Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

夜行

シリアスな作品です。夜は短し…のノリで読むと内股すかしを食いますのでご注意。

百鬼夜行というのはモノノケですね、私は物の怪は得意なのです【謎】。夜行といえば電車用語でもありますが、

「断じて冬でなくちゃ、冬はあけぼの」
(p.112)

春はあげもの、というキャッチコピーが有名ですが、冬は初めて見ました。その後に理由が書いてありますが、こういうのは鉄ちゃんではないと分かりませんよね。個人的には森見さんは京都系の作家みたいな先入観がありますが、この物語も京都ローカルの地名がたくさん出てくるのですが、他の土地もいろいろ出てくるのが面白いです。

飛騨高山の駅から富山に向かって高山本線が走っています。その途中、岐阜と富山の県境に猪谷という駅があります。高山駅からはだいたい一時間ぐらいの行程でしょうか。もし列車ではなくて自動車で猪谷駅まで行くなら、国道41号線を辿ることになります。
(p.86)

今は Google Maps というのがあるので、猪谷の駅も、国道41号線も、航空写真で追いかけることができますが、この道は本当に周囲に何もない、ていうか、もろ山の中を通りますね。自分の部屋から聖地巡りができます。

トーリーの背景は、他の小説でもチラチラと出てくる異世界です。和風で幻想的な光景が出てきます。幻想といえば妄想と紙一重ですが、面白いと思ったのは、チョイ役の児島君のセリフで、

「妄想と言っても僕のは品の良い妄想で」
(p.118)

妄想にそんなランクがあったとは。しかし見ているものがリアルなのか妄想なのかというのは、森見さんの小説はどれも謎ですね。

見れば見るほど、それがへんなものに見えてくるの。そういうことってありませんか?
(p.164)

そりゃゲシュタルトが崩壊していますがな。

最後におっとっと、みたいな感じのストーリーなのでうっかりするとネタバレになりそうで書き辛いです。ちなみに、この物語で一つだけ残念なのが、

その「曙光」という作品が気にかかる。
(p.210)

このあたりを読んだところで仕組みが分かってしまったことです。森見さんの作品をいくつも読んでいたら、自然に出てくる発想なのかもしれませんが。


夜行
森見 登美彦
小学館
ISBN: 978-4093864565