹介したい文にポストイットを貼り付けていくのだ。今、表現として「ポストイット」と「付箋」のどちらがいいか迷ったけど、あえてポストイットにした。PostIt というのも選択肢だったが、どうでもいいや。

付箋を貼ったからといって全部紹介するわけではない。さっきポストイットを選んだのに何で今度は付箋なんだと言われたら、タイプするのが面倒だからで深い意味はない。マニュアル作成なら表現を変えないのが基本だが、エッセイでもコラムでも何でもないこういう文章はどうでもいいことだし、いろんな言葉を入れておけば検索ワードとして機能するという意味はあるだろう。既に出ている単語を入れたらどうなるのか、何となく分かるけど、そこまで考えて書いているわけではない。

実際に没にした箇所は、例えばこんなの。

市子は蓮根を噛んでも音を立てないという特技を発揮した。
p.74

それが何だよ、と言われそうだが、個人的には蓮根を音を立てずに食べるというのはツボにハマったのである。ちょっとツボがカルトな感じもしたので没にしたわけではなく、長すぎるのも何だかな、的な判断だ。初稿が長くなると推敲も長くなるし面倒なのだ。

 

ただし少女はレベル99

やっとシリーズ最初の作品です。4つの短編が入っています。

1つ目「幸福には限度額がある」。主人公は出屋敷市子さん。どんなキャラか説明から入るのですが、

出屋敷市子はデビッド・カッパーフィールドだ。
(p.8)

最初から分からない人には分からない演出です。誰? 大丈夫、後で説明が出てきます。

自由の女神とか消したりする人……だっけ
(p.21)

そうだっけ? 知らないと余計分からなくなるので、ググった方が話が早いですね。カッパーフィールドはイリュージョニスト、魔法使いです。市子は中学1年生のリアル魔法使い。13歳からお父さんの大雅さんと暮らしています。この時に十穀断ちというほぼ断食技をしてからやって来て、

「慌ててコンビニの冷凍うどんぐだぐだになるまで煮て食べさせてさあ、体脂肪率測ったら、10!」
(p.131)

スリムですね。この市子が同級生の芹香にケータイで写真を取られて呪われて大怪我をして入院するというストーリーです。写真に写ると魂が吸い取られるという伝説は昔からありますが、携帯のデジカメでも吸い取れるようです。そういえばこの前、深夜の神社でスマホで撮影したときにヘンな所に顔認識のマークが出たので後で確認したら霊写真になっていました。

このシリーズの話は、オカルトとか心霊系のストーリーかというと、さりげなくITが入ってくるというのがミソなのです。

全ての道具は付喪神になる可能性があるな。
(p.50)

ヌコが長生きするとバケヌコになるように、日本では長持ちすればモノも神になります、これが付喪神。携帯電話もモノなので可能性はありますね。以前紹介したように、他の巻ではバーチャルな妖怪も出てきます。しかしまだ100年モノの携帯やスマホはないはずなのですが。

2つ目の話は「言葉はいつか自分に返ってくる」。人を呪わば穴二つといいますが、同級生の准くんに呪いを解いてくれと頼まれて、市子は邪険に断ります。あっしには関わりのないことです。しかしお約束ということで、おもいっきり関わることになります。

今回は蛇の神使、みずち、みずはがフライングで勝手に片付けようとしますが、それを市子が寝間着のままで追いかけます。こういうのはアニメ化して欲しいですね。蛇はドジって除霊に失敗、市子が後始末してスッキリ解決なのですが、

「確かにすっきりしましたが……すっきりしすぎでは……」
(p.90)

家が家具ごとほぼ吹き飛んでますからね。結局、呪いは解けましたが家が大破されて釈然としない准の口から出た質問は、

お前、何で着物なの?
(p.93)

ここで初めて寝間着のまま出てきたことに気づいて慌てて逃げ出すのですが。一件落着なのか一見落着なのかよく分かりません。そこで世話役の史郎坊、あ、この人は天狗です、人じゃないか、が市子の父親の大雅にちゃんと教育しろと説教するのですが、一体どうすればいいのかというと、

