Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

俺たちの仇討-はぐれ長屋の用心棒(42)

今日の長屋シリーズは「俺たちの仇討」。今回のゲストは戸坂と彩乃。このシリーズ、武士と娘の組み合わせが多いですね。

彩乃の父親の敵討ちに武士が助太刀という仇討ちパターンです。この戸坂は源九郎の昔馴染、

「わしは、戸坂だ。戸坂市三郎だよ、士学館でいっしょだった」
(p.22)

源九郎が用心棒をやっているというのを聞いて訪ねる途中だったのですが、そこで敵に待ち伏せされてピンチ、というところに源九郎が駆け付けたわけです。この戸坂が、変な剣を遣います。

わしが工夫したものでな、酔剣と呼んでいる。
(p.37)

ジャッキーチェン!

ではなくて、剣の奥義でいうところの遠山の目付です。一点集中ではなく全体を見て並行処理する技です。

さて、今回も敵が大勢いるので、一人ずつ片付ける策に出ますが、まず狙ったのか伊東。

「伊藤を捕らえるなら、早い方がいいな。どうだ、明日にも伊東の屋敷近くに張り込んで、姿を見せたら押さえないか」
(p.82)

拉致が板についてきたというか、テロ集団的になってきましたね。サクっと拉致って、次に拉致したのは平松。この平松、半ば騙されて相手の仲間になっているので、

「おぬしも、倉森たちといっしょにここに押し込み、戸坂たちを襲い、長屋の女子供まで斬り殺すつもりでいたのだな」
p.115

とか、挑発するようなことを言うと、迷いが生じます。ジジイと小娘が相手なのに何で大勢で急襲するのだ、とか問い詰められると答えられない、ていうか何で最初から気付かないですかね。

それでも敵は長屋を大勢で急襲します。これを用心棒達は何とか撃退しますが、すると敵さんは長屋の子供を人質にとって、長屋から出て行かないと子供を殺すと脅しをかけます。汚いですね。 敵は勝本源八郎という旗本の屋敷にいて、ここに子供が監禁されていることが分かる。 そこで、用心棒は子供が監禁されている旗本屋敷に忍び込み、人質を取り戻します。

しかし、このままでは倉森を片付ける算段がつかない。相手が出てくるのを待っている暇はないだろうということで、安田が名案を思い好きます。

「倉森たちと同じ手を使ったら、どうだ」
(p.189)

どんな手かというと、

「房吉と同じように、人質をとるのだ」

旗本の勝元を人質にとってしまえというのです。そうすれば、倉森も隠れているわけにはいかないだろう。勝元の動線は調査してあるので、出かけるときを狙えば拉致できるというのです。

やはりテロリストのレベル高くなっています。

ラストバトルは4対4のガチ勝負。倉森の相手は敵討ちにきている彩乃とジジイ。ジジイが酔剣で攻めている間に彩乃が後ろから突き刺すという、とても武士とは思えない戦い方ですが、ジジイと小娘だから仕方ない。もともと父親が大勢に殺されているから卑怯とか言われる筋合いはない。ジジイと倉森が一合した後、二人は後ろに飛びます。二の太刀を避けたいからです。しかし後ろに飛べばそこに小娘が懐剣を持って立っているわけです。ウマい作戦だ。

さて、最後は道場主の牧沢と菅井だけ残ったのですが、勝負するのか?

「いや、わしらは牧沢どのを斬る気はない。戸坂どのと綾乃が、敵の倉森と伊達を討ち取ったので、できればこのまま長屋にもどりたいのだ」
(p.265)

無駄な争いをしたくないというより、道場主を斬ったりしたら弟子の敵討ちがイヤという話です。牧沢もバカ強いのを3人も相手にしたくないので、

「おれも、おぬしたちには何の恨みもない」
(p.265)

とかいって、何もなかったことにしようという手打ちになって一件落着です。命がかかっていますからね、クールです。


俺たちの仇討-はぐれ長屋の用心棒(42)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668780

磯次の改心-はぐれ長屋の用心棒(32)

今日も「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから、「磯次の改心」です。「改心」といえば、思い出すのはO.ヘンリーさんの「よみがえった改心」(A Retrieved Reformation)ですね。赤塚不二夫さんがおそ松くんでパロディを描いています。本作はそんなに大それた改心ではないです。

