Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

うそうそ

しゃばけシリーズで5冊目。これはいいタイトルだなぁ、と一撃【違】でやられた感じ。

本のタイトルになっている「うそうそ」が何と3ページで終わってしまう。しかも意味が分からない(笑)。ウソだけど。ちゃんと最初に意味が書いてあって、「たずねまわるさま。きょろきょろ。うろうろ。」だそうです。江戸語辞典というのが気になるなぁ。

さて、その後は「一 江戸通町」から「六 地獄谷」までが1つの長編。「うそうそ」はその前振りなのだ。

千年ほど迷い、うそうそ己を捜し続けている。
(p.6)

これが山神さまのお言葉。探しているのは山神さまではなくて、この文は山神さまのお側にそのような別の神様がいるという意味だ。

本編の方は、いつもの若だんなが湯治に出かけるところから始まる。今なら東京から箱根なんて小田急ロマンスカーで一発だが、当時の湯治はそう簡単に行けるものではない。しかも脆弱性のある若だんなのことだから、たどり着けるかどうかというレベルで既に怪しいから面白い。

伏線として出てくるのが朝顔。江戸時代から朝顔コンテストは有名なのがあったらしいが、若だんなの兄である松之助いわく、

あの襤褸切れみたいにあちこち切れていて、おまけに変に重なって、花だか何だか分からないもの…
(p.106)

小説家になれそうな、見事な表現力だ。

この話のもう一つの鍵になっているのが、

「この方は、箱根の山神様の御子で、比女様と申されます。姫神様で」
(p.141)

見た目は幼女なのだが、神様だけに長生きらしい。

「随分、物凄く久しぶりに粟粥を食べる気がするわ」
 お比女が嬉しそうな声を出す。数百年は食べていないのかもしれない。
(p.208)

そりゃ久しぶりだ罠。私は食べたことあったかな、縄文時代の竪穴式住居で食べたのはそんな感じだったかも。私も結構長生きなのかな。

生まれてきた者は皆、強いところも弱いところも、どっちも身の内に持ってるもんらしい
(p.253)

新龍という名前の雲助、つまり駕籠担ぎの言葉だ。この雲助、たまに奥の深いことを言う。

しかし助かってみりゃあ、やっぱり生きていた方が楽しいし、うれしいこともあるんだわさ
(p.253)

もちろん若だんなもイイコトを言う。

「できることを増やしてるんだ。するともっと、やりたいことが出てくるから不思議だよ」
(p.302)

病弱なりの努力はしている若だんなであった。


うそうそ
畠中 恵 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101461250