Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

心臓

今日はコミックで、奥田亜紀子さんの「心臓」。短編集です。

掲載作品は、次の通りです。

心臓
ニューハワイ
DREAM INTO DREAM
やま かわ たえこ
るすばん
神様

作品はなんというか、つげ義春さんとか、そんな雰囲気。しかしこの本で特筆すべきなのは、DREAM INTO DREAM の中にある「忍者丸紅」ですね。

もう帰って
いいですか?
(忍者丸紅)

礼儀正しくてよろしいわ。

ねるねるねるね のが
おいしいんですけどぉ
(やま かわ たえこ)

その、ねるねるねるねという回文が私には分からんのですけど、ていうか食べたことが一度もありません。何か人生損しているのでしょうか、私。

学生時代に下宿しているときに実家から段ボール墓が送られてくる、というのは既視感ありますね。


心臓
奥田 亜紀子 著
torch comics
リイド社
ISBN: 978-4845860265

人類最強の初恋

今日は西尾維新さんの「人類最強の初恋」です。ご存知ない方はタイトルが分かりにくいと思いますが、人類最強というのは哀川潤というヒロインのこと。最強の初恋というわけではなく、人類最強(の哀川潤)の初恋、ということなんですね。多分。

ストーリー的に哀川と呼ぶと敵とみなされるらしいので、今後、潤と表記することにします。この本には「人類最強の初恋」と「人類最強の失恋」という2作品が入っています。

「初恋」の方は、潤がスカイツリーで寝ていると隕石が直撃した、という物騒な話。最強なので隕石程度では死にません。この隕石が実はただの隕石ではなく宇宙人だった、というストーリーです。自分で書いていて何のことやら全然想像できないですね。すみません。

で、潤が人類最高の知能を持つおじいちゃん、ヒューレット准教授に、あたしハブられていじめられていると相談しますと、

「いじめられる方が悪い」
(p.119)

私もよく「いじめられる側に原因がある」ということがありますが、このおじいちゃんは「悪い」と言い切りましたね。

お前は自分がいじめられている理由を、自分が強いからだと思っているかもしれないが――お前が皆から無視されているのは、お前の性格が悪いからだ。
(p.120)

これは実に言い得て妙なんですよね。その通りなのだから。例えば潤が「もっと嫌われろ」とアドバイスするシーンがあります。

いい思いしている癖に、その上人から好かれようってのも、結構無茶苦茶だと思わない?
(p.103)

潤が話をしている相手は長瀞とろみ。とろい名前ですがなかなかのキレ者です。潤と違ってキレたりはしませんが。どちらかというと、トロトロとじっくり煮込んだビーフシュー的なキャラです。とろみという名前にしては鋭いことも言います、例えば、

結局人間関係なんて――コミュニケーションなんて、第一印象がすべてみたいなところがあるじゃないですか
(p.140)

確かに。そういえば、例の事件のとばっちりでテレビに滅多に出てこなくなった、みのもんたさん。私、昔はどちらかというとキライだったのですが、例の女子アナ万個事件【謎】でイノベーションというか、逆に劇的なファンになったのです。

プロクルステスの寝台って知ってました?

定義に合わせて現実のほうを捻じ曲げちまうことをプロクルステスの寝台っつー
(p.65)

Wikipedia を見ると、

プロクルーステース(古希: Προκρούστης, Procrūstēs)は、ギリシア神話に出てくるアッティカの強盗である。

とか書いてありました。書けない言葉も簡単に使えるのがネットの怖いところですね。右から左に情報を流しているだけ。私もインターネットの構成部品だと自覚できるのがいい感じです。何か老後の必要経費を2000万円に合わせろという話を思い出しましたが、それはおいといて、この話はやはりヒューレットパッカード博士【違】の言うことが面白い。

大抵の生物は『ただなんとなく』行動している
(p.122)

これ、最近特によく思います。具体的にいえば、この書評だって、ただなんとなく書いているだけです。思考している気がまるでしません。指が勝手に書いているみたいなものですね。もしかして指が考えていますか。ユビーに寄生されている的な?