先にネタバレしておきますが、磯次というのは長屋の住人「おきく」が襲われていたときに助けてやったということで長屋に住むことになった男です。しかしこれが実はヤラセで、磯次はスパイなのでした。

まず、長屋の住人、弥助が殺されます。

「す、簀巻きになって、堅川で揚がったんでさァ」
(p.27)

簀巻きというのは巻きずしみたいな感じですね。ヤクザの殺し方です。次に、春日屋という店の主人がやってきます。

「一昨日、娘が連れて行かれました」
(p.48)

連れていかれたのは、おすみ。借金のカタです。借金といっても、一度返した三十両をもう一度払えみたいな言い掛かりみたいな話なので、突っぱねたところ、強制的に連れていかれたわけです。

連れて行ったのは権蔵親分。貸元で賭場を開いている悪者なので、とても手が出せない。そこで長屋の用心棒に助けてくれたら二十両と話を持ち掛けた。長屋とやくざが結託したらボロ儲けできそうだが…

次は

「殺られやした! 岡っ引きの、佐吉が」
(p.75)

どうも後手後手に回っている。調べを進めていると、妙なことに気付きます。

「相撲の五兵衛とそっくりだ!」
(p.112)

以前退治した奴と手口が似ているのですね。しかし五兵衛は死罪になっています。生き返ったのか?

それにしても次から次へ先回りされるので、妙だと思った源九郎は、囮を使って誰か跡を尾けるのを見つけて尾行する、という作戦に出ます。すると、ひっかかったのは、

「あいつ、磯次だぞ」
(p.215)

もう200ページまで行ってますからね。そんなに気付かないものなのかな。そういえばこのシリーズ、源九郎とか割と尾行に気付かないことが多いです。老眼なのでしょうか。で、磯次ですが、おきくに惚れてしまって完全に源九郎側に寝返ってしまう。改心なんてキレイな話じゃない(笑)。とにかく磯次がベラベラ喋ってくれたので、一味をお縄にして御用だ、という結末です。

今回のラスボスは清水。例によって源九郎が誰何します。

清水、おぬしほどの腕がありながら、なにゆえ、金ずくで人を斬るようになった
(p.275)

清水はこう言います。

御家人の冷や飯食いでは、剣など身につけても食っていけんからな。……おぬしらも、似たようなものではないか。金ずくで、おれたちを斬ろうとしているのだからな
(p.275)

ですよね。


磯次の改心-はぐれ長屋の用心棒(32)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575666991

老剣客躍る-はぐれ長屋の用心棒(35)

今日は、はぐれ長屋のシリーズから「老剣客躍る」。35巻です。今回は女・子供が襲われているところに源九郎が出くわして助けてやるパターンです。後日お礼に来たときに、ジジイの武士が一緒にやってきます、

この老剣客の名前が青山弥太郎。昔、源九郎と同じ道場で修行した仲間で、腕が立つジジイなのです。おんなは「おさき」、子供は太助という名ですが、ミッションは「この二人を守ってくれ」です。ただ、襲って来たのが誰なのか分からない。問いただすとモゴモゴしたりして何か怪しいが、青山は知っている仲だし、依頼金の百両は捨てがたいということで、商談成立です。

後は例によってお家騒動とか利権絡みで横から出てくる悪い奴とか、ぐちゃぐちゃの世界。最後に首謀者、とはいってもハメられてしまった感もありますが、貧乏旗本の中村稲之助のボロ屋敷に乗り込んで、

中村、武士らしく腹を切れ。
(p.267)

と迫る。腹を切れば殿に話をつけて、中村の子供は助けてやるという取引です。しかも、居合の菅井が、

「腹を切る気がないなら、おれが首を落としてやる」
(p.268)

説得じゃなくて脅迫ですね。ということで腹を斬らせて一件落着です。かなり途中省略したけどまあいいや。

さて、オープニングでおさきと太助が襲われていたのは一ツ目橋なのですが、最近、ここに書く前に古地図を確認してどのあたりか調べたりしています。この橋は墨田川に繋がっている堅川という細い川にかかっていて、今は一の橋という名前になっているようです。

はぐれ長屋の茂次が五人を尾行したときには、こんな光景がでてきます。

五人は堅川沿いの通りに出た後、西にむかい、両国橋を渡った。そして、五人は柳原通りを筋違御門の方にむかったという。
(p.82)

