Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

アリスマ王の愛した魔物

今日は小川一水さんの「アリスマ王の愛した魔物」です。SFです。たぶん。

5つの短編が入っています。個人的には、微妙にブラッドベリ的な感じがしました。

1作目の「ろーどそうるず」は、バイクの話です。バイクについて書いたという意味ではなく、バイクが自分で話をしている、という意味です。厳密にいえばバイクと監視プログラムの会話で進んでいきます。私はバイクのことはあまり詳しくないのですが、結構面白く読めました。

2作目の「ゴールデンブレッド」は、惑星に不時着、というか墜落した戦闘用宇宙船のパイロットがそこで助けが来るまで食べ物に苦労しながら暮らす話。パイロットの名前を訊くと、

山人八十島国、天体開拓軍第三空母打撃軍、第三十四飛行隊所属、九吹豊菓少尉
(p.66)

だそうです。

苦労というのは、食べ物が合わないんですね。

3作目の「アリスマ王の愛した魔物」は、アリスマ王という数学の大好きな王様がファンタジックな世界で数学を使って世界征服するストーリー。超奇抜です。

最大の特徴は算廠という機関です。日本的にいえば計算省【謎】でしょうか。そこに問い合わせたら数字を返してくれます。算廠で計算するのは逓子、珅子と呼ばれる人達で、激しい計算をさせると過労でバタバタと死にます。

算廠は二千五百の珅子を呑み込み、九百と九人しか返しませんでした。運び出された死体はすべて、高熱で禿げていたと伝えられます。苛烈な計算に耐えられず、脳が破れて煮えたのです。
(p.121)

コンピュータも負荷が高くなるファンが回って冷却し、ファンが止まったりするとぶっ壊れてしまいますね。この物語はコンピュータがない世界だったようです。

この王様、国の全てを数値として把握して最適化していきますが、引継ぎに失敗してしまうというのは何かリアルな感じもします。

残り2篇は読みかけなので次の機会として、今回、いいなと思った一言。

血統で運命を決めるなんてくだらないことよ。
(p.107、ゴールデンブレッド)

(つづく)


アリスマ王の愛した魔物
小川 一水 著
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150313098