Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

白鯨 (上)

今日は白鯨です。やっと上巻を読み終わりました。途中で鯨について書いた本の引用とか、鯨の分類とか、鯨に関係ある話がわんさか蘊蓄系として入ってくるので、読んでいて百科事典を精読しているような感じになってきて、かなり読むのに時間がかかってしまうのです。

白鯨といえば Re:ゼロから始める異世界生活ですが【違?】、じゃなくて、片足のエイハブ船長と白鯨のモビーディックがあまりにも有名ですが、はて、主人公というか、語り手は誰だっけ、ってのがクイズに出そうな問題ですね。イシュメール。白鯨のイメージとしては、

この白が高貴な色であることは、人類そのものにもあてはまる
(p.348)

これだけだと白人至上主義のような読み方もできそうですが、この後に出てくる文章を読めば、むしろ神的、霊的な意味であることが分かります。日本でも白鹿が神の使いといいます。白いというのが、やはりインパクトあります。

当時は捕鯨全盛期で、今の時代捕鯨に反対している国々が鯨を撮りまくっていました。

ほかならぬこの『ピークォド』号が日本沖で台風におうて、帆柱三本流された時そなたはエイハブ船長といっしょに船に乗っとったはずじゃが、
(p.188)

捕鯨船は日本沖まで鯨を取りにやって来ていたのです。このあたりは鯨より台風が怖いようですが、鯨に銛を打ち込むような荒くれ男はそんなこと気にしない。

俺たちアメリカの捕鯨者は世界中の捕鯨者をたばにしたより数が多く、七百艘以上の戦隊を動かし、一万八千人の水夫を乗せ、年々四百万ドルの金をつかい、航海する時の船は二千万ドルの値打があり、毎年七百万ドルという大収穫を港々に持ち帰るのは、どういうわけか?
(p.216)

資源の管理とか何も考えずに取りまくっていたのです。金になるのだから当たり前ですね。そういう時代でした。時代といえば、煙草を吸うのも当たり前の時代で、ヘビースモーカーのスタッブというキャラが出てきます。

この地上の空気は、陸上であろうと海上であろうと、それを吐きだしなが死んで行った無数の人間の言うに言われぬ悲惨から恐るべき毒を受けているのだ。
(p.230)

その毒を消毒するために、パイプで煙草を吸っているというのですね。煙草って殺菌作用、ありましたっけ。毒だという位だからないわけはないか。スタッブが変な夢を見たときに仲間のフラスクに話しかけるシーンがあるのですが、

「俺にゃわからねえが、なんだか馬鹿げているみたいだな」
(p.251)

とか返されます。ちょっと言っていることが変なんですね。スタッブはこんな独り言も言ってます。

なにごとも宿命と思えば、腹もたたん
(p.314)

この話の中では目立たない存在のようですが、スタッブ、割と濃厚なキャラのような気がします。関係ないですが、ピラミッドは天文台だという説。ピラミッドの段は階段だというのですが、

昔の天文学者たちは、おどろくほど脚を長く延ばしてその階段をのぼって頂上に達し、新しい星が見えるぞと呶鳴った
(p.286)

のちのあしながおじさんである。


白鯨 (上)
メルヴィル
富田 彬 翻訳
角川文庫
ISBN: 978-4041031957

半沢直樹 1 オレたちバブル入行組

ストーリーは説明しなくてもドラマでご存知ですよね。ていうか私は全然知らないんだけど(笑)、なぜかモーニングでマンガの連載が始まりました。1巻を読んだ感じでは展開のテンポが速すぎるので説明できません。

半沢直樹といえば、倍返し。

オレは基本的に性善説だ。相手が善意であり、好意を見せるのであれば、誠心誠意それにこたえる。だが、やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして――潰す。二度とはい上がれないように。
(p.321)

これで有名ですね。お互い倍倍プッシュしていくといずれ破綻しますけど。破綻といえば、このストーリーは破綻した企業の債権回収がネタです。よくあるアレですね。

そもそも不渡りというのは手形を振り出している会社だけがなるものであって、現金商売しかしていない会社に不渡りはない。
(p.99)