その後、和泉橋のたもとで3人と2人に分かれてしまって尾行も大変。

黒川という武士の塒(ねぐら)を探すシーンでは、

源九郎たちは、柳原通りを経て神田川にかかる昌平橋を渡って金沢町にむかった。明神下と呼ばれる神田明神の東側の通りから右手の通りに入って間もなく、
「あれが、浜崎屋ですぜ」
(p.126)

浜崎屋というのは老舗の料理屋で、黒川はその先に住んでいるという情報を手に入れているわけです。

このあたりの地名が Google Maps で簡単に出てきてくれると助かるのですが。


老剣客躍る-はぐれ長屋の用心棒(35)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575667530

銀簪の絆-はぐれ長屋の用心棒(28)

今日は長屋シリーズに戻って「銀簪の絆」。銀のかんざしなんて、お洒落ですね。こういうアイテムは今でも流行すれば面白いと思うのですが。

今回の悪役は、

天一味の仕業らしい
(p.23)

一味といわれると何となく大物感が強化されますね。七味だと辛さの中にも風流あり、みたいな。聖天一味は大店に夜盗として忍び込み、千両箱を盗むという豪快な泥棒集団です。賊の名前の由来は浅草聖天町のようです。

そして、今回のゲストはお熊の弟です。

「舎弟の猪八です。……しばらく、長屋で厄介になるんで、挨拶に連れてきたんです」
(p.37)

猪八戒?

猪八は仕事にも行かずに、遊び歩いてるんですよ。
(p.58)

お熊が嘆いています。そこで、源九郎が猪八に説教をすることになります。源九郎は、猪八に手を見せてみろといいます。

わしは、掌を見ただけで、相手の腕のほどが分かるのだ
(p.76)

その後に、まんざら嘘でもないとか出てくるので、つまり嘘ですね。ハッタリなわけですが、老人にそういうことを言われると信じてしまいますよね。この猪八はどうも挙動が不審です。博奕で借りた金が膨れ上がっています。

七、八両が五十両にもなったのか
(p.152)

だから奨学金を借りろとあれほど…

さて、一味の親分は、普段は店の主人として暮らしているのですが、

「橋のたもとに、古着屋があるな」
「はい」
「あるじの名を知ってるかい」
久兵衛さんですが…」
(p.227)

またマドマギか。いろんな時代で仕事してるなぁ。

さて、源九郎達は、一味が三崎屋に押し込むという情報をgetしたので、罠を張ります。

天一味が三崎屋に押し入ったとき、待ち伏せて一気に襲えばいい
(p.240)

現行犯で逮捕するわけですね。

今回のラスボスはワルプルギスの魔女…ではなくて渋谷という名前です。渋いです。横雲という必殺技を持っています。一味がお縄になっているドタバタ騒ぎの時に、一人だけ外に逃げ出したのですが、なぜか外で源九郎を待っています。

「渋谷、逃げないのか」
源九郎が対峙して訊いた。
「逃げるのは、おぬしを斬ってからだ」
(p254)

無駄にカッコイイ。初手は互角で、菅井が駆け付けるのですが、源九郎のスイッチが入っているので「手出し無用」とか言って助太刀させない。とかいってるうちに捕方がわさわさと大勢駆け付けてしまうので、これでは勝負にならないとみて、渋谷はとりあえず勝負は預けたと言って一時撤退します。

源九郎達は捕まえた一味から渋谷のアジトを聞き出して、そこに向かいます。源九郎が呼びかけると渋谷が出てくる。逃げないのかと訊いたら、

「逃げる気なら、今朝のうちに江戸から出てるよ」
(p.274)

源九郎が勝負しに来るのを待っていたというのです。なかなか渋い奴です。こういうのは味方に引き入れてもいいと思うのですけどね。


銀簪の絆-はぐれ長屋の用心棒(28)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575666243

白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険

今日紹介するのはファンタジー。「白と黒のとびら: オートマトン形式言語をめぐる冒険」です。知らない人にはなんやソレというタイトルですが、知っている人は多分知っている。情報科学の分野です。

先にどういうネタが入っているかを紹介しておくと、

・正則言語と有限オートマトン
・有限オートマトンの決定性・非決定性と正則表現
・有限オートマトンと実際の機械
・文脈自由言語とプッシュダウンオートマトン
・正則言語と文脈自由言語に対する反復補題
・文脈自由文法とプッシュダウンオートマトンの透過性
・文脈自由言語の統語解析
・文脈依存言語と線形拘束オートマトンチューリングマシン
万能チューリングマシン
・対角線言語と決定不能

