Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

生贄の木

今日はとにかく「生贄の木」を紹介したいのですが、まあ酷い作品です。いきなりネズミの大群が現れて老婦人がショックで死んでしまう。子供を狙う殺人鬼が掃除のおばさんのバットで殴られる。いきなりグダグダです。

誘拐されて逃げて来た子供の名前はココ、ウィリアムズ症候群とかで話がなかなかかみ合わない。

酷いというのは犯罪がです。子供が狙われます。子供が子供を攻撃します。大人も汚いです。警察や弁護士が冤罪をでっちあげて事件をもみ消します。無茶苦茶です。しかしミステリーとしては珠玉作です。読み始めると600ページを超えるような長編を一気に読んでしまいたくなります。

生贄の木というタイトルは、殺害方法を示しています。被害者は身動きできないようにされて袋の中に閉じ込められて木の上に吊るされます。水も飲めないので三日で死んでしまいます。死にかけている所にネズミがやってきてかじる、というのは他のミステリでもあったネタですが、もう死んでいると思って降ろしてしばらくしてから目を開けて悲鳴を上げたりされるのは怖いどころではありません。

「殺人は人を狂わせるんだね」〝死んだアーネスト〟が言った。
ううん、連中は狂ってなんかいない――ただ残忍なだけだ。
(p.363)

主人公は女巡査部長のマロリーと相棒のライカー。二人ともハッタリと度胸で勝負するタイプです。最後の最後はトランプでギャンブル勝負までやります。

ウィリアムズ症候群というのはよく知らないのですが、独特の感性を持っているようですね。音楽を聴いた後で、

「あのサキソフォンがお父さんだとしたら」ココが言った。「そのお父さんは死んじゃったんだよ」
(p.409)

大人がぶんぶん振り回されるのが面白いです。子供の感性は理解し難いのですが、ココは妄想を言っているわけではなく、事実をココの言葉で教えているのです。そこがこのストーリーの一番のポイントかもしれません。

読み返すつもりなので、気分が向いたらもう少し書きます。

 

生贄の木
キャロル・オコンネル 著
務台 夏子 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488195182