ちなみに弊社がそうですね。倒産する金もない。

銀行員なんて超安定のイメージかもしれませんが、この小説だと全く逆のイメージで、下克上というか騙し合いのとっても面白そうなワールドが展開していきます。キャラの立場としてはたまったものではありません。

「結局、オレたち銀行員の人生ってのは、最初は金メッキ、それがだんだんと剥がれて地金が出、最後は錆び付いていくだけのことかもしれない」
(p.316)

苅田の言葉。半沢は慶應の同期の仲間、苅田、渡真利、近藤とよく飲みに行きます。それぞれのキャラを紹介しておくと、

苅田

司法試験の短答に合格している秀才
(p.20)

渡真利

有名ゼミのゼミ長で、半沢とは顔馴染み
(p.20)

近藤

業務部長の後輩
(p.20)

こんな感じの面子です。飲みながらグチグチ言っているのが結構危機感があって面白い。しかし本当に飲みながらあんな話をしたら、誰かに聞かれてしまうのでは。案外、壁には耳がありますよ。

個人的にこの話で気に入ったのは、竹下金属社長の竹下はん。この人はオモロイです。半沢と手を組んで敵を追い詰めていく役なのですが、こういうキャラは絶対に敵にまわしたくないです。


半沢直樹 1 オレたちバブル入行組
池井戸 潤 著
講談社文庫
ISBN: 978-4065170823

クラシック音楽の歴史

てなわけで今月はちょっと忙しいので雑記にしたいのですが、雑記のネタがない(笑)ので、今日は「クラシック音楽の歴史」。

99の小話が入っています。100にしなかったのは、

「完全」なものなどない、という意味をこめた。
(p.5、「はじめに」)

だそうです。しかし「はじめに」と「あとがき」があるから、実は101の小話なんですね。ワンちゃんみたいです。

歴史というタイトルですが、中身は蘊蓄話です。それも微妙なネタが多いです。例えば、

作曲家が楽譜を書いた時点で作品は完成するのか、それとも演奏されて初めて音楽になるわけだから、そのときが「完成」なのか。
(p.19、「3楽譜」)

私は打ち込み派なので、楽譜というかデータが完成した時点で音楽も完成という解釈をしたいですね。一度も演奏しなくても、それは音楽なのです。

面白いなと思ったのをいくつか紹介すると、例えばビバルディの四季。

日本人が《四季》を好きなのは、日本に四季があるからだという説がある。
(p.29、「10四季」)

海外ではいまいち人気がないらしいです。はたまた高価なバイオリンとしては有名なストラディヴァリ。その音がいい理由として、

いい楽器だと思って聴くからいい音色と感じるだけという、身もふたもない説
(p.42、「11ストラディヴァリ」)

があるそうです。確かに、いいとか悪いという評価は、人間の脳の感覚で100%決まりますからね。

バッハが音楽の父と呼ばれる理由について、日本だとほにゃららの神様という表現が普通なのですが、

一神教キリスト教のもとでは、誰も神になれない
(p.53、「16バッハ」)

といわれてみたら、確かにそりゃそうですね。音楽の神といえばミューズですか。

ところで、私が最近たまに聴いているピアノ曲は、ベートーベンの月光の第三楽章と、リストのラ・カンパネラなんですが、

ショパンが自分でいうには、「ぼく(ショパン)の曲をリストが弾くときが最高だ」。つまり、演奏技術ではリストにかなわないとしながらも、作曲は自分のほうが上だとショパンは思っていた。
(p.150、「47リスト」)

なるほど、しかしこういうネタはどこから仕入れてくるんでしょうね。ピアノといえば、グールドは私の好きなピアニストの一人なのですが、

コンサートは音楽を鑑賞するのに最悪の環境
(p.278、「94グールド」)

観客のノイズが嫌、ということだそうです。スマホの着信音なんか鳴ったら発狂したでしょうね。


クラシック音楽の歴史
中川 右介 著
角川ソフィア文庫
ISBN: 978-4044002619

まゆみのマーチ: 自選短編集・女子編

今日は「まゆみのマーチ」。重松清さんの自選短編集。女子編となっています。

タイトルになっている「まゆみのマーチ」は、歌いながらでないと行動できない女の子の話です。最初に読んだ時にはホラーのような感覚がありました。どんな歌を歌っているかというと、

