Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

レベル98少女の傾向と対策

なぜか逆順に紹介してしまうのですが、今日は前回紹介したアレの2作目です。

5つの短編が入っています。順に紹介すると、まず「人間の権利とは」。

狸退治の話です。ちょっと違うか。退治するのは外来種なんですけど、この話は神とは何かをうだうだ解説しているところが面白い。日本では神様には勝手になれるというのは海外では度肝を抜かれる発想でしょうね。日本でも意外かもしれませんが。

かえって昨今、動画をアップロードするだけで神扱いですから
(p.22)

言われてみたらそうか。市子の読書の趣味も分かって興味深いです。どんな本読んでるか訊かれて、

ドグラ・マグラ
(p.11)

中1女子が読む本じゃないと思うけど。どんな本か説明するのは面倒なので、知恵袋に伝説のベストアンサーがあるのでリンクしておきます。

息子が「ドグラ・マグラ」という本を持ってます表紙のイラス... - Yahoo!知恵袋

2つ目は「三の姫の閨」。助六の話。昔話のようにほのぼのした怪談なので、特に解説なしで。すみません。

3つ目が「生きる目的や生まれてきた理由なんてない方がいい」。これは傑作なんだけどなにかと説明し辛い話です。

男子だからルナルナなんて知らねーし。
(p.74)

みたいな話。出産の痛みとかそういうのも分かりませんが、後の話でそういうのが出てきます。 この話はお友達の楓ちゃんが大活躍!

「解決!」
「何がだ!」
(p.75)

凄い言霊が発動したようです。 ちょっと感心したのが、

「蛇の人も女の人だよね?」
「爬虫類に私の気持ちはわからない!」
(p.65)

蛇の人ってなのかというのはさておき、爬虫類にはわからないという発想は確かにそうなんだけど、爬虫類でも人なのか?

助六が下っ端妖怪を瞬殺するシーンは見応え(?)あります。そのレア妖怪(助六)を瞬殺(殺してないけど)してしまう市子のレベルが分かるというものです。

4つ目が「文京区の休日」。助六と市子がデートします。狐って雑食なんですね、個人的には最後に投扇興やってる毛野が気になりますが。

さて、ここからが本番というか、最後、5つ目の「私の不幸はあなたのそれではない」。 この話がこの本の半分以上を占めています。長編、という程でもないか。中篇ですが、テーマはかなり重くて、先の戦争話とか、日本史が苦手な人には辛いかもしれないし、例によってサブカルとか知らないと意味不明な比喩が無節操に出てきますから、分からない人には何のことだか。

「“大いなる力には大いなる責任が伴う”ってよく言うじゃん。誰の言葉だっけ?」
アメイジングのつかない映画『スパイダーマン』一作目、ベンおじさんの台詞じゃな。
(p.138)

答えるのは史郎坊ですが、退役軍人はスパイダーマンなんか見てるのか。アメリカは敵だったから密かに伏線張ってます。この史郎坊は風呂に入らないので、入ってこいといわれて、

穢れを落として、成仏してしもうたらどうしてくれる
(p.143)

霊体には新陳代謝がないから洗う必要はないというのですが、霊体にもケガレが付く(憑く?)から風呂に入れというのは理屈になってるのかな。史郎坊が風呂でシャンプーしたらサラサラのストレートヘアになったというのはリアルな話だけど何か経験あるのでしょうか。

この話、市子と芹香がライブに行くのでお父さんの大雅が付き添いで付いていき、泊まったホテルに幽霊がわんさか出るという設定です。お父さんも霊能力者なのですが、なぜか親が死んだときにどうしたらいいという話になったときに、

自分で成仏するし法事とか永代供養とかしなくていいから。
(p.147)

自分でできるものなの? 意外と便利そうですね、霊能力。

ライブが終わって市子が寝た後でドタバダの騒ぎがあって、雀さんがバトルで活躍します。この時の愚痴が、

たまにメシ食わせてもらうだけで給料でねえし寝なくても死なないから不眠不休だしブラックってレベルじゃねえぞ
(p.165)

化け物系って基本的にダークサイドだから仕方ないのか。試験も何にもないので楽かなと思ったのだけど。この時にバトルした相手は霊に憑かれた女子高生で、緊急除霊したため熱を出してしまいます。治療のためにお医者さんの大雅が呼ばれますが、この人、ほぼやる気がない。普段は警察でガイシャの死体解剖してるんだっけ?

生きてる人間は専門外なんだけど
(p.166)

医師免許を持ってるから治療しても構いません。診察もできます。

冷たいミニペットボトルとかを脇の下や股に挟むのも効果的だよ
(p.166)

といったらスケベ助六がすかさず反応します。

「…女子高生の股を開いていいのですか?」
(p.166)

実際に開いたかどうかは書いてないので知りませんが、股間にペットボトルを挟むというのは「無邪気の楽園」にも出てきたネタだと思うけど、あれは小学生か。アレ紹介していいのかな、一応、成人向ではなくて普通のコミックのはずだけど。余談はさておき、

「下手の考え休むに似たり、って言うけど休むのは大事だ。休む方がよっぽどいいときもある。」
(p.167)

結構含蓄深い現実的なことを言うのが大雅の役目のようです。愚痴レベル高いです。

一生懸命頑張ったのに誰も褒めてくれないのって案外つらいよ?
(p.177)
他人を助けたいと思うのは、大抵自分の問題がうまくいってないときさ。現実逃避だよ。
(p.190)

こんな感じの言葉がポンポン出てくるのです。

話変わって、この話、天使のラッパとかいう花が出てくるのですが、

元ちとせの歌のようですなぁ、あれは赤い花じゃったか?」
「よく写真に写ったな」
「“隠者の紫”(ハーミット・パープル)の力で
(p.202)

歌というのはワダツミの木ですね、隠者の紫ってジョジョ? このシリーズ、先のスパイダーマンのようにネタバレしてくれる箇所はまだいいのですが、ここみたいに何の説明もなくサブカル系の知識前提でネタが出てくるから分からない人は特に意味不明ですよね。蛇足しておくと、天使のラッパというのは聖書ですよ、黙示録

さて、この話のテーマは戦争です。妖怪大戦争ではなく、第二次世界大戦。後で建物を使うために周辺の居住地域だけ焼いた、なんてのは教科書には出てこないでしょ。事実ですけど。迂闊に書いたら言霊発動しそうなので書きません。一言だけ、史郎坊のお言葉。

東京から鈍行列車で一時間の首都圏に原子力空母が居座っとるのに、たかが輸送ヘリが何だと言うんじゃ。
(p.205)

ヘリってオスプレイのことでしょうか。米軍機が落ちたら大騒ぎするのは当然として、ここ最近何か民間機とか自衛隊機とか落ちてたような気もするけど、騒ぐ人もいないような。もう少し騒いだ方がいいような気もしますが。そもそも、原潜なんて、どこにいるかも分からないし。案外たまちゃん【謎】が知ってるかもしれない。


レベル98少女の傾向と対策
汀 こるもの 著
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990318