基本的に言葉遊びのエッセイ的な小話を集めた本。いろいろおこだわりするネタが集まっている。最後の方に出てくる敵性語ネタの「言葉の戦争」のグダグダぶりは圧巻だが面倒すぎて引用する気になれない(笑)。
言葉遊びというのは、例えば「手垢のついた言いまわし」で「ネコの手も借りたい」という言葉がやり玉にあげられている。やり玉にあげる、というのも手垢がついているかな。ネコの手が借りたいシチュエーションとして例示しているのはコレ。
手抜き仕事を平気でやる抽象画家
(p.68
この職業ならネコをこう使う。
そこに絵具を塗ってキャンバスの上を走りまわらせればいい
(p.68)
つまりネコの手に絵の具を塗って走らせたら借りたことになる、というのだが、それは手じゃなくて足じゃないか、と揚げ足を取ってみたくなる。
時候の挨拶も一言いいたい。
この、八百屋の店先シリーズは応用範囲が広い。筍ではなく、空豆、栗、梅、などを入れても、それぞれの季節感が伝わる。ただしここに、キューリやトマトやイチゴを入れてはいけない。今はそんなの、年中あるからである。
(p.84)
筍や空豆だってかなり怪しいような気がしないか。栗とか梅のような木の実系はまだ季節感があるかな。スイカも大丈夫だろう。最近よく分からないのがサンマ。一年中あるような気がするのだ、サンマ定食とか。
「使用禁止ことわざ辞典」は、なかなか目の付け所がシャープで面白い。
雀百まで生きるわけない
(p.145)
ですよね。しかしスズメの寿命が何年なのか知らないぞ。死体も見たことないし。カラスは死ぬと消えるのでしたっけ。
糠に釘
(p.150)
ん、これは正しいのでは、と思ったら語意が、
それをしないと、ナスが色よく漬からない
(p.150)
と書いてあった。いや、それも正しいような。
昔取った篠塚
(p.155)
これは私は昔から「昔打った篠塚」として使っていたネタに酷似しているようだが、最近の若い者は篠塚さんを知らないだろう。
餅は餅や
(p.157)
これは独自にどこかに書いた記憶があるのだが、どこだか分らなくなったぞ。確か「そらそうや」と続けたはずなのだが…。
流行に対する矛盾の指摘は超同感だ。
流行というのは実にややこしい概念で、新しいものほど格好よく、みんなが真似したくなるものでなきゃダメだが、みんなが真似した時にはもう古いという、矛盾した概念なのである。
(p.188)
株とかFXとかビットコインみたいなのが、同じ性質を持っているから、誰かプロが本気で解析しているような気がする。
話のストーリーとはあまり関係ないけど、
ちょっと待て。みんな、いっぺんすべてを忘れて白紙に戻れ。
(p.199)
この言いまわしは何かと使えそうな気がする。いい表現だ。
この本、たまに死語…とまでは言わないが、ジェネレーションギャップで伝わらないのではないか、という言葉が出てくる。旬のネタを仕入れた場合には避けられない事故だ。
ドレスとは、ウインクが着ているような服、
(p.204)
こういうのは通じるのかどうか怪しい。私は分ったけど。
ことばの国
清水 義範 著
集英社文庫
ISBN: 978-4087480764