こんな感じ。私はこのあたり全部知っているので、コレはアレだなという感じで読めるのですが、知らない人でも読めるのだろうかと思って読んでもらったら、案外読めるみたいです。

主人公はガレット・ロンヌイ。魔法使いの弟子です。師匠の魔法使いの名前はアルドゥイン。何でも知っていて何でもできる感じのキャラです。第9章の「不毛な論争」で、校長がアルドゥインに「君の結論は正しいと分かっている」と言うのですが、

「校長、そのような判断は非常に危うい。私だって間違うことがあるし、愚か者と思われている人間であっても、正しいことを言うことがある」
(p.160)

確かに、正しいことは嘘つきが言っても正しいし、間違っていることは教授が言ったって間違いですね。しかし、日常生活では、嘘つきが言えば嘘に聞えるし、大学教授がテレビで何か言ったら正しいような気がするから不思議ですよね。お師匠様は、とことんロジカルな性格のようです。ただしこれが結構スパルタです。

部分点だと? 甘えるな。するべきことを全部していないのは、何もできていないのと同じだ。
(p.43)

全部していない、なんて表現は部分否定か全否定か分からないからよくないですけどね。

ガレットは、いろいろ仕事をやらされますが、第6章の「祝祭」では、「あべこべ祭り」というお祭りにミハという女の子を連れて行く、という仕事を命じられます。このお祭りには、普段の自分と正反対の恰好をするルールがあります。てなわけで、ミハは猫のコスプレで出てきます。

「あのね、ミハは犬が大好きなの。だから犬の恰好をしようと思ったの。でも、犬の反対は猫でしょ。だから、猫なの」
「ああ、そう」
(p.95)

ふーん、そうかにゃ、という感じですがいまいちわかりません。ガレットは下っ端なので偉い魔法使いのコスプレで出かけます。ワナみたいなのにハマってしまいますが、何とか切り抜けます

この物語の魔法ですが、どういう原理で発動できるのか謎なのですが、次のような設定があるようです。

魔法を使うというのは魔術師の仕事のほんの一部でしかない。魔術師は、知力、体力をはじめ、あらゆる能力を鍛え、役立てるものだ。
(p.121)

ま、プログラマーと同じですね。魔法を使うのに必要な能力というのも、

「お前はよく分かってないようだが、魔法を使うためだけに必要な特殊な能力というものは存在しない。しいて言うなら、体力、精神力、生命力など、人間が持つ力全体がそれにあたる。したがって、個人差はあれど、誰でも潜在的には魔法を使うことができる」
(p.139)

人間だって、信じれば空も飛べるはず。魔法そのものに関しては、次のような設定が。

魔法というのはある意味、世界の中に隠された『パターン』や『構造』を見いだし、それを精神的に操作することであると言える。古代ルル語や古代クフ語は、そのための鍵の一つだ。よって、それらの言語をよく知らなくてはならない。
(p.139)

デザインパターンとか出てきそうですが、この話はオートマトンのネタなので、まさにパターンマッチングの話と解釈すべきのようです。

第12章「解読」では暗号解読に挑みますが、こういうのが得意なユフィンさんにコツを聞くと、

まずその一、『短い文から手をつけよ』。その二、『ほんの一部でも正しい訳を見付けよ』。その三『一部でも解読できれば、残りは手元に飛び込んでくる』。
(p.209)

解読の鉄則だそうです。残りが飛び込んでくるかどうかは運ですね。

最後はガレットは後継者になるための試練に挑みます。この難問をクリアしたガレットに師匠が言う言葉がいいですね。

何もかも自分でやらなければ、自分でやったことにならない、とでも思っているのか? そういうのはな、子供の発想だ。大人はそうは考えない。どんな人間にも、力の及ばない面はある。やり遂げなくてはならない仕事が大きなものであればあるほど、一人の力ではどうしようもなくなるものだ。そのようなときは、自分に何が必要で、何が足りないかを冷静に考え、頼るべき人に適切な仕方で頼るのだ。
(p.299)