天地真理南沙織、にしきのあきら、麻丘めぐみ森昌子
(p.24)

何となく世代的な親近感があります。ただ、異論覚悟でハッキリ書かせてもらいますが、この話、親の育て方がひどいと思うんですよね。そういう育て方をするのなら外に出さずに自宅内ですべて済ませる覚悟がないといけない。この状態で学校に行かせたらそうなるのは当たり前で、むしろその程度で済むというのに違和感がありました。

2作目の「ワニとハブとひょうたん池で」は、ハブられる話ですが、これもハッキリ書いてしまうと、いじめというのはいじめられる側に原因がある、というのが分かる話だというのが率直な感想です。私の世代だと、この状態になると女の子であれ、相手をブチ殺すつもりで反撃していたと思うのです。実際、そういうシーンを見たこともあります。言っても分からない奴に理屈ではなく暴力で抵抗するのは、今だと悪いことなんでしょうね。

じゃあどうすればいいかというのは、この話は何も教えてくれません。昔の親は子供に、何か障害物があったときにどうやって戦って乗り越えていくかを教えようとした。今は親も日本そのものも、障害物をできるだけ排除して、子供を障害物に合わせないようにしている。解決する力がどんどん衰退していく。にもかかわらず、子供は子供でどんどん新しい障害物を発明していきます。しかしそれを乗り越える力はない。

「そういうんじゃないんですよ、最近のイジメって」評論家みたいに言える。「ゲームなんです。誰かが困ったり落ち込んだりするのを見て、笑って、もっと困らせたり落ち込ませたりする、そういう遊びなんですよ。
(p.140)

ちなみに私の場合、どちらかというと自分から単独行動する派なので、ハブられたという経験がないというか、ハブられていても気付かなかったのかもしれません。一日中図書館で本を読んでいたら幸せになれるとか、そういうタイプです。ていうか、普通に友達はいましたけどね。多分「火の鳥」のマサトみたいに地球上に1人だけ生き残っても割と平気だと思います。誰も読まないブログを書き続けているかもしれません。それはそれで病気じゃないかと言われたら、そうかもしれませんが。

カーネーション」では、

母親はテレビばかり観る。テレビしか観ない。テレビだけが心の友って? 泣けちゃうほど寂しい人生だ。
(p.229)

先に書いたように、自分が孤独派であるからなのか、どこが寂しいのか、本気で理解できません。もちろん本人が寂しいというのならそうかなと思いますが、テレビばかり観ている母親は寂しいと思っているのでしょうか。

この話では、白いカーネーションではなく、赤いバラの花束を食卓に置くシーンが出てきます。

花束の隣には〈ははの日おめでとう〉と書かれたカードも。
(p.239)

これはなかなかよかったです。


まゆみのマーチ: 自選短編集・女子編
重松 清 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101349299

掟上今日子の乗車券

2月になりました。雑記絶ちしたのは10月でしたっけ、流石に1日一冊のペースで読み続けるのは大変なので、そろそろ雑記復活したいです。というのは、最近読んでいるのはモビーディック、「白鯨」なのですが、これがなかなか濃いのです。まだ上巻が詠み終わっていません。多分、この上巻を読む時間で、忘却探偵10冊読めます。といいつつ、今日はそのシリーズから、「掟上今日子の乗車券」を。

今回は、今日子さんと親切守が旅行に行く、という話。何の旅行かというと地方に営業に行くらしいのですが、探偵の営業って謎ですよね。

事件性なんてものは、世界中のあちこちに転がっているのだろう――見える人には見えるし、見えない人には見えないというだけの話だ。
(p.22)

見えないというより、見ない、って感じですかね。最近個人的に気になっているのは例の「桜を見る会」なのですが、何が気になっているかはまたの機会に。

2作目、「山麓オーベルジュ『ゆきどけ』」は、老紳士の裁判官から提示された謎を解きます。動機が分からないというのですが、

金目当ての殺人と怨恨殺人では、同じ殺人でも、まったく別物になりますな
(p.76)