よく考えたらおぬしにできることなど何もなかったわ
(p.97)

ふざけたことを言うので、じゃあ何で相談したんだと突っ込んだら、この時の史郎坊の返事が面白い。

他人と言葉で会話すると、状況を整理することで思考が一段階進むんじゃ
(p.97)

たしかに。勉強法の本に出てくる裏技ですね。会話には脳を活性化する働きもあります。

その後、市子が図書室で借りた少女地獄を読んでいるシーンが出てくるのですが、最近は中学校の図書室に夢野久作なんて置いてるのでしょうか。夢野も今ではレアっぽいけど、この本はアニメ、マンガ、ラノベのネタは、基本、暗黙の了解で説明なしで出てきます。

「他に五人いんの? それって学園都市のレベル5的な?」
(p.108)

他にもプリキュアとかHUNTER×HUNTERとか、ジョジョの奇妙な冒険とかハリーポッターとかまどマギとか、いろいろ出てきます。学園都市はとある魔術の禁書目録、説明するのが面倒なので勝手に調べてください。

3つ目の短編は「人生に無駄な伏線はない」。見所は、みなりのいいオジサンと市子の掛け合いと、大雅が市子を引き取ったときのぶっちゃけ話です。オジサンは元警視総監なんですけどね。トイレの話が面白いです。女子は何で連れ合ってトイレにいくのかと質問したら、オジサンはトイレの数が多いからだと答えます。トイレが1つしかなかったら1人ずつ行くぞ。そりゃそうですけど、

今は皆でトイレに行く正当な理由はないがそのうちに理由ができる
(p.143)

後付で理由ができるというのが面白い。女の子が一人で出歩くなというところで、これは名言だと思いました。

どうか学校の行き帰りだけは友達と一緒にいてくれないか。今は無意味に思えてもいつか意味ができると信じて
(p.174)

さて、大雅のぶっちゃけ話ではハイジがよく出てきます。

アルムおんじに感情移入するとひどいねあの話
(p.130)

ハイジって最近の若い人は家庭教師のトライしか見たことないでしょ。

ハイジがおいしいって食べてたチーズと黒パンってあれすごい粗食だよね!
(p.132)

食材がいいと美味いのかな。粗食なんていったらネロが食べてたのはもっと凄いけど、ていうか最後は食べてないか。この時の話し相手が警視庁参事官の湊さん。「友達はいなくても生きられる」と断言して、

選挙のときでさえ中学生の同級生から電話なんかこないよ。
(p.135)

ぼっち万歳。私も友達いらない派だから、これは何となく分かるな。実際は友達多かったけど。今いたっけ。

この話は、さらに市子が刺されたり芹香が拉致されたりとイベントてんこもりですが、そろそろ書くの疲れたので次行きます。

最後の話は「私の幸せはあなたのそれではない」。この話は、もう

エンドレスエイトじゃん。あるいは『Steins:Gate』じゃん、あるいはまどかマギカじゃん」
(p.190)

これだけで分かりますよね。エンドレスエイトハルヒ。アニメで深夜に放送していた時リアルで見てました。かなり腹立てた人もいたような。タイムループ物アニメ作品って言葉が出てくるけど、この本が出たときにはまだ公開されてなかったけど、今なら「君の名は。」がそうですね。過去に行って都合がいいように歴史を書き換える系の話です。一発で簡単に成功するような甘い世界ではないので、クリアできるまで何度もやり直します。リセット技さくれつ。途中で運命が変わって、大雅が死んでしまうシナリオになった。それを市子が上書きして死なない世界に改変しようとしますが。

「申し訳ありません、黙っていましたが私には大抵のことができます」
「それは聞かなくても分かるけどそうじゃなくて」
(p.208)

