Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

化石少女

今日は推理小説、といってもラノベ的な感じもするのだが、化石少女。

文庫本も出ているが、今回は単行本のページ数になっている。主人公は高校2年生の神舞まりあ。名前はカンブリア紀から取ったのだろう。コンビを組むのが桑島彰。この名前は? まあいいや。この二人が化石部の部員で総勢2名の弱小クラブ。化石部の部長なので化石少女なのだ。この二人は幼馴染という設定なのだが、色っぽい話は微塵も無い。

まりあはヒタスラ化石を掘ってブラシで磨いているのだが、次々と殺人事件が発生する。部員不足で廃部の危機に瀕している化石部の部長であるまりあは、天敵の生徒会に犯人がいると推理。推理するものの、特に動きはないまま、次々と死人が。それはそうとして、まりあの思考回路が面白い。

それに世紀の大発見なんて、何時できるか判らないわよ。百年に一度だから世紀って云うのよ。
(p.44)

言われてみれば納得である。歴史上記録にないほにゃらら、のような表現もあるが。

作者は京大出身で、そのため、森見さんと同じく、京都ネタがちらほら出てくる。

鉄道系の弱小クラブは叡電部の他に嵐電部があるというのだ。
(p.119)

私はどちらも乗ったことがあるので、実に懐かしい。懐かしいという程、最近はとんと乗っていないのだが。しかしこういうの、京都を知らない人だとイメージが沸かないのではないか。ストーリーにはあまり影響ないからいいのか。

特に印象に残ったのは、生徒会書記の中島くんのこの言葉。

そもそも心というのは脳が生み出す電気信号に過ぎない。魂とはただの電気信号の集合体だよ。
(p.249)

クールだ。ま、確かにそうだ。感情ってのも所詮脳内で作られた電気信号なのだ。楽しいとかウザいとか、脳が勝手に作り出していると思えば、何かどんな気分もコントロールできるような錯覚が持てる。たかが脳内データの状態に過ぎないわけだ。

ところでこの小説、もちろん犯人も出てくるのだが、あまりにアッサリと簡単に人を殺して落ち着いている。今時の若い人の感覚ってそういうものなのだろうか。推理小説といえば、犯人がラスコーリニコフのようにアタフタしまくって自分から墓穴を掘るようなイメージもあるのだが、この小説の犯人も傍観者の生徒達も、殺人事件があった後、単に宿題が終わったみたいな感覚で翌日から平穏な日常生活をしているあたりがどうも奇妙だ。

もっとも、妖魔や怪異が出てきても普段の日常みたいな小説もあるから、そう思えば普通の学園生活という感じがしないでもないが。そういうアンバランスなところがラノベっぽい印象になっているのかもしれない。

 

化石少女
麻耶 雄嵩 著
徳間書店
ISBN: 978-4198638788

徳間文庫
ISBN: 978-4198942793