Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

涼宮ハルヒの驚愕(前)

涼宮ハルヒシリーズの現時点での最終話の前編です。この直前の「涼宮ハルヒの分裂」から話が続いているので、分裂から読まないとわけが分かりません。ていうか最初から読まないとキャラの立ち位置が全然分からないと思うので、もちろん全部読むのがオススメですが、少なくとも1巻は読まないとワケが分からないです。

究極衝動派のハルヒに対抗する究極理性派の佐々木をヨイショする集団の陰謀編。前編を読むとどうしても何ですぐ実行しないのか、という疑問が頭から離れません。規定事項というタイムワープ的な御都合主義系の条件はあるし、

こう、エヴェレット的に
(p.183)

と言われてしまうとシナリオは読者が自由に変えられます的で何でもアリになってしまいそうですが、時空間の解釈としては、その直前に出てくる

「―時間は常にランダムに発生している。連続していない」
(p.182)

という世界の離散的解釈が面白いですね。世界は何と最初からデジタル化されていたのでした。量子力学的には当然なのでしょうか。

さて、「驚愕」で面白いと思ったのがハルヒ勉強法講座(笑)。受験生必読です。もっとも、ハルヒ自身はテストの無価値性についてしっかり力説しています。

テストなんてくだらないわ。だって、どんだけスゴイ解答を書いたって結局、上限は百点ぽっちって決まってるわけでしょ?
(p.198)

その上で仕方ないから勉強するみたいなスタンスがいいです。理由も出てきます。

この時期が人生で最大の重要期間なのよ。なぜって、この時分に熱心に取り組んで得た知識は、いつまでも覚えているものだから。って昔の人が言ってたわ。それが進路を決定することだってよくあるわけ。人間の脳細胞が一番活性化しているのは、十代の半ばなのよ。いま色々と興味の対象を取得してないと、あとあと後悔するわよ
(pp.80-81)

十代後半って確かに記憶に残っていますね、何が残っているかと言われたらよく覚えてないのですが。カニシカ王【謎】とか。しかし後編にも面白い話が出てくるのですが、それは次回に回すとして、具体的な勉強法。

試験に出る地名とか人物名なんかはほとんど定型だから、それだけ記憶しておきなさい。覚えのある名前を半分勘で書いたって高規模の確率でなんとかなるから。
(p.80)

丸暗記系の科目、歴史なんかは地名と人物名を覚えておいて勘で書け、というモンテカルロ法的な解法が光っています。頭の中には無意識に意味関係が構築されている可能性があるから、実際これでそこそこ得点できそうですね。

話はまたまた変わってハルヒシリーズの世界観ですが、古泉クンの想像する、

世界は善なる神によって創造されたのではなく、悪意ある神的な何者かによって設計されたのである、と
(p.255)

これはなかなか興味深いです。先に紹介したエヴェレット的解釈はミクロをマクロに適用する無理がありますが、百億の昼と千億の夜に出てくる世界であれば、善悪を超えたところでランダムに成功が期待されたシードとして個々の世界がある、つまり、失敗したらその世界は滅茶苦茶、ていうかリセットされてしまうシナリオ、その方が納得力はあります。

個人的には、万能の神を持ち出すよりも、ヘッポコなプログラマーが作った世界なのでバグだらけ、みたいなのが案外現実のような気がします。


涼宮ハルヒの驚愕(前)
谷川 流 著
いとう のいぢ イラスト
角川スニーカー文庫
ISBN: 978-4044292119