流石は親子って感じがします。


ただし少女はレベル99
汀 こるもの 著
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990097

レベル98少女の傾向と対策

なぜか逆順に紹介してしまうのですが、今日は前回紹介したアレの2作目です。

5つの短編が入っています。順に紹介すると、まず「人間の権利とは」。

狸退治の話です。ちょっと違うか。退治するのは外来種なんですけど、この話は神とは何かをうだうだ解説しているところが面白い。日本では神様には勝手になれるというのは海外では度肝を抜かれる発想でしょうね。日本でも意外かもしれませんが。

かえって昨今、動画をアップロードするだけで神扱いですから
(p.22)

言われてみたらそうか。市子の読書の趣味も分かって興味深いです。どんな本読んでるか訊かれて、

ドグラ・マグラ
(p.11)

中1女子が読む本じゃないと思うけど。どんな本か説明するのは面倒なので、知恵袋に伝説のベストアンサーがあるのでリンクしておきます。

息子が「ドグラ・マグラ」という本を持ってます表紙のイラス... - Yahoo!知恵袋

2つ目は「三の姫の閨」。助六の話。昔話のようにほのぼのした怪談なので、特に解説なしで。すみません。

3つ目が「生きる目的や生まれてきた理由なんてない方がいい」。これは傑作なんだけどなにかと説明し辛い話です。

男子だからルナルナなんて知らねーし。
(p.74)

みたいな話。出産の痛みとかそういうのも分かりませんが、後の話でそういうのが出てきます。 この話はお友達の楓ちゃんが大活躍!

「解決!」
「何がだ!」
(p.75)

凄い言霊が発動したようです。 ちょっと感心したのが、

「蛇の人も女の人だよね?」
「爬虫類に私の気持ちはわからない!」
(p.65)

蛇の人ってなのかというのはさておき、爬虫類にはわからないという発想は確かにそうなんだけど、爬虫類でも人なのか?

助六が下っ端妖怪を瞬殺するシーンは見応え(?)あります。そのレア妖怪(助六)を瞬殺(殺してないけど)してしまう市子のレベルが分かるというものです。

4つ目が「文京区の休日」。助六と市子がデートします。狐って雑食なんですね、個人的には最後に投扇興やってる毛野が気になりますが。

さて、ここからが本番というか、最後、5つ目の「私の不幸はあなたのそれではない」。 この話がこの本の半分以上を占めています。長編、という程でもないか。中篇ですが、テーマはかなり重くて、先の戦争話とか、日本史が苦手な人には辛いかもしれないし、例によってサブカルとか知らないと意味不明な比喩が無節操に出てきますから、分からない人には何のことだか。

「“大いなる力には大いなる責任が伴う”ってよく言うじゃん。誰の言葉だっけ?」
アメイジングのつかない映画『スパイダーマン』一作目、ベンおじさんの台詞じゃな。
(p.138)

答えるのは史郎坊ですが、退役軍人はスパイダーマンなんか見てるのか。アメリカは敵だったから密かに伏線張ってます。この史郎坊は風呂に入らないので、入ってこいといわれて、

穢れを落として、成仏してしもうたらどうしてくれる
(p.143)

霊体には新陳代謝がないから洗う必要はないというのですが、霊体にもケガレが付く(憑く?)から風呂に入れというのは理屈になってるのかな。史郎坊が風呂でシャンプーしたらサラサラのストレートヘアになったというのはリアルな話だけど何か経験あるのでしょうか。

この話、市子と芹香がライブに行くのでお父さんの大雅が付き添いで付いていき、泊まったホテルに幽霊がわんさか出るという設定です。お父さんも霊能力者なのですが、なぜか親が死んだときにどうしたらいいという話になったときに、

自分で成仏するし法事とか永代供養とかしなくていいから。
(p.147)

自分でできるものなの? 意外と便利そうですね、霊能力。

ライブが終わって市子が寝た後でドタバダの騒ぎがあって、雀さんがバトルで活躍します。この時の愚痴が、

たまにメシ食わせてもらうだけで給料でねえし寝なくても死なないから不眠不休だしブラックってレベルじゃねえぞ
(p.165)

化け物系って基本的にダークサイドだから仕方ないのか。試験も何にもないので楽かなと思ったのだけど。この時にバトルした相手は霊に憑かれた女子高生で、緊急除霊したため熱を出してしまいます。治療のためにお医者さんの大雅が呼ばれますが、この人、ほぼやる気がない。普段は警察でガイシャの死体解剖してるんだっけ?

