守り人シリーズの第4作です。この巻は皇太子のチャグムが主人公です。バルサは述懐シーンにしか出てきません。
チャグムは隣国サンガルの新王即位の儀礼に招かれますが、そこで反乱を企む陰謀に巻き込まれそうになります。 殆ど巻き込まれて利用されてしまうのがサンガルの第二王子のタルサンで、思考回路がガキなのでことごとくやらかしてくれます。 実直なタルサンに向かって賢者たる姉のサルーナはこんなことを言います。
「自分を隠さない男は信用できるから、人びとは、あなたを好きになるし、たよりにするでしょう。でもね、あなたを恐れることもないわ」
(p.64)
確かに全部バレてたら怖がることはないですね。西尾維新さんの物語シリーズに出てくる貝木泥舟がある意味私の理想なんですが。
もう一つ圧倒的にタルサンを打ちのめすのが、サルーナの次の言葉です。
「島守りの陰謀をあらわにするためには、陰謀を実行させねばならないでしょう」
(p.284)
陰謀を阻止するより、実行させて成功前に一網打尽にしろというのです。犯罪は実行されないと逮捕できませんよね。 テロ等準備罪? なにそれ(笑)。 ていうか正式名称の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律という名称を知っている人は日本に何人いるのだろ。冗談はさておき、タルサンは陰謀に加担しようとしている仲間たちを説得して止めさせようとする、サルーナはその芽を摘んでおこうとする。その違いです。
たとえ国を救うためでも、島を見殺しにしたくないと思うおれは、幼いのか?
(p.285)
この答は物語の中には出てきません。読者への挑戦状のようです。
最後に、カリーナの実践的なお言葉が気に入ったので紹介します。
わたしが信じるか信じないかが問題ではないのよ、問題は、いかにして、王をはじめ、ほかの人びとに信じさせるかだわ
(p.279)
この本、自民党の偉い人たちにおすすめしたいです。これが理解できないようでは、次の選挙は都議選以上の凄いことになりそうな気がします。守り人シリーズ、意外と政治家向きの教訓本かもしれません。
虚空の旅人
上橋 菜穂子 著
新潮文庫
ISBN:9784101302751