今日の本は「タイガーと呼ばれた子」。この本は「シーラという子」の続編だそうですが、そちらは未読です。
六歳の女の子が近所の幼児を庭からおびき出して植林地に連れこみ、幼児を木にしばりつけて火をつけた。
(p.13)
この六歳の女の子がタイガーと呼ばれた子です。名前はシーラ。シーラは母親に捨てられて父親と暮らしていますが、父親はアル中で薬もヤルので逮捕されたりします。その間、シーラは養護施設に入れられてしまうのです。
著者のトリイ・ヘイデンさんは実際にシーラを担当したセラピストで、つまりこの作品はノンフィクションだというのが驚きです。シーラだけでなく、登場する子供が皆問題を抱えていて、それも半端ないので、読んでいるうちにノンフィクションだということを忘れてしまいます。
このストーリーで一番注目したいのは、シーラがトリイさんを責めるシーンです。
あたしはあのときまで、自分の生活がどんなにひどいものだったかってことを知らなかったんだよ。そこにあんたがやってきて、突然まったく違う世界があるってことを教えたんだよ。
(pp.257-258)
シーラは劣悪な環境で生活していました。客観的には酷いものでした。しかしシーラはそれが普通だと思っていたのです。だから辛いことにも耐えることができた。ところが、本当の普通というのがどうなのか知ってしまって、今までの酷い生活が酷いのだと自覚することができるようになります。そうなると耐えることができません。
知らない方が幸せだったのにといわれたら、これは難しい問題です。その上、いままで欠けていたものを与えられて、しかもその後全部引き上げられてしまったら、本人は呆然とするしかないでしょう。
いったいどんな権利があってあたしにあんなものをくれたの?
(p.265)
シーラは他人を好きになりません。その理由がこうです。
あたしのほうから先に彼をきらわないと、彼にきらわれるのが怖かったんだよ
(p.407)
屈折した心理は徐々に改善されていくのですが、なかなかハッピーエンドとはならないリアルなところが恐ろしいです。
最後に恒例の一言を。
すべて記憶というものは、ぼくたちが経験したことの自分なりの解釈なんだよ。
(p.167)
経験した事実そのものではなく、アレンジしたものが記憶になるというところがミソなのです。
タイガーと呼ばれた子〔新版〕: 愛に飢えたある少女の物語
トリイ・ヘイデン 著
樋口佳絵 イラスト
入江真佐子 翻訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN: 978-4150505684