生きてる人間は専門外なんだけど
(p.166)

医師免許を持ってるから治療しても構いません。診察もできます。

冷たいミニペットボトルとかを脇の下や股に挟むのも効果的だよ
(p.166)

といったらスケベ助六がすかさず反応します。

「…女子高生の股を開いていいのですか?」
(p.166)

実際に開いたかどうかは書いてないので知りませんが、股間にペットボトルを挟むというのは「無邪気の楽園」にも出てきたネタだと思うけど、あれは小学生か。アレ紹介していいのかな、一応、成人向ではなくて普通のコミックのはずだけど。余談はさておき、

「下手の考え休むに似たり、って言うけど休むのは大事だ。休む方がよっぽどいいときもある。」
(p.167)

結構含蓄深い現実的なことを言うのが大雅の役目のようです。愚痴レベル高いです。

一生懸命頑張ったのに誰も褒めてくれないのって案外つらいよ?
(p.177)
他人を助けたいと思うのは、大抵自分の問題がうまくいってないときさ。現実逃避だよ。
(p.190)

こんな感じの言葉がポンポン出てくるのです。

話変わって、この話、天使のラッパとかいう花が出てくるのですが、

元ちとせの歌のようですなぁ、あれは赤い花じゃったか?」
「よく写真に写ったな」
「“隠者の紫”(ハーミット・パープル)の力で
(p.202)

歌というのはワダツミの木ですね、隠者の紫ってジョジョ? このシリーズ、先のスパイダーマンのようにネタバレしてくれる箇所はまだいいのですが、ここみたいに何の説明もなくサブカル系の知識前提でネタが出てくるから分からない人は特に意味不明ですよね。蛇足しておくと、天使のラッパというのは聖書ですよ、黙示録

さて、この話のテーマは戦争です。妖怪大戦争ではなく、第二次世界大戦。後で建物を使うために周辺の居住地域だけ焼いた、なんてのは教科書には出てこないでしょ。事実ですけど。迂闊に書いたら言霊発動しそうなので書きません。一言だけ、史郎坊のお言葉。

東京から鈍行列車で一時間の首都圏に原子力空母が居座っとるのに、たかが輸送ヘリが何だと言うんじゃ。
(p.205)

ヘリってオスプレイのことでしょうか。米軍機が落ちたら大騒ぎするのは当然として、ここ最近何か民間機とか自衛隊機とか落ちてたような気もするけど、騒ぐ人もいないような。もう少し騒いだ方がいいような気もしますが。そもそも、原潜なんて、どこにいるかも分からないし。案外たまちゃん【謎】が知ってるかもしれない。


レベル98少女の傾向と対策
汀 こるもの 著
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990318

もしかして彼女はレベル97 (2)

昨日書くつもりだったけど、ちょっといろいろあって間に合いませんでした。申し訳ない。で、今日一気に書かせていただきます。タイトルの(2)というのは、そういう本があるわけではなくて、この投稿が2つに分裂したので後編という意味ということで。

短編の2つ目は「死なないのと生きているのとは違う」。タコです。この短編の最後に萩原朔太郎の詩が部分的に引用されています。

かくして蛸は、彼の身體全體を食ひつくしてしまつた。外皮から、腦髓から、胃袋から。どこもかしこも、すべて殘る隈なく。完全に。
(死なない蛸、萩原朔太郎 作、青空文庫)

自分自身を食べるということは本当にできるのでしょうか?

