Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ただし少女はレベル99

やっとシリーズ最初の作品です。4つの短編が入っています。

1つ目「幸福には限度額がある」。主人公は出屋敷市子さん。どんなキャラか説明から入るのですが、

出屋敷市子はデビッド・カッパーフィールドだ。
(p.8)

最初から分からない人には分からない演出です。誰? 大丈夫、後で説明が出てきます。

自由の女神とか消したりする人……だっけ
(p.21)

そうだっけ? 知らないと余計分からなくなるので、ググった方が話が早いですね。カッパーフィールドはイリュージョニスト、魔法使いです。市子は中学1年生のリアル魔法使い。13歳からお父さんの大雅さんと暮らしています。この時に十穀断ちというほぼ断食技をしてからやって来て、

「慌ててコンビニの冷凍うどんぐだぐだになるまで煮て食べさせてさあ、体脂肪率測ったら、10!」
(p.131)

スリムですね。この市子が同級生の芹香にケータイで写真を取られて呪われて大怪我をして入院するというストーリーです。写真に写ると魂が吸い取られるという伝説は昔からありますが、携帯のデジカメでも吸い取れるようです。そういえばこの前、深夜の神社でスマホで撮影したときにヘンな所に顔認識のマークが出たので後で確認したら霊写真になっていました。

このシリーズの話は、オカルトとか心霊系のストーリーかというと、さりげなくITが入ってくるというのがミソなのです。

全ての道具は付喪神になる可能性があるな。
(p.50)

ヌコが長生きするとバケヌコになるように、日本では長持ちすればモノも神になります、これが付喪神。携帯電話もモノなので可能性はありますね。以前紹介したように、他の巻ではバーチャルな妖怪も出てきます。しかしまだ100年モノの携帯やスマホはないはずなのですが。

2つ目の話は「言葉はいつか自分に返ってくる」。人を呪わば穴二つといいますが、同級生の准くんに呪いを解いてくれと頼まれて、市子は邪険に断ります。あっしには関わりのないことです。しかしお約束ということで、おもいっきり関わることになります。

今回は蛇の神使、みずち、みずはがフライングで勝手に片付けようとしますが、それを市子が寝間着のままで追いかけます。こういうのはアニメ化して欲しいですね。蛇はドジって除霊に失敗、市子が後始末してスッキリ解決なのですが、

「確かにすっきりしましたが……すっきりしすぎでは……」
(p.90)

家が家具ごとほぼ吹き飛んでますからね。結局、呪いは解けましたが家が大破されて釈然としない准の口から出た質問は、

お前、何で着物なの?
(p.93)

ここで初めて寝間着のまま出てきたことに気づいて慌てて逃げ出すのですが。一件落着なのか一見落着なのかよく分かりません。そこで世話役の史郎坊、あ、この人は天狗です、人じゃないか、が市子の父親の大雅にちゃんと教育しろと説教するのですが、一体どうすればいいのかというと、

よく考えたらおぬしにできることなど何もなかったわ
(p.97)

ふざけたことを言うので、じゃあ何で相談したんだと突っ込んだら、この時の史郎坊の返事が面白い。

他人と言葉で会話すると、状況を整理することで思考が一段階進むんじゃ
(p.97)

たしかに。勉強法の本に出てくる裏技ですね。会話には脳を活性化する働きもあります。

その後、市子が図書室で借りた少女地獄を読んでいるシーンが出てくるのですが、最近は中学校の図書室に夢野久作なんて置いてるのでしょうか。夢野も今ではレアっぽいけど、この本はアニメ、マンガ、ラノベのネタは、基本、暗黙の了解で説明なしで出てきます。

「他に五人いんの? それって学園都市のレベル5的な?」
(p.108)

他にもプリキュアとかHUNTER×HUNTERとか、ジョジョの奇妙な冒険とかハリーポッターとかまどマギとか、いろいろ出てきます。学園都市はとある魔術の禁書目録、説明するのが面倒なので勝手に調べてください。

3つ目の短編は「人生に無駄な伏線はない」。見所は、みなりのいいオジサンと市子の掛け合いと、大雅が市子を引き取ったときのぶっちゃけ話です。オジサンは元警視総監なんですけどね。トイレの話が面白いです。女子は何で連れ合ってトイレにいくのかと質問したら、オジサンはトイレの数が多いからだと答えます。トイレが1つしかなかったら1人ずつ行くぞ。そりゃそうですけど、

今は皆でトイレに行く正当な理由はないがそのうちに理由ができる
(p.143)

後付で理由ができるというのが面白い。女の子が一人で出歩くなというところで、これは名言だと思いました。

どうか学校の行き帰りだけは友達と一緒にいてくれないか。今は無意味に思えてもいつか意味ができると信じて
(p.174)

さて、大雅のぶっちゃけ話ではハイジがよく出てきます。

アルムおんじに感情移入するとひどいねあの話
(p.130)

ハイジって最近の若い人は家庭教師のトライしか見たことないでしょ。

ハイジがおいしいって食べてたチーズと黒パンってあれすごい粗食だよね!
(p.132)

食材がいいと美味いのかな。粗食なんていったらネロが食べてたのはもっと凄いけど、ていうか最後は食べてないか。この時の話し相手が警視庁参事官の湊さん。「友達はいなくても生きられる」と断言して、

選挙のときでさえ中学生の同級生から電話なんかこないよ。
(p.135)

ぼっち万歳。私も友達いらない派だから、これは何となく分かるな。実際は友達多かったけど。今いたっけ。

この話は、さらに市子が刺されたり芹香が拉致されたりとイベントてんこもりですが、そろそろ書くの疲れたので次行きます。

最後の話は「私の幸せはあなたのそれではない」。この話は、もう

エンドレスエイトじゃん。あるいは『Steins:Gate』じゃん、あるいはまどかマギカじゃん」
(p.190)

これだけで分かりますよね。エンドレスエイトハルヒ。アニメで深夜に放送していた時リアルで見てました。かなり腹立てた人もいたような。タイムループ物アニメ作品って言葉が出てくるけど、この本が出たときにはまだ公開されてなかったけど、今なら「君の名は。」がそうですね。過去に行って都合がいいように歴史を書き換える系の話です。一発で簡単に成功するような甘い世界ではないので、クリアできるまで何度もやり直します。リセット技さくれつ。途中で運命が変わって、大雅が死んでしまうシナリオになった。それを市子が上書きして死なない世界に改変しようとしますが。

「申し訳ありません、黙っていましたが私には大抵のことができます」
「それは聞かなくても分かるけどそうじゃなくて」
(p.208)

流石は親子って感じがします。


ただし少女はレベル99
汀 こるもの 著
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990097