Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

悲恋の太刀-はぐれ長屋の用心棒(36)

今日は長屋シリーズから「慈悲の太刀」、36巻です。「神隠し」の前に紹介すればよかったかな。

オープニングは女が斬られそうになっているところに菅井が出くわすシーンです。女を守る武士は一人。相手は3人で大ピンチ。いつものパターンですね。菅井が助太刀しますが、武士の数では2対3で苦戦しているところに、見物人が菅井の味方をして石を投げたりするから、これはたまらぬ。ということで相手が退散して何とか生き延びます。

襲われていた女の名前は、ゆい。

菅井は、ドキリとした。ゆいが、若いころのおふさに似ているような気がしたのだ。
(p.18)

おふさというのは、菅井の亡き妻です。ゆいは斬られて深手ですが、長屋に連れてきて医者に見せてやり、何とか助かります。そこで源九郎は、

……どうも、菅井の様子がおかしい。
(p.28)

流石は剣の達人。僅かな気配の違い【謎】も見逃しません。さて、この女ですが、

「ゆいさまは、出羽国倉沢藩の勘定奉行であられた楢林四郎兵衛さまのお子でございます」
(p.36)

勘定奉行におまかせあれ的な。「あられた」というのは、このお奉行様、既に斬られて死んでいるのです。ゆいはその敵討ちに江戸にやってきて、敵は見つかったが返り討ちにあう所だったのですね。

ヤバい仕事なのですが、藩からも助っ人がやってきて、ゆいの助太刀をしてくれということで、百と十両という金額が提示されて、契約成立です。いつも思うのですが、ヤクザな連中ですよね、はぐれ長屋。

さて、ゆいさまは傷が直ると菅井に居合を教えて欲しいといいます。仇討ちのために腕を上げておきたいのですが、

一年や二年の稽古では、居合で敵を斬れるようにはならない。
(p.79)

そこで、ゆいさまには小太刀を教えることになります。小太刀は既にある程度身に付けているのです。当時の女性の護身術ですね。文庫本の表紙は稽古中の様子でしょうか。

今回のラスボスは津島。岩砕きというコワイ技があります。デビルカッターかな。そういえば子連れ狼に石燈籠を斬り合って勝負するシーンがあるのですが、刀で石とか岩とか本当に切れるものなのか。まあそれはそうとして、源九郎はいろいろ脳内でシミュレーションしますが、津島に勝つパターンが思いつかない。とにかく相手が速すぎるのです。

もう一人、仇討ちの相手は重里。

菅井は、重里との立ち合いを想定し、ゆいに重里の左手後方から突きをみまうことだけをやらせていた。
(p.188)

カムイ伝にも出てきますが、力がないなら突き殺すのがセオリー。急所を確実に破壊するわけです。左手後方というのは、菅井が重里と闘っているところに横から突っ込ませる作戦になります。卑怯な手ですよね(笑)。しかし、明らかに弱い者が命懸けの勝負を挑むのですから、その位のハンデはあるのが当然なのかもしれません。


悲恋の太刀-はぐれ長屋の用心棒(36)
双葉文庫
鳥羽 亮 著
ISBN: 978-4575667738