「無論生物学的にはありえないが、魔術的には結構ある。
(p.77)

だそうです。すばらしい解釈です。目からウロボロスです。 ちなみにこの話のタコは成仏できない霊魂で、市子の周りをうろちょろしたのが災いしてタコにされてしまったのです。このタコがスダールのように巨大化して暴れまわるというウルトラQのようなお話なのです。

今回は、巨大化したタコに勝ったら神にしてやろうと吹っかけられて助六が頑張ります。助六というのは九尾の狐さんで、野狐ですね。神使かどうかはよく分かりませんが下僕です。これが市子に

「憑坐に五人取り込まれている。傷つけないよう慎重にやれ」
「何と、無茶ブリですよ」
(p.106)

タコに取り込まれた5人を無事救出してタコだけ倒せといわれても困ります。 そこで手助けするのが雀さん。天狗になったスナイパーです。雀のお話はこの次の短編に出てくるので細かいことは省略しますが、無茶ブリはそのまま雀に丸投げされて、取り込まれた人間は無事なままタコを撃てといわれて、このあたりがクライマックスです。

「言うことに欠いて死穢血穢とか、鞍馬はいつもそういう役回りって本当だったな。
(p.112)

死穢、血穢に関する細かい話は出てきません。要するにケガレです。細かく書くと危険なのであえて書かなかったのだと思います。私も怖いので書きません。つまり助六は雀にケガレだけを撃ってくれというのですが、そんな都合のいいことができる必殺技があるのが小説の有難いところです。

「仏敵討滅、悪霊退散、武運長久、色即是空、全身全霊、その他諸々!」
(p.115)

雀はもとスナイパー、僧侶でも神職でもありませんから結構デタラメです。何か言わないと言霊化しないので景気付けなのかもしれません。天狗なのでこれがビンゴで的に命中してとんでもない軍神が召喚されてアッという間にタコはこの世から消滅して影も形もなくなってこれにて一件落着ですが、

この世は理に適ったことしか起きない。
(p.121)

タコまで出された後でイマサラそんなこと言われても…

で、次行きます。3編目は「歴史はいつも教わったのと少し違う」です。

これが先の話で大活躍した雀さんがどうやって天狗になったのかというエピソードです。さらに、雀さんが鞍馬山に行って天狗の先輩方にご挨拶しに行く小話です。手ぶらで行くのも何だし、

とりあえずいなり寿司を五十人前用意しましたので、これで何とか場を和ませてください。困ったときは食べ物と酒です。
(p.135)

確かに日本の神話は飲食で何とかするという話がわんさかあったような…ギリシャ神話とかもそうだっけ。とにかく飲んで食って仲良くなるのは今のサラリーマンも同じですな。いなり寿司が出てくるのは助六が用意したからで、助六は付き添ってくれといわれて断る代償にいなり寿司で誤魔化したわけです。狐だけに。

雀はスナイパーの正装をして鞍馬山にご挨拶に行って400m先の的を一撃でヒットしますがどうもウケがよろしくない。なにしろ相手は源平合戦とか戦国の亡霊だからジェネレーションギャップがハンパなくて話が通じない。

なぜ寝転がる。なぜ立ってかまえない
(p.139)

奇妙な質問にも雀は真面目なのでマジで答えます。

立ってかまえたら目立つし、疲れるじゃないですか。これ重いんですよ。
(p.139)

バカにされて爆笑なんだけど、相手の中に一人だけマジなのがいます。天狗の大将といえば義経に決まってますよね、モーニングで連載している漫画では現在逃亡中ですが、漫画もイケメンです。 頓珍漢な説明を重ねてチャンスが来るまで3日は待てるぞという話をしたら、これが理解されたようで、意外とウケます。

「人間が弓に矢をつがえて、三日も同じ場所に立っていられるはずがない。こいつはそれができるって言うんだぞ」
(p.144)

流石は義経目のつけどころがシャープです。 雀の装備はヘロヘロなので日本刀で切られたら死ぬから切らないでと頼んだところで、

昔の故事ならそこは言葉に詰まるところだろう
(p.146)

矛盾って韓非子ですよね。ググって確認したら合ってた。ホッ。義経って勉強もしていたんだ。一般教養なのでしょう。で、鎧とか着てないのはどうせ狙撃されたら死ぬからというのが通じない。しかし、何されても死ぬじゃないかと突っ込まれた時の雀の返事がまたウケけるのです。