准教授はその理由も説明していますが、そっちはショボいので省略します。

2つ目の話「人類最強の失恋」は、潤が月に島流しになります。島じゃないな。月流し。宇宙に追放するというのは魔法科高校の劣等生でも出てきたネタですが、最強人類は宇宙に追放する位しか対応のしようがないようです。潤いわく、

あたしはだだっぴろい空間に一人でいるより、狭いところで誰かとぎゅうぎゅうに詰まってるほうがよっぽど快適だねぇ。
(p.173)

二人いたら、強いとマウント取れますからね。とろみは「寂しがりなんですね」とかズレた反応していますが。そういえば、とろみの質問。

不思議なもので、才能のある人ほど『努力が大事』と言うんですよね。あれ、なんでなんでしょう。
(p.215)

素晴らしい質問かもしれないけど、それよりココ、「なんでなんで」という表現がなかなか印象的でよかった。でも潤の返事が、

才能がある人が才能が大事だっていったら、ただの自慢になるから、謙虚な姿勢を示してるってことじゃねーの?
(pp.216-217)

なるほどねぇ…。

最後に、「初恋」なんですが、この話、宇宙人が魅了という能力を使って人類を操ってしまうのではないかというピンチを何とかしろ、という話なんですけど、潤はそんなの心配する必要ないのでは、といいます。

人間って結局、好きなものでも、守りたいものでも、欲しいものでも、ぶっ壊せるしぶっ殺せる生き物だからさ。
(p.138)

魅了されても殺してしまえばいいのだと。もしかして、AIも進化すると、最終的にはそうなるんですかね。


人類最強の初恋
西尾 維新 著
竹 イラスト
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990400

NeuN

今日はコミックで、高橋ツトムさんの「NeuN」。表紙では最後の N は鏡像になっています。

Neun はドイツ語で9。なぜこのタイトルかというと、

ある人の精子
人工的に受精させる
ことで作られた
13人の子供が
ドイツの各地に
預けられ
育てられている
お前はその
9番目だ
(Epsode.1 ブラウシュテッペ)

その子供を殺せという命令が下されるのですが、子供を守れと命じられていたテオは、この命令を無視してノインと二人で逃亡する決断をします。舞台はナチスの支配する時代。逃げる間に、人間ががんがん殺されていきます。

なんで人間が生まれてきて
生きるのか? っていうことの
本当の意味を知らなきゃ
逆転は
できないんだよ
(Episode.12 生きることの意味)

キャラの中では、途中で仲間に加わるナオミがやたらカッコイイですね。 生死がテーマとして前面に出てきていることもあって、シブい台詞がたくさん出てきます。

人間は
生きるという宗教を
信じさせられているだけだ
(Epsode.27 Ende)


NeuN(1)
高橋 ツトム 著
ヤンマガKCスペシャ
ISBN: 978-4065101759

NeuN(2)
ISBN: 978-4065109076

NeuN(3)
ISBN: 978-4065127575

NeuN(4)
ISBN: 978-4065145111

NeuN(5)
ISBN: 978-4065169810

平太の初恋-はぐれ長屋の用心棒(44)

今日は長屋シリーズから「平太の初恋」。あといくつ寝ると…じゃなくて、あと何作残っていますかね。この作品は第44作で、今回のパターンは少女誘拐物です。

狙われているのは、大増屋という瀬戸物屋の娘、おきよ。孫六が酒を呑んでいると、

店の外の通りで、キャッ、という女の悲鳴が聞こえ、つづいて「静かにしねえか」と男のどすの利いた声がした。
(p.9)

人攫いですね。孫六と平太は機転を利かせておきよを助けますが、相手がしつこい。そこで大増屋の旦那が源九郎達に仕事を依頼します。

些少ですが、二百両用意いたしました。
(p.49)

どこが些少やねん。とにかく、大金をもらって請け負ったので長屋の用心棒達は本気で仕事にかかるのですが、調べてみると他にも行方不明になった少女がいることがわかります。おきよの歳が12歳とかいうことで、犯人はロリコンか。いつものパターンで一味のメンバーを1人ずつ捕まえて情報をgetしますが、例によって敵は口封じにやってきて捕らえられた仲間を殺して去っていく。殺されたらまた一味を捕まえて吐かせる。

やい、権八、てめえたちは、大増屋のおきよも狙っているようだが、おきよはまだ十二だぞ。
(p.136)

このあたりの感覚はよく分からないのですが、昔は武家とか、かなりの子供の頃に嫁入りさせたりした例もあったような。それは話が違うのか。「赤とんぼ」で嫁に行ったねえやは十五ですよね。もちろん十二と十五ではかなり違いますが。

さて、今回ラスボスは浦上。必殺技は、

「今日は、おれの十文字斬りをみせてやる」
(p.148)

そのうちイナズマスパイクみたいなのが出てくるのかもしれない。あるいは北斗百裂拳的な?

