Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

知的戦闘力を高める 独学の技法

昨日紹介した「知的戦闘力を高める独学の技法」を、少しずつ紹介していこうと思う。技法というのは「どうやって」に注目するイメージがあるが、この本は「なぜ」の説明が詳しい。「なぜ」に続いて「だからどうする」が書かれているので、納得できる。

独学というのは大きく、
「①戦略」「②インプット」「③抽象化・構造化」「④ストック」
 という四つのモジュールからなるシステムと考えることができます。
(p.5)

この4つの要素は後で細かく説明されている。

独学の目標は、学ぶことではなく、学んだことを活かすことだとして、

この独学法においては「覚えること」を目指さない
(p.8)

と言い切る。もちろん覚えることも重要なのだが、それ自体を目標にするのは本末転倒といいたいのだろう。理由として、

いったん脳にインプットした情報は、エッセンスだけを汲み取る形で丸ごと外に出してしまうわけです。
(p.9)

細かいことは覚えていなくても分かる。重要なのは、どのデータを見ればいいかを知っていることだ。そういう意味である。

どのような戦略で学べばいいか。キーワードは筆者の言う「クロスオーバー」、即ち複数のジャンルに対するある程度のエキスパート、という視点は注目すべきだろう。クロスオーバーが重要である理由としては、次のように説明されている。

イノベーションというのは常に「新しい結合」によって成し遂げられる
(p.19)
この「新しい結合」を成し遂げるためには、それまでに異質のものと考えられていた二つの領域を横断し、これをつなげていく人材が必要になります。
(p.19)

このような人材をクロスオーバー人材と表現している。もはや、一つの分野で尖っているだけでは勝負できない。そういう人は出揃っているという考え方だと思われる。

一点だけに注目せずに、複数の視点を持つという考え方は、独学の注意点にも現れている。

独学者がおかしやすい過ちの一つは、単に知識だけを詰め込むだけで思考しないということです。
(p.36)

例として世界史の年表暗記を紹介している。年号を覚えるだけでは意味がないという。もちろんそれは常識だ。むしろ覚えるべきことは、

そのような事件や事象がなぜ起きたのか
(p.37)

「なぜ」が重要だというのだ。これはあらゆる分野どころか人生そのものにも当てはまるだろう。もちろんプログラミングにも必要な思考回路だ。なぜ、Why。それが最も本質的なキーなのである。

歴史を学ぶことで、どうして知的戦闘力が高まるのか? それは歴史がケーススタディの宝庫だからです。私たちが日々向き合う現実の問題は唯一無二のものに見えますが、歴史を長く遡れば同様の事態に直面した事例は数限りなくあります。
(p.37)

高校生の中には、数学は社会に出たら役に立たないという人がいる。解法を暗記して何の役に立つのか。Yahoo!知恵袋に実際にあった質問である。数学の入試問題は、問題集や教科書に出ている問題と全く同じものが殆ど出ない。その意味で、歴史の「同様の事態」に似ている。全く同じ問題は出ないが、似たような問題は出るのだ。だから解法(解き方)を暗記するのだが、ここでもうひとつ重要なのは、似ているという判断をする能力だ。知っている問題と似た問題で、同じ解法を適用すれば解ける、その判断を瞬時にする必要がある。この能力が数学の問題を多数解くことで高められると、歴史をケーススタディとして応用するときに、似ているという判断をする処理に活かせるのだ。

即ち歴史というのは、

歴史というのは「人や組織の振る舞い」について、過去の事例をもとにして考察するという学問
(p.38)

なのである。

(つづく)


知的戦闘力を高める 独学の技法
山口 周 著
ダイヤモンド社
ISBN: 978-4478103395