「死にます。現代戦では姿を見られたら死にます」
「姿を見られたら死ぬ、とは妖らしくて面白い」
(p.146)

で、本気で姿を消して勝負しろ、面白くなかったら殺すといわれたので、仕方ないから雀は200mほど離れてバレットM80A1義経を打ちます。雀といえども天狗だから絶対に外れません。そんなので撃ってもいいのかな。

アンチ・マテリアル・ライフルは乗用車のエンジンや鉄扉、安物のジュラルミン盾を貫通し、コンクリートをも砕く。磨崖仏でも割れる。人間に当たれば弾と一緒に体の中身が全部出る。
(pp.148-149)

まがい物ではなく本物なのに磨崖仏も割れるらしい。磨崖仏というのは何が面白くてこんな所に彫るんやというような場所に彫られた仏像ですが、あんなの割ったりしたらタリバンみたく仏罰が下って大変なことになりますが、これが命中した義経がどうなるか知りたい人は本を読んでください。

さて最後が「貴方の人生は貴方のものではない」です。

Amazonのカスタマーレビューでは、これが分からんという評がありますが、個人的にはこれが一番面白かったです。パソコン通信から Habitat とか PostPet とか古き良きネットコミュニティの時代を知ってる人なら、あるあるのオンパレードなのですが、確かにこんなの用語が分からないと意味不明だ罠。まあこの作者、この話に限らず至るところに知らないと分からないネタをぶちまけてますが、さてこの話の舞台「テルミィ」は、

少女のためのクローズドSNS
(pp.165)

乙女の園なのです。だからオッサン達はそのままでは入れないから女装したアバターで侵入します。アバターもえくぼといいますが、キモいです。あ、そうそう、この話のバトルの相手はサイバー妖怪ですよ。何それといわれても私も知らんがな。男子禁制なのに参加してもいいのか?

ネカマをしない男なんぞ信用できるか。
(p.252)

なにが。こんなわけのわからないのは置いといて、ストーリーですが、サイバー妖怪に取り込まれた少女救出です。この少女というのが、

「春の地震で家が倒壊して下敷きになった。頭を打って、もう二か月も意識が戻らず昏睡状態で入院している」
(p.189)

それを救出しようということなんですが、バーチャルな世界なのに「生きるとは」みたないやけにリアルな重いテーマがちらちらします。そういえば、最近はAIが流行のようですが、AIって妖怪になれるんですかね。ていうか、AIの生存権とかどうなっているのか。やたら死にたがるのは最近の流行でもないかもしれませんが、オッサンたちはそういう少女にマジで切れて怒ります。

お前みたいなガキにこんなところで死んでいい権利なんかねえんだよ
(p.220)

市子も怒ります。

この国ではよりよい生き方を選ぶことはできても、よりよい死に方を選ぶ権利はない! 一度人間に産まれたら簡単にはやめられないのだ。
(p.242)

確かに死権なんて聞いたこともないですね。人間じゃなかったら簡単なのかな。ちなみに逆の視点からは、こんな言葉も出てきます。

本当にその命に価値があるのなら、死は恐ろしいものではない
(p.256)

こんな話ばかり読んでいたら地獄少女でないけど一度死んでみたらどうかと思ったりしそうですが、死ぬのって怖いのですかね、ジャン・バルジャンは最後によく分からないことを言ったような気がしますが。

もしかして彼女はレベル97

レベル99シリーズの3作目です。例によって1作目から読まないと伏線とかキャラのナニが分からないのでアレですが、どうもすみません。 しかも、この本には4つの短編が入っていますが、今回は最初の話「大人気ない大人には敵わない」の紹介だけになってしまいました。続きは後日書きます。

レベル99って何、というのは多分「とある魔術の禁書目録」に出てくる能力者レベルみたいな、というのが確か1作目の「ただし少女はレベル99」に出てきたと思うのですが、今それが手元にないので、後で確認しておきます。主人公の出屋敷市子はどんなキャラかというと、

出屋敷市子は謎の魔法少女だ。
(p.10)

