てなわけで、今日は怪盗探偵山猫。
私は小田急沿線に住んでいたことがあるので、この小説に出てくる地名にはかなり親近感がある。土地勘もある、と言いたいところだが、小田急沿線は猛烈に激変してしまったので、今となっては自信が全くない。この本に出てくるのは今の姿か、昔のままなのか、と悩みながら読むことになる。
犯行現場をあとにした勝村は、経堂にある居酒屋に足を運んだ。
(p.35)
勝村というのは記者。もちろん主役は山猫だが、準主役級の活躍をすることになる。土地勘があると書いておいてアレだが、実は経堂はあまり詳しくない。何度かゲーセンに行ったことがある程度だ。もちろん居酒屋に行ったこともない。しかも今から30年以上前の話だから、今は全く違う光景になっているのだろう。
東京で最初に一人暮らしをしたアパートは、和泉多摩川にあった。
勝村は、気乗りしなかったが、山猫にうまいこと言いくるめられ、小田急線の和泉多摩川の駅まで足を運ぶことになった。
(p.249)
小田急線の中でも比較的マイナーな駅ではないかと思うのだが、そこに住んでいたので私はよく知っている。とはいっても、これもかなり昔の話だ。今の駅は高架になっているが、当時は踏切のある駅だった。改札を出てすぐの所に札幌ラーメン屋があって、終電間際の電車で帰ってきた冬の寒い夜、よく塩バターラーメンを食べたのを覚えている。
和泉多摩川でもう一つ覚えているのは、多摩川べりにあった中華料理屋で、そこのスープは絶品だった。チャーハンは普通だったが、スープが凄かった。この店はそこに住んでいる間に閉店してしまったけど。ちなみに何でそんな所に住んでいたのかというと、家賃が安かったからである。
その後、下北沢に引っ越すことになった。小田急線の終電は経堂止まりだったから、和泉多摩川だと少し早めに帰らないといけなかった。下北沢だと終電でokだし、終電で帰っても街はまだこれからという雰囲気があった。今思うと夢のような世界だ。
さくらと別れたあと、勝村は井の頭線に乗って、下北沢に向かった。
(略)
南口の階段を下り、広場に出たところで、驚き足を止めた。
ある程度、町が様変わりしていることは予測していたが、想像以上の変貌ぶりに、浦島太郎の気分を味わう。
(p.74)
まさにその通りである。巻末のあとがきにも書いてあるが、下北沢は近年激変したから私の土地勘は今は殆ど通用しない。この作品に描かれている時代は、かなり微妙なところで、半分理解できて、半分が謎、のような気がする。
さくらは、三軒茶屋の駅近くにあるビルの前に立っていた。
(p.87)
下北沢といっても、最初に住んでいたのは実は太子堂というところで、下北沢と三軒茶屋のちょうど中間あたり、どちらからも遠いという最悪なところだった。最悪だけに家賃が安かったのがメリットである。基本、そこから下北沢に向かうことが多かったが、日曜にはたまに三軒茶屋に向かうこともあった。
下北沢は、新宿にも渋谷にも近いから、新宿も渋谷もよく出かけたものである。
出版社を出た勝村は、JRの新宿駅から、山手線で渋谷へ向かう。
ハチ公口から出て、もの凄い数の人でごった返す駅前広場を抜け、スクランブル交差点を渡り、センター街のアーケードをくぐる。
(p.94)
渋谷はまさに今激変中で、特に地下迷宮【謎】やヒカリエは私の知らない世界になっているのだが、センター街あたりから東急ハンズに向かうあたりの構造は基本的には変わっていない。ただ、地形的には同じでも、店が随分変わっていて、昔ながらの店は流石に少なくなったと思う。
下北沢の北口を出て、大丸ピーコックの角を曲がり、路地を五分ほど進んだところにある雑居ビル。
(p.130)
下北沢には確かに雑居ビルが多いというイメージもある。ちょこちょこした街なのだ。今もそういうビルは案外多いのではないだろうか。
ちなみに北口だが、昔は小田急線の改札が2階にあって、改札を出て右に進んで階段を下りると北口、左に行って階段を下りると南口だった。南口の方にはカレーショップがあって、玉子入りカレーをよく食べたものだ。
さくらは、勝村に指定された豪徳寺の喫茶店に足を運んだ。
(p.193)
豪徳寺は降りたことがないなぁ。
ストーリーは怪盗探偵というだけあって、バトルありのミステリー。ネタバレになるのもアレなので、今回は何も書かずに止めておく。 ちょっとだけ、そうだと思った言葉を紹介してみる。
情報を発信する人間は、何があっても嘘を吐くな。
(p.38)
本作に出てくる今井の口グセ。嘘を書かないのというのは、本当のことを書くというのとは微妙に違う。そこがミソ。
怪盗探偵山猫
神永 学 著
鈴木 康士 イラスト
角川文庫
ISBN: 978-4043887071
