Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

おまけのこ

しゃばけシリーズの4冊目。5つの短編が入っている。

「こわい」は狐者異(こわい)の話…かと思ったのだが、長崎屋の若だんなが幼馴染の栄吉が気合を入れて作った饅頭を食べたら、思わず吐き出してしまい、

「不味かったんだっ。それで喉を通らなかったんだよっ」
(p.18)

実はまんじゅう怖いって話か?

冗談抜きにすると、この狐者異の怖いところは、

災難が狐者異と関わった者の、周りにも及ぶからですよ
(p.47)

確かにそれは怖いよね。

2つ目の短編「畳紙」(たとうがみ)は、レギュラーの妖の屏風のぞきが活躍する。この妖、割と地味な感じの陰キャラなのだが、この作品で少し印象が変わった。案外こまめに世話したがるタイプかも。さて、この話のヒロインはお雛さん。可愛らしい名前とは裏腹に怒涛の化粧しまくり娘で、

塗り壁妖怪の孫
(p.71)

と言われるほど顔を白くしている。美白を超えた白かな。黒で塗ったらガングロか。でもれっきとした人間なのだ。顔をそこまで塗らないと表に出る勇気がないというのは、妖よりも化物レベルが高いかもしれないが、匿名でネットに出るときだけやたら元気な人とかにちょっと似た気配がした。しかしこの次に続く言葉が、

しかしどんな突飛なものでも、何度も見ていれば慣れるらしい。
(p.72)

それは真理かもしれないが、どんだけ凄い想定なのか想像を超えているのかもしれない。アノニマスのあの仮面レベルじゃないのか。

3番目の「動く影」は若だんなが子供の頃の話だ。

子供の目にだけ見える怪異なのだ!
(p.144)

子供のときだけ妖精が見えるというのはピーターパンかな。電影少女に出てくるレンタルショップもそうだっけ。しかし大人になったら見えなくなるものは現実世界にたくさんあるような気がするぞ。ところで、この話に出てくる、

『今昔百鬼拾遺』

ネタ本なのかな。この後、一太郎が影女の説明をするのだが、影女のページは国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができる(国立国会図書館デジタルコレクション - 百鬼夜行拾遺 3巻. [1] 13コマ目)。ま、本に出ている通りなのだが、影女は障子に逆立ちした女らしき影が描かれている。

4番目は「ありんすこく」。タイトルページの絵は投扇興。若だんなが吉原で禿のかえでと勝負して負けてしまって、

勝ったご褒美は何が良いか聞いたら、廓の外に出たい、足抜けしたいんだって。
(p.204)

ということで大作戦になるのだが、オチを読むと結局そういうやり方なのか…みたいなパワープレイで解決してしまうのが納得できない、ていうかそれで片付くのならさっさとやってしまえば話が早いのに(笑)。しかし心の臓が悪いというかえでちゃんにそんなことして大丈夫なのか。話の中では大丈夫なんだけど。

さて、5番目の「おまけのこ」。本のタイトルにもなっている。この編では鳴家(やなり)が活躍する。というか割と酷い目にあう。ちなみに、鳴家というのは家をギシギシさせる妖なのだが、実は私の家にもたくさんいる。「おまけのこ」とはこの鳴家のこと。途中に出てくる、翡翠に見せかけた模造品を見て、若だんなはこんなことを言う。

本当にいい工夫だよねえ。高直な品を騙し取るためなら、人は知恵を回せるらしい。
(p.303)

鋭いこと。IMEが今壊れていて「高直」(こうじき)を入力するのに難儀したのだが、実は直っても変換できないなんてことはないだろうね。ありゃ、書き方が若だんなみたいになってしまったよ。


おまけのこ
畠中 恵 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101461243