登場人物紹介のところにも謎多き魔法少女と書いてありますが、いわゆる魔法少女というよりは巫女です。式神使いです。女子中学生なのでイメージ的には年齢はズレてますが「うる星やつら」のサクラさんでだいたい合ってます。ギャルというキャラではないです。

さて「大人気ない大人には敵わない」ですが、あまりに世俗に興味のない市子に、これではいかんと考えたお友達の葛葉芹香ちゃんが渋谷に行こうと誘ったところから話がややこしくなるという話です。葛葉というのも意味深な名前ですね。市子は美人なので芸能事務所とかにスカウトされると面倒になるから相手にするなとアドバイスをするあたりで、

「断りたいなら返事すんなよ、結局シカトすんのが一番手っ取り早いから」
「返事をしないのが自衛というのは、妖物の対処法のようだ」
(p.15)

事務所のスカウトは化物扱いされてますな。ちなみに、最近の渋谷はやたらテレビカメラがいますよ。朝の番組とかで使う街頭アンケートですね。まあでも、この一言でも市子がどんな暮らしをしているか分かるというものです。

市子の父親は大雅という名前なのですが、強そうな名前の割りに能力的にはヘナチョコな感じです。しかしこの話では案外活躍するんですよね。得意技は愚痴かな。それが炸裂する感じです。グチグチと細かいことを言うのがウザいし最初は読んでいて疲れるのですが、慣れてくるとそれが快感になります。大雅のセリフで、こういうのがあります。

日本人は勘違いしてるけど、人間は他人に迷惑をかけるものなんだよ、
(p.64)

真理ですな。日本人に限定しなくてもいいような気もしますが、この後、親がお金を出してくれなかった過去を愚痴ります。そういうえば最近も知恵袋で保証人が何たらという質問を見たような。

病院の入院契約書にすら“同居していない保証人”の名前を書く欄がある。同居してなくて入院費用をぽんと払ってくれる赤の他人って誰だよ。
(p.65)

そういう細かいことを言われても、ていうか、これは奨学金の話がどんどん発展してわけのわからない所に着地失敗して空中消滅する途中のセリフなんですが、トンカツを醤油で食う【謎】のはいいかもしれない。

何か時間がなくなったので、また明日でも続きを書きます。


もしかして彼女はレベル97
汀 こるもの 著
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990707

夜行

シリアスな作品です。夜は短し…のノリで読むと内股すかしを食いますのでご注意。

百鬼夜行というのはモノノケですね、私は物の怪は得意なのです【謎】。夜行といえば電車用語でもありますが、

「断じて冬でなくちゃ、冬はあけぼの」
(p.112)

春はあげもの、というキャッチコピーが有名ですが、冬は初めて見ました。その後に理由が書いてありますが、こういうのは鉄ちゃんではないと分かりませんよね。個人的には森見さんは京都系の作家みたいな先入観がありますが、この物語も京都ローカルの地名がたくさん出てくるのですが、他の土地もいろいろ出てくるのが面白いです。

飛騨高山の駅から富山に向かって高山本線が走っています。その途中、岐阜と富山の県境に猪谷という駅があります。高山駅からはだいたい一時間ぐらいの行程でしょうか。もし列車ではなくて自動車で猪谷駅まで行くなら、国道41号線を辿ることになります。
(p.86)

今は Google Maps というのがあるので、猪谷の駅も、国道41号線も、航空写真で追いかけることができますが、この道は本当に周囲に何もない、ていうか、もろ山の中を通りますね。自分の部屋から聖地巡りができます。

トーリーの背景は、他の小説でもチラチラと出てくる異世界です。和風で幻想的な光景が出てきます。幻想といえば妄想と紙一重ですが、面白いと思ったのは、チョイ役の児島君のセリフで、

「妄想と言っても僕のは品の良い妄想で」
(p.118)

妄想にそんなランクがあったとは。しかし見ているものがリアルなのか妄想なのかというのは、森見さんの小説はどれも謎ですね。

見れば見るほど、それがへんなものに見えてくるの。そういうことってありませんか?
(p.164)

