今日は小川一水さんの「青い星まで飛んでいけ」。SFです。
6つの短編が入っています。解説によれば、この本は異色作だといいます。
本書全体を通して感じるのが、そういう「プロジェクトX的」「クラーク的」な小川一水とも「日常の中のSF」の小川一水とも違う――むしろ「恋愛SF短編集」のイメージだからだ。
(p.369、解説、坂村健)
ちょっとラブコメSFっぽい2つ目の作品「グラスハートが割れないように」は、こんなオチでいいの、という拍子抜けする終わり方をしていますが、日本のリアルな流行ってだいたいそんな感じ【謎】ですからSFにしてはリアルな話ですね。グラスハートというのは植物系の食べ物を謎のパワーで成長させるモノで、中身はクロレラみたいなものでしょうか。アクアリウムのような閉鎖系は現実的にあり得るのですが、人間の生命維持に必要なエネルギーを供給し続けるような系が本当にできたら食料問題が解決してしまいます。
4つ目の作品「占職術師の希望」は、天職が何かを占う人の話。占いといってもSFなので能力として本当に見えるのです。
この世の人間のほぼ百パーセントに、とにかく何か一つは天職がある。
(p.218)
ほぼと言ったのは、何もない人もいるからでしょうか。天職が無職とか。
このストーリーによれば、天職でない職業に就いている人がとても多いようです。天職があるのだが不明という人もいて、これはまだこの世にない職業なので理解できないのです。
個人的に特に興味を持ったのは5つ目の作品「守るべき肌」。ゲームに転生系のラノベやアニメは結構ありますが、それ系です。
ぼくたち人間は計算機が走らせているソフトウェアだ。詳しく言うと、計算機にシミュレートされている、人間の簡略化された生理学的モデルが、ぼくたちだ。
(p.272)
雰囲気としては SAO (Sword Art Online) が近いですかね。今アリシゼーション War of Underworld が放送中ですが、全員がキリト化すればこの世界になりそうです。もっとも、キリトは実体が生きているので、さらに一歩先に行く必要がありますが。
このストーリーは、アニメ化すれば凄く迫力のあるシーンがたくさん作れそうです。
コンピュータが絡んだストーリーは3つ目の「静寂に満ちていく潮」も面白いです。概要を紹介すると、未知の生物とアレする話です。感覚をコンピュータに接続する技術があれば、他の人の感覚を共有することも確かにできそうですね。SAO の世界では結婚というイベントもありましたし。
青い星まで飛んでいけ
小川 一水 著
撫荒 武吉 イラスト
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150310233