今日も順序を気にしないで書いちゃうけど「しゃばけ」シリーズ10作目「やなりいなり」。
やなりというのは鳴家(やなり)という妖のことだと思うが、作品中では「やなり稲荷」と表現された稲荷寿司が出てくる。ちなみに、鳴家は「しゃばけ」シリーズのレギュラー妖で、鳴き声が独特なのが面白い。例えば、
ぎゅぴー (p.25)
ぎゅんいー (p.27)
きょわわ (p.78)
きゅげ (p.78)
ぎゅい (p.179)
きょんいーっ (p.180)
ぎゅんわっ (p.209)
だいたい「き」か「ぎ」で始まってキャイーン系ってとこかな。
この本も5つの短編が入っているが、それぞれ最初に料理のレシビが出てくる。最初の作品「こいしくて」に出てくるのは小豆粥。
米 一合 (かっぷ一杯)
(p.9)
こんな感じで書いてある。カップなんて江戸時代にはないのだが、多分、今作れるように書いてあるのだろう。実際に作ったわけではないから知らないけど。ストーリーはコイバナ。恋愛話。なのに、いきなり疫病神がぞろぞろと出てくる。疫神、禍津日神、疱瘡神、時花神、風伯。聞いたことがないようなのもいるけど、説明は本編に書いてある。
己が、家族が助かるのであれば、余所には目を向ける余裕をなくす者は、多かろう
(p.48)
これは禍津日神の言葉。なるほど。怖いのは実は人間ってことだ。
2つ目は「やなりいなり」。レシピはタイトル通りだ。この話で稲荷寿司を作るのは守狐で、若だんなのお見舞いに作ったのだが、これを食べていると何か見たことのない手が出てくる。怖い手なのだが、月影先生の手じゃなくて、幽霊の手だった。この幽霊が薬を欲しがるのだが、
「あのね、長崎屋には何でも効くという、調子のいい代物は置いてないよ」
(p.99)
よく効く薬ほど、カスタマイズしないと病人に効かないという。万能薬は
大概、毒にも薬にもならない程度のもの
だとか。なるほど。あとは本人の気分次第ってことかな。
3つ目は「からかみなり」。空雷だろう。料理は栄吉の煠出しいも。レシピを見た感じだとマクドナルドのフライドポテトみたいな感じかな。ただし甘く仕上げているようだ。
本来、大根おろしを付ける
(p.139)
と書いてある。ストーリーは若だんなの父親の藤兵衛が帰ってこなくて騒ぎになるというもの。雷がこれに絡んでくる。なぜ帰れないのかを妖たちが想像するのだが、想像が滅茶苦茶で面白い。最後、雷獣を空に返してやるのだが、この返し方もハチャメチャというか、こんなの本当にやったら藤兵衛さん死んでしまうんじゃないかと思う。
4つ目は「長崎屋のたまご」というタイトルで、レシピもゆで卵。ここのゆで卵には絵を描くことになっている。逢魔が時の話。この時間は「君の名は。」みたいな不思議なことが起こるのだ。
丸い雲は大きな塊から離れて、すいと空を駆けた。そしてあちこちの雲にぶつかりつつ、長崎屋の方へと落ちてくる。
(p.205)
これが激突して隕石湖ができたら物語が終わってしまうのだが、思いのほか小さくて、
手まりというには小さく、鶏の玉子よりは、ぐっと大きかった。
(p.206)
しかも、これを取り返しに魑魅魍魎がやってくる。
最後の話は「あましょう」。レシピは味噌漬け豆腐。文庫本の巻末は料理家の福田寛さんと畠中恵さんの対談になっていて、福田さんによると、江戸時代の豆腐は今よりもかなり硬かったらしい。ストーリーは友情譚。いろいろ苦しそうな事情が出てきて少し辛い話である。
やなりいなり
畠中 恵 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101461304