動機で量刑も違って来るというのですが、このあたりAI裁判官になっても対応できるのでしょうか。

3作目「高速艇『スピードウェーヴ』」は、密室となった操舵室内で船長と副船長が倒れているという、密室殺人未遂事件。この話、

木の葉を焼くために、森ごと焼いたようなもの
(p.124)

そりゃいくら何でもコスパが悪すぎるような気がしますけど、暗殺に核兵器を使うと確かに誰を殺したいのか分かりにくくはなりますが。5作目「観光バス『ハイスピードロード』」も、動機としてはちょっと納得いきませんけど。まあいいか。

 

掟上今日子の乗車券
西尾 維新 著
講談社
ISBN: 978-4065132043

虚数はなぜ人を惑わせるのか?

今月最後の本は「虚数はなぜ人を惑わせるのか」。プロローグでいきなりシュレ猫が出てきます。シュレディンガーです。読者層としては、中学生から高校生あたりがターゲットではないかと思われます。

第3章の「ネコでもわかる虚数の性質と成り立ち」ですが、流石にネコは無理じゃないですかにゃ。この章に、ガウス平面が出てくるのですが、日本では「複素平面」と呼ぶことが多いという話も出てきます。 この平面、私はガウスさんが発見したと思っていたのですが、

でも、彼らよりも前にデンマークノルウェーの数学者カスパー・ウェッセルさんが1799年に発見しています。
(p.62)

知らなかったです。デンマーク語で書かれていたために、世間に広まらなかったというのですね。日本人は虚数っていつ頃使うよっになったのかな。

第6章にはオイラーの等式が出てきます。オイラーさんについては、

ふつうの数学者が一生かけて書く量の論文を毎年のように書いていたとも言われ
(p.141)

という蘊蓄話も出てきます。この本、この種のちょいネタがたくさん出てきて、気軽に読めます。


虚数はなぜ人を惑わせるのか?
竹内 薫 著
朝日新書
ISBN: 978-4022950284

掟上今日子の色見本

今日はもう書く時間がないから雑記でいいや、と思ったのですが「雑記」という言葉が脳内から出てこないんですよ。症状【謎】が進化、いや、進行してませんかね。とりあえず、あと2日で1月コンプリートできるので、今日は忘却探偵シリーズから、「掟上今日子の色見本」でいきます。明日どうしようか。

ざっくりストーリーを紹介すると、今日子さんが誘拐されるという話です。まあいろいろ犯人もマヌケな対応をする割に、最後は逃げ切っているみたいですが。はて、一体誰が犯人と交渉するのだろう、といいますと親切守です。この人、助手ではないんですけどね。押切は今日子さんから、普段、このように指示されています。

私の寝室だけには絶対に這入らないでください。入ったらあなたを完全犯罪で殺害します
(p.28)

絶対に開けないでくださいという玉手箱パターンですね。普通こういう場合は開けてみるものですが、今回は開けなかったようです。隠館厄介にアドバイスをもらうときに、寝室に入ってみようかなとサラっと言ってみると、

殺されますよ!
(p.38)

と知ってるようなことを言います。

その寝室には、その部屋には何もありません。特に天井には何もありません。
(p.38)

天井に何があるかは他の作品を読めば分かります。まあそんなに大したものではないのですが。

さて、今回の話のタイトルに「色見本」という言葉が出てくるのは、誘拐されている今日子さんからのリクエストで、身代金ではなく服を持ってこいとか言われてしまうのですが、何色の服をと指定された後で、

わからないようであれば、色見本をご覧ください。どこかにあると思いますので。
(p.180)

どこかにあるとは、また頼りない話というか、もちろん今日子さんはどこにあるか知っているわけで、そこから画像の位置情報にまで発展するのですが、はて、その色見本があることを忘却探偵の今日子さんがなぜ覚えているのかというのが、忘れる前に作ったデータだから、というのはちょっと苦しいかな、と思いました。同じ服を二度と着ないトリックは、毎回クローゼットを見るから、でしたよね。

ところで、

「あら残念、冷たいんですね、私のボディガードは。鉄でできているのかしら」
(p.213)

鉄が冷たいとは限りませんね。熱いうちにウテと言いますし。

掟上今日子の色見本
西尾 維新 著
VOFAN
講談社
ISBN: 978-4062208758