Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

キノの旅 (6) The Beautiful World

今日は「キノの旅」、第6巻。ちなみに、これ毎日1冊読んでいるわけではなく、数冊を一気に読んで、下書き程度に書いてあるのです。それを1日1巻ずつ、仕上げて投稿しているのです。

第一話「彼女の旅」。ちょっとキツい話です。

あなたは〝自分は反省しています〟って被害者の遺族に訴えかければ、〝いいことをしているから自分は救われる〟とでも思っていただけなんじゃないか
(p.32)

事故で人を殺してしまった人が、死んだ人の恋人に毎月反省の手紙を送っていた、という話です。思い出すからその話はしないでくれ、というのは現実でもよくありますね。そういうえば、さだまさしさんの歌がありましたね。

第四話「長のいる国」は、毎度のどんでん返しパターンの話ですが、この話はお師匠と相棒の出会いの話になっています。相棒って偽山賊だったんですね。

第五話「忘れない話」は、今の日本を表現しているような気がしますね。

「人間は忘れることができるから素晴らしい、って考え方もある」
(p.104)

AIにはできない芸当でしょうか。この国は洪水の悲惨さを忘れないために毎年セレモニーをしているのですが、それは本当に「忘れない」ということなのか、という奥の深い問いかけです。キノがとある樵に言われた言葉、

燃えた森はもう森じゃない。山火事の後の谷とその下流には、決してとどまってはいけないよ。
(p.121)

こういうことこそ忘れてはいけないのです。災害があったときに重要なのは、どうすれば回避できたかを考え、その対策をすることなのです。

第六話「安全な国」は、危険な要素を全て排除していく方針の国ですが、このやり方だと人間の危機管理能力…いや、危機対応能力かな、がどんどん低下していくので、書かれているような社会にはならないような気がします。

〝危険な物〟なんてどこにもなくて、〝危険な人間〟がいるだけじゃないのか?
(p.164)

個人的にはそうじゃなくて、〝危険な物〟しかない、というのが真実だと思っています。

第八話の「祝福のつもり」。これはいい話です。シズさんと少女の会話。

「なるほど、つまり君は、親やきょうだいより、自分さえよければいいと」
(p.203)
「はい――。自分さえよければいいです。
(p.204)

願いを叶えてあげると神様に言われたら「世界が平和になりますように」のようなモノスゴイことを願う人がいるかもしれませんが、それは「自分さえよければ」に含まれるのかどうか。このモチーフも「キノの旅」にはよく出てきます。第一話のパターンとも共通点があります。

「相手のために」と考えて行動したら失敗するというパターンは、賢者の贈り物とか。結局自己満足でしかないのか、という所を考え始めると無限ループに陥ります。


キノの旅 (6) The Beautiful World
時雨沢 恵一 著
黒星 紅白 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4840221559