Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

修道女フィデルマの挑戦(修道女フィデルマ短編集)

今日は「修道女フィデルマの挑戦」。先日紹介した「叡智」と同じシリーズで、6つの短編が入っています。

最初の2作品は、フィデルマの学生時代の話で、ファン的にいろいろ見所があるようです。1話の「化粧ポウチ」は、フィデルマのポウチが盗まれます。これは案外簡単に解決してしまいますが、奥が深い言葉がわんさか出てきます。

聡明な言葉と賢明な行動が、常に手を取り合っているとは限りません
(p.19)

口だけとかね。深くもないか。ストーリー的には簡単に判断するな、ということのようですが。

2話「痣」はフィデルマの卒業試験です。面接ですね。

我らの古の進行は、知識を文字に記すことを禁じておった。
(p.67)

古代のどこかでそのようなルールがあったような気がしますが、ギリシャ? 面接のバトルはだんだんヒートアップしていきます。

その言葉がどなたの口から出たものであれ、真実は真実です
(p.95)

いろんな人の話を聞いてから判断しろという話の後で、先の言葉が出てきます。よくあるのが、偉い人の話を鵜呑みにするというパターンです。しかし、幼稚園児だって正しいことを言えば正しいのだし、大学教授だって間違ったことを言えばそれは間違いでしょう。卒業試験の趣旨としては、

反対者を前にして、不利な状況にあろうと、あるいは権威の壁にぶつかろうと、あくまでも真実を見出す努力を貫き通す堅忍不抜なる精神力を持っているかどうかを見る
(p.99)

とかいって、無理難題を吹っかけてくるのです。試験前に閉じ込めるとか、結構無茶苦茶やっています。

ところでこのシリーズ、巻末の解説でも指摘されているのですが、

フィデルマは、走ることにした。ちょうど廊下の曲がり角にさしかかった時、逆のほうからやって来たらしいアインダールが、ぶつかってきた。
(p.34)

よく廊下の出合い頭でぶつかるんですよね。そもそも走っちゃダメだと思うのですが。ちなみに解説者は、こんなことを言っています。

次回はぜひパンをくわえさせてほしい。
(p.313)

食パンは必須ですよね。

3作目の「死者の囁き」は、死体から犯行を推理するという、法医学の達人みたいな話です。死人に口なしといいますが、実際は多くを物語るわけです。

外観を、相手の秘めた本質だと思い込むことは、愚かしいことです
(p.115)

私の場合、展示会等に名刺持参で行くときは、普段の十倍の値段の服を着て行きますね。いい腕時計をして。何をしたいのだろう。

4作名「バンシー」(The Banshee)。バンシーは日本でいえば死神みたいなものでしょうか。

遥かなる昔、バンシーは、ある特定の高貴な一家に庇護を与える女神であって、彼らの地上の生が終わって、〝彼方なる国〟に生まれ変わろうとする時が近づくと、差し迫った現世の死を悲しげに告げてくれる、と考えられておりましたのじゃ
(pp.155-156)

歌声を聞くと死ぬというのはセイレーンのような感じでしょうか。鵺の鳴く夜とか。

5作目「消えた鷲」は宝さがし。このシリーズにしてはちょっとパワーが落ちる感じがしますが、もしかすると原作はラテン語が分かると解けるのかも。6作目「昏い月 昇る夜」は、消えた船と荷物を探索する話。江戸の廻船問屋のような話です。船主は損害賠償を求めていますが、フィデルマは消えた乗組員が気になってしまいます。そういう性格のようです。


修道女フィデルマの挑戦(修道女フィデルマ短編集)
ピーター・トレメイン 著
甲斐 萬里江 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488218225