Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

神隠し

今回は、はぐれ長屋シリーズの37話、「神隠し」。10歳位の少女が行方不明になるというヤバい事件が多発します。

沢田屋の一人娘、「きく」は十歳。突然戻ってこなくなり、神隠しではないかと騒ぎになります。要するに誘拐なのですが、犯人が身代金を要求してこないので探すにも手がかりがありません。そうしているうちに、長屋の住人の政吉の娘「およし」が行方不明になる事件が発生します。およしは十歳。政吉は源九郎に助けてくれと仕事を依頼しますが、金がない。金がないといっても長屋の仲間、断るわけにはいかないので、貧乏なりに探索を始めます。

そうしているうちに、沢田屋の松蔵がその話を耳にして、うちのきくも探してくれと依頼しに来ます。来ました金づる(笑)。50両 get した長屋の用心棒達が俄然本気を出すのですが、そんな矢先、栄造親分の手下の長吉が聞き込みの最中に殺されてしまう。何かヤバい相手に手を出したようです。

死体を見ると

男の額が縦に斬り裂かれていた。
(p.63)

壮絶な死体です。しかしこの刀傷は見覚えがない。凄腕の武士が相手にいるとしか分かりません。ただ、長吉は駕篭を調べていたということが分かった。駕篭に何かヒントがあるのか。

とりあえず長屋に帰ってみると、猪助という人が来ています。猪助は娘のお初が攫われたので、源九郎達が探しているという噂を聞き、助けを求めにやってきたのです。どんどん被害者が増えます。

「そうか。……ところで、お初は器量よしか」
(p.74)

何か本当に危ない話になってきた。犯人は美少女狙いのロリコン?

それはそうとして、猪助によれば、お初が船寄に下りていくのを見た船頭がいたといいます。駕篭と舟…謎増。しかも、元岡っ引きの孫六が駕篭の線で探りを入れていると、怪しい奴らが襲ってくる。武士っぽい奴も合流して大ピンチなのですが、何とか人通りの多いところまで逃げて九死に一生を得ます。

そこで源九郎達は罠を張ることにします。孫六と同じルートで駕篭屋に話を聞きに行って、同じ大川端を通れば、同じようにチンピラが尾けてくるんじゃないか。それを待ち伏せしたら捕まえることができるのでは。という作戦です。これがうまくハマったのですが、相手も凄腕の武士がいます。これが菅井とご対面。

「なにやつ!」
武士が鋭い声で誰何した。
「おぬしこそ、何者だ」
(p.111)

既に話が噛み合わない。とかいってるうちに源九郎がチンピラの寅吉に斬りつけた。瀕死の重傷。深手を負った寅吉は最初は黙秘しようとしますが、

いっしょにいたふたりは、おまえを見捨てて逃げた
(p.116)

てなことを言われてムカっときたのか、ベラベラと話し始める。仲間の名前は勝次郎、武士の名前は松沢勘兵衛だ。ただ、細かいことは知らないらしくて、舟に子供を乗せたというところまで喋ったのですが、どこに連れて行ったか知らない、というところで死んでしまいます。

死人に口なしなので、今度は勝次郎を拉致します。子供は舟で連れて行ったことが分かる。何で子供を誘拐したのか訊くと、

極楽を見せるためだと聞きやした
(p.175)

極楽といえば電影少女ですかね。夜通し尋問した後に、昼まで寝ていたらもう相手が勝次郎を取り返しに来た。と思ったら、何と相手チームが勝次郎を斬ってしまいます。口封じですね。何とか人海戦術で追い返した後、勝次郎を見ると虫の息。勝次郎に誘拐した子供はどこにいるのかと聞き直すと、

「ぼ、墨堤のそばの、ご、極楽……」
(p.190)

そこまで言ったところで死んでしまいます。墨堤というのは、

墨堤は、向島の大川沿いにひろがる地で、桜の名所としても知られていた。三囲(みめぐり)稲荷神社、白髭神社、桜餅で知られた長命寺などもあり、江戸市中から多くの遊山客や参詣客が訪れる。
(p.191)

今の東京スカイツリーの近く、墨田川沿いのあたりですね。この辺に極楽があるらしい。ということで現地調査に行きます。

源九郎達三人は、墨堤の桜並木をすこし歩き、三囲稲荷神社近くまで行ってから聞き込むことにした。三囲稲荷神社は、元禄のころの廃人の宝井其角が、ここで「夕立や田を三囲の神ならば」と雨乞いの句を詠み、その翌日雨が降ったという。
(p.206)

昔の俳句は雨を降らすようなパワーがあったのですね。才能アリです。

監禁場所が分かったので、町方に情報を流して御用にしてもらって一網打尽にします。ところがラスボスの松沢がいない。場所は調べて分かったので、最後の決戦に向かいます。源九郎がアジトに行くと、松沢はのんびり酒を飲んでいて、逃げる気配もない。なぜ逃げなかったのか訊いてみます。

「逃げる前にやることがあったのだ」
言いながら、松沢は傍らに置いてあった刀を引き寄せた。
「やることとは」
源九郎が訊いた。
「うぬらを斬ることだ。……ここにいれば、うぬらが顔を出す、そう思ってな。待っていたのだ」
(p.260)

さっさと逃げればいいような気がしますけどね。武士とは辛いものです。


神隠し-はぐれ長屋の用心棒(37)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575667899