大規模プロジェクトは一人でやろうとしてもどうにもなりませんからね。


白と黒のとびら: オートマトン形式言語をめぐる冒険
川添愛 著
東京大学出版会
ISBN: 978-4130633574

悲恋の太刀-はぐれ長屋の用心棒(36)

今日は長屋シリーズから「慈悲の太刀」、36巻です。「神隠し」の前に紹介すればよかったかな。

オープニングは女が斬られそうになっているところに菅井が出くわすシーンです。女を守る武士は一人。相手は3人で大ピンチ。いつものパターンですね。菅井が助太刀しますが、武士の数では2対3で苦戦しているところに、見物人が菅井の味方をして石を投げたりするから、これはたまらぬ。ということで相手が退散して何とか生き延びます。

襲われていた女の名前は、ゆい。

菅井は、ドキリとした。ゆいが、若いころのおふさに似ているような気がしたのだ。
(p.18)

おふさというのは、菅井の亡き妻です。ゆいは斬られて深手ですが、長屋に連れてきて医者に見せてやり、何とか助かります。そこで源九郎は、

……どうも、菅井の様子がおかしい。
(p.28)

流石は剣の達人。僅かな気配の違い【謎】も見逃しません。さて、この女ですが、

「ゆいさまは、出羽国倉沢藩の勘定奉行であられた楢林四郎兵衛さまのお子でございます」
(p.36)

勘定奉行におまかせあれ的な。「あられた」というのは、このお奉行様、既に斬られて死んでいるのです。ゆいはその敵討ちに江戸にやってきて、敵は見つかったが返り討ちにあう所だったのですね。

ヤバい仕事なのですが、藩からも助っ人がやってきて、ゆいの助太刀をしてくれということで、百と十両という金額が提示されて、契約成立です。いつも思うのですが、ヤクザな連中ですよね、はぐれ長屋。

さて、ゆいさまは傷が直ると菅井に居合を教えて欲しいといいます。仇討ちのために腕を上げておきたいのですが、

一年や二年の稽古では、居合で敵を斬れるようにはならない。
(p.79)

そこで、ゆいさまには小太刀を教えることになります。小太刀は既にある程度身に付けているのです。当時の女性の護身術ですね。文庫本の表紙は稽古中の様子でしょうか。

今回のラスボスは津島。岩砕きというコワイ技があります。デビルカッターかな。そういえば子連れ狼に石燈籠を斬り合って勝負するシーンがあるのですが、刀で石とか岩とか本当に切れるものなのか。まあそれはそうとして、源九郎はいろいろ脳内でシミュレーションしますが、津島に勝つパターンが思いつかない。とにかく相手が速すぎるのです。

もう一人、仇討ちの相手は重里。

菅井は、重里との立ち合いを想定し、ゆいに重里の左手後方から突きをみまうことだけをやらせていた。
(p.188)

カムイ伝にも出てきますが、力がないなら突き殺すのがセオリー。急所を確実に破壊するわけです。左手後方というのは、菅井が重里と闘っているところに横から突っ込ませる作戦になります。卑怯な手ですよね(笑)。しかし、明らかに弱い者が命懸けの勝負を挑むのですから、その位のハンデはあるのが当然なのかもしれません。


悲恋の太刀-はぐれ長屋の用心棒(36)
双葉文庫
鳥羽 亮 著
ISBN: 978-4575667738

神隠し

今回は、はぐれ長屋シリーズの37話、「神隠し」。10歳位の少女が行方不明になるというヤバい事件が多発します。

沢田屋の一人娘、「きく」は十歳。突然戻ってこなくなり、神隠しではないかと騒ぎになります。要するに誘拐なのですが、犯人が身代金を要求してこないので探すにも手がかりがありません。そうしているうちに、長屋の住人の政吉の娘「およし」が行方不明になる事件が発生します。およしは十歳。政吉は源九郎に助けてくれと仕事を依頼しますが、金がない。金がないといっても長屋の仲間、断るわけにはいかないので、貧乏なりに探索を始めます。

そうしているうちに、沢田屋の松蔵がその話を耳にして、うちのきくも探してくれと依頼しに来ます。来ました金づる(笑)。50両 get した長屋の用心棒達が俄然本気を出すのですが、そんな矢先、栄造親分の手下の長吉が聞き込みの最中に殺されてしまう。何かヤバい相手に手を出したようです。

死体を見ると

男の額が縦に斬り裂かれていた。
(p.63)

壮絶な死体です。しかしこの刀傷は見覚えがない。凄腕の武士が相手にいるとしか分かりません。ただ、長吉は駕篭を調べていたということが分かった。駕篭に何かヒントがあるのか。

とりあえず長屋に帰ってみると、猪助という人が来ています。猪助は娘のお初が攫われたので、源九郎達が探しているという噂を聞き、助けを求めにやってきたのです。どんどん被害者が増えます。

「そうか。……ところで、お初は器量よしか」
(p.74)

何か本当に危ない話になってきた。犯人は美少女狙いのロリコン?