そりゃゲシュタルトが崩壊していますがな。

最後におっとっと、みたいな感じのストーリーなのでうっかりするとネタバレになりそうで書き辛いです。ちなみに、この物語で一つだけ残念なのが、

その「曙光」という作品が気にかかる。
(p.210)

このあたりを読んだところで仕組みが分かってしまったことです。森見さんの作品をいくつも読んでいたら、自然に出てくる発想なのかもしれませんが。


夜行
森見 登美彦
小学館
ISBN: 978-4093864565

武士道

日本には神道という独自の宗教もありますが、よく話題になる武士道というのは何なのでしょうか。それを外国人に伝えることを想定して書かれたのがこの本です。

だから原文は英語です。原文はインターネットで読むことができます(The Project Gutenberg eBook of Bushido, by Inazo NitobÉ, A.M., Ph.D..)。今回紹介するのは岩波文庫矢内原忠雄氏による日本語訳なので、英語が読めなくても一応読めるでしょう。一応と付けたくなったのは、自動車を暴走させて一つ間違えば歩行者を殺しかねない動画を自分から YouTube に投稿するような今の日本の若者には、この本に書かれているような精神的規範は微塵も感じられないし、この本に書かれているようなことが理解できるわけがないだろうと思ったからです。

南総里見八犬伝という小説に出てくる八犬士は「仁義礼智忠信孝悌」の8つのマテリア、いや違った、を持っていますが、これが武士道においてはキーワード、ていうかシンボルみたいなものです。例えば、武士道の第五章は「仁・惻隠の心」、第三章は「義」、第六章は「礼」というタイトルが付いています。智は第十章「武士の教育および訓練」に書かれている内容が関連するでしょう。第九章が「忠義」、第七章の「誠」は原文では「VERACITY OR TRUTHFULNESS」となっており、信に通じます。

信実と誠実となくしては、礼儀は茶番であり芝居である。
(p.69)

日本人は形から入るといいますが、武士道の真髄は内面です。形だけでは意味をなさないのです。では何故誠実であるべきかというと、

正直は引き合うというのである。
(p.74)

というのが面白いですね。ヘンなところで打算的なようにも見えます。これも言いたいことはそのような表面的な話ではなくて、国民が皆正直で、相手を信頼できるような社会と、あるいは他人を騙してだしぬいてやろうという考え方が普通である社会と、どちらが望ましいのか。武士の出した答は「正直にしてよし」なのです。

とはいっても、武士道というのは所詮は武士の道、武士でない人達は一体武士道にどう縛られているのか、という疑問があります。しかも明治維新で武士は形式上消滅しています。刀を持つことが原則として禁止されたので、武士の魂がもてません。ちなみに刀の話は第十三章に出てきます。

刀の話が出たところで紹介しますと、やはり海外において異様で理解し難いのが切腹という儀式のようで、これに関して第十二章で細かい手順まで紹介した上で、

武士道は名誉の問題を含む死をもって、多くの複雑なる問題を解決する鍵として受け入れた。
(p.109)

と述べていますが、果たしてこれが諸外国の異文化をベースとする人達のみならず、今の日本人に伝わるのでしょうか。三島由紀夫に一言訊いてみたいものです。

残る孝悌は仁のサブクラスですが、

私は「孝」についての一章を加えることのできなかったことを遺憾に思う。これは「忠」と並んで日本道徳の車の両輪をなすものである。
(p.15)

このように増訂第十版に書いてあることからも、孝についての詳細は出てきません。

ネットの大学受験の掲示板を見ていると敗者の投稿に頻出する表現があります。即ち「いい大学に入って親孝行したかった」というのです。大学は自分のために行くところではないようです。もちろん親孝行というのは日本独特の文化ではなく、全世界に普遍的な発想ですが、入試で不合格になったことを孝行できないと嘆くというのは何か失われてしまった武士道の欠片が妙なところに残存しているような気がしないでもないのです。


武士道
新渡戸稲造
矢内原忠雄
岩波文庫 青118-1
ISBN: 4-00-331181-7