Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ナイン・ストーリーズ

ちょっとトラブルがありまして、ハッと気付いたらこんな時間だ。ということで【なにが】、今日は J.D.サリンジャーさんの、ナイン・ストーリーズ

何かのビデオに出てきたという話を書いたけど、KANA-BOON さんの「桜の詩」という歌だった。この本にはタイトルの通り、9つの短編が入っている。ちょっと面白いと思ったところをいくつか。

いいかい、尼さんやなんかになるんならともかく、さもなきゃ人間、笑ってるほうがいいんだよ
(p.51)

コネティカットのひょこひょこおじさん、という作品。話はエロイーズとメアリ・ジェーンの会話で怒涛のように進んでいく。引用はエロイーズの言葉。笑っていた方が幸せになれるというのは心理学的にも実験で検証されているらしい。笑いながらマンガを読むと面白く感じるとか。

ささっと何作か飛ばして、エズミに捧ぐ、という作品から。「――愛と汚辱のうちに」というサブタイトルが付いている。

小鳥ちゃんだって、あのきれいな歌を歌うときには、小ちゃなお口を、大きく大きく大きくあけて歌うでしょう?
(p.141)

小さいといえば小さいが、小鳥だから仕方ない。雛鳥がエサをもらうときは大口開けると思うけど、歌うときも大きな口を開けているのだろうか。見たことがないので分からない。このストーリーは謎の兵士Xとエズミという少女の会話がメインで、少女の感覚がズレているのが面白い。

ラジオでジャズを歌うんです。そして、どっさりお金を儲けるんです。それから、三十になったら引退して、オハイオ州の農場に住むんです
(p.146)

オハイオというところまで限定しなくてもいいような気もするが、オハイオには少女を引き寄せる何かがあるのだろう。

ユーモアのセンスがないかから人生に太刀打ちできない
(p.153)

これを言ったのは少女の父親で、つまりこの少女にはユーモアのセンスがないというのだが、それ自体なかなか面白いギャグではないか。とはいっても少女はユーモアで面白いことを言っているのではなくて、単なる天然なのか。

次のセリフは「愛らしき口もと目は緑」から。

一人前の女だと! あんた、正気か? あいつは一人前の子供だよ!
(p.190)

真夜中に電話がかかってくる。あまり話をしたくない相手ではないのだが仕方なく応対していると猛烈な長電話になってしまって寝かせてくれない。セリフは電話の相手の男が言ったのだが、こんな話を一晩中聞かされたらたまったものではない。ちなみに一人前の子供が電車に乗ったら料金は子供でいのかな。

もう1つ紹介して終わりにする。「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」から。

要するに彼には人にくれてやろうにもそんな才能の持ち合せがないのだ。
(p.220)

ドーミエ=スミスというのは主人公が使った偽名。仕事にありつくためにテキトーな名前を使って経歴もデタラメで絵の先生として就職しようと企む。しっかり採用されるが、そこの先生がどうもおかしい。才能の出し惜しみなのか、というところで先のセリフにつながる。まあ世の中そうだよね、みたいな妙にリアルな話だ。

それにしても、KANA-BOON さんの歌のビデオが気になる。この本に出てくる話のどれかに関係があるのだろうか。読んでみてもよく分からない。


ナイン・ストーリーズ
サリンジャー
野崎 孝 翻訳
新潮文庫
ISBN: 978-4102057018