それはそうとして、猪助によれば、お初が船寄に下りていくのを見た船頭がいたといいます。駕篭と舟…謎増。しかも、元岡っ引きの孫六が駕篭の線で探りを入れていると、怪しい奴らが襲ってくる。武士っぽい奴も合流して大ピンチなのですが、何とか人通りの多いところまで逃げて九死に一生を得ます。

そこで源九郎達は罠を張ることにします。孫六と同じルートで駕篭屋に話を聞きに行って、同じ大川端を通れば、同じようにチンピラが尾けてくるんじゃないか。それを待ち伏せしたら捕まえることができるのでは。という作戦です。これがうまくハマったのですが、相手も凄腕の武士がいます。これが菅井とご対面。

「なにやつ!」
武士が鋭い声で誰何した。
「おぬしこそ、何者だ」
(p.111)

既に話が噛み合わない。とかいってるうちに源九郎がチンピラの寅吉に斬りつけた。瀕死の重傷。深手を負った寅吉は最初は黙秘しようとしますが、

いっしょにいたふたりは、おまえを見捨てて逃げた
(p.116)

てなことを言われてムカっときたのか、ベラベラと話し始める。仲間の名前は勝次郎、武士の名前は松沢勘兵衛だ。ただ、細かいことは知らないらしくて、舟に子供を乗せたというところまで喋ったのですが、どこに連れて行ったか知らない、というところで死んでしまいます。

死人に口なしなので、今度は勝次郎を拉致します。子供は舟で連れて行ったことが分かる。何で子供を誘拐したのか訊くと、

極楽を見せるためだと聞きやした
(p.175)

極楽といえば電影少女ですかね。夜通し尋問した後に、昼まで寝ていたらもう相手が勝次郎を取り返しに来た。と思ったら、何と相手チームが勝次郎を斬ってしまいます。口封じですね。何とか人海戦術で追い返した後、勝次郎を見ると虫の息。勝次郎に誘拐した子供はどこにいるのかと聞き直すと、

「ぼ、墨堤のそばの、ご、極楽……」
(p.190)

そこまで言ったところで死んでしまいます。墨堤というのは、

墨堤は、向島の大川沿いにひろがる地で、桜の名所としても知られていた。三囲(みめぐり)稲荷神社、白髭神社、桜餅で知られた長命寺などもあり、江戸市中から多くの遊山客や参詣客が訪れる。
(p.191)

今の東京スカイツリーの近く、墨田川沿いのあたりですね。この辺に極楽があるらしい。ということで現地調査に行きます。

源九郎達三人は、墨堤の桜並木をすこし歩き、三囲稲荷神社近くまで行ってから聞き込むことにした。三囲稲荷神社は、元禄のころの廃人の宝井其角が、ここで「夕立や田を三囲の神ならば」と雨乞いの句を詠み、その翌日雨が降ったという。
(p.206)

昔の俳句は雨を降らすようなパワーがあったのですね。才能アリです。

監禁場所が分かったので、町方に情報を流して御用にしてもらって一網打尽にします。ところがラスボスの松沢がいない。場所は調べて分かったので、最後の決戦に向かいます。源九郎がアジトに行くと、松沢はのんびり酒を飲んでいて、逃げる気配もない。なぜ逃げなかったのか訊いてみます。

「逃げる前にやることがあったのだ」
言いながら、松沢は傍らに置いてあった刀を引き寄せた。
「やることとは」
源九郎が訊いた。
「うぬらを斬ることだ。……ここにいれば、うぬらが顔を出す、そう思ってな。待っていたのだ」
(p.260)

さっさと逃げればいいような気がしますけどね。武士とは辛いものです。


神隠し-はぐれ長屋の用心棒(37)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575667899