今日の本は文月悠光さんの「適切な世界の適切ならざる私」。詩集。
本のタイトルにもなっている詩、「適切な世界の適切ならざる私」に出てくるこのフレーズがいい。
とたんに全てが不適切。
(p.43)
学校生活という不安定な世界で偏った視点で語りかけるような文体がリアルな妄想を導き出す。詩の中に唐突にまとまった文が組み込まれる構成は歌のメロディの中にラップが入って来るようだ。文月さんの詩の舞台は学校が多く、その割に内容は間接的に強くエロスを妄想させる。中原中也の詩のようにダダをこねている。
あなたがいなくても、生きなくては。
素知らぬ顔で、生きなくては。
(p.102、骨の雪)
出棺のシーンでの別離は、あの世に向かう人とこの世に残る人の距離感と、残された人の覚悟を見せろという要求、その駆け引きの緊張感が「素知らぬ顔」という表現に凝縮されている。
ちょっと面白いと思ったのが、この詩。
ブラウン管に映りこむセーラー服の少女たちは、街を越えて、月まで飛ぶ。
(p.75、〝幼い〟という病)
ブラウン管という単語がそろそろ死語になりそうだが、「月に代わって」とか「戦士」という言葉も出てくるのでこれはアレに決まっている。どうでもいいが私は本放送を観ていて、最近また最初から観ているのだ。
いい子どもと、いい女はちがう。
(p.75)
確かにそれは全く違う。そして文月さんの描く少女はそのどちらでもないように見える。
適切な世界の適切ならざる私
ちくま文庫
文月 悠光 著
ISBN: 978-4480437099