「おれの十文字斬りをかわした者はいない」
(p.150)

何か笑ってしまうのですが。ちなみに書き順は横、縦の順のようです。源九郎は三度目の勝負でこの浦上を倒すのですが、浦上も馬鹿正直に同じ技で戦わなくても何か裏をかいて攻めればよさそうなものを。例えばX攻撃とか。

さて、タイトルの平太の初恋ですが、平太はおきよが気になってしょうがないんですね。しかし、事件が解決すると、おきよが急によそよそしくなる。おきよは瀬戸物屋の一人娘で、

長屋住まいで、御用聞きの下っ引きをしている平太を婿に迎えるわけにはいかないのだろう
(p.269)

禁じられた恋なんですね。そもそもおきよの方は、別に何も思っていないのかも。源九郎は、そのうち酔いも覚めるだろうみたいなことを思っていますが、どうですかね、これは結構後の話の伏線みたいな気もします。

さて、今回の江戸の町ですが、

源九郎、菅井、孫六、茂次の四人が、花川戸町に行くことになった。
(p.100)

花川戸町というのは、今の台東区花川戸あたり。浅草寺の近くです。このあたり、源九郎達の勝手知ったるエリアなのかもしれません。


平太の初恋-はぐれ長屋の用心棒(44)
双葉文庫
鳥羽 亮 著
ISBN: 978-4575669251

少女不十分

今日の本は、西尾維新さんの「少女不十分」。

小説家の「僕」が10年前に経験した怪奇な話、という設定です。怪奇といっても怪異や能力者が出てくるわけではありません。出てくるのは案外普通のどこにでもありそうな話です。

登場人物は、主人公の小説家の先生と、小学4年生の女子のU。この小説家が U に誘拐されて監禁されます。ん、逆なのでは、と思うかもしれませんが、これで合ってます。この子供の行動がいろいろ不自然なのですが、

子供は親の真似をするものである。
(p.184)

ということに気づいて読むと、また面白さが変わってくると思います。

で、ストーリーとはまるで関係ないですが、気になったところを少し。

どんな職業のどんな人間も、突き詰めれば『誰かに使われている人』でしかないからだ。
(p.11)

国王とか浪人とかどうなのだろう、とか思いました。国王も国民に使われている、という解釈は成立しそうですね。浪人というのは江戸時代とかの話ですが、主君がいない武士って誰に使われているのか。

もっと気になっていることが。

つまり僕の履いてきたぼろぼろの靴は、この時点で、なんらかの形で始末されてしまっていたということのなのだが、
(p.111)

これは私が読み足りないのかもしれません。誘拐されたときに靴が処分されているのですが、その理由が分からないんですよね。少女Uの他の行動はだいたい分かったのですが。


少女不十分
西尾 維新 著
碧 風羽 イラスト
講談社ノベルス
ISBN: 978-4061828001

ハプスブルク家の悲劇

今日の本は「ハプスブルク家の悲劇」です。

ハプスブルク家オーストリア、ヨーロッパの中心に位置していて、あらゆる方向から攻撃されるのでもう大変なわけです。この本は、次の事件を紹介しています。

エリザベート暗殺事件
・ルードヴィヒ二世変死事件
・マイヤリンク事件
・ヨハン大公失踪事件
・マクシミリアン帝処刑事件
サラエボ事件
モーツァルト変死事件

この中で有名なのは、世界史の教科書に必ず出てくるサラエボ事件と、映画のネタにもなったモーツァルト変死事件でしょうか。サラエボ事件は、暗殺されたフランツ・フェルディナントとゾフィーの二人がウィーンでは人気がなかったといいます。

だからウィーンっ子たちは、当初暗殺事件にびっくりはしたものの、帝位が人気者のカール大公に移ったことを喜んだほどで、あまり同情の声も起らなかった。
(p.244)

そんな話は教科書には出ていなかったですよね。でもここから第一次世界大戦が始まってしまうわけです。

ルードウィヒ二世変死事件は、パラノイアになったと診断されて王位を剥奪された二世が、医師と一緒に水死体で発見されるという事件。事件自体がミステリーですが、二世が狂気だったという点について、後の研究によれば、この時の診断がデッチアゲだという説があるようです。例えば、

「狂気の証拠とされている事柄は、今日なら変人と言われるていどのもので、ルードヴィヒ二世がたまたま国王だったために、作為的に強調されて示されたにすぎない」
(pp.78-79)

フォローになっていないような気もしますが…

又従妹にあたるエリザベートに至っては、

国王は狂人ではないわ。ただ、夢の世界に閉じこもって風変りな暮らしをしていただけ。」
(p.97)

やはりフォローになっていないような…。慣習通りに桜を見ただけで大騒ぎになる国もあるのに、そんな国王がいたら国が潰れてしまいます。


ハプスブルク家の悲劇
桐生 操 著
ワニ文庫
ISBN: 978-4584391099

ことばの履歴

今日の本は、山田俊雄さんの「ことばの履歴」です。言葉の由来とか成り立ち的な蘊蓄話が多数出てきます。

あとがきを見ると1991年となっているのですが、読んでいると、昭和の初め頃のようなレトロな気分になってきます。

例えば天気予報というコラムでは、外れぬものの例として、

天気予報の「所に依り雨」
(p.63)

という言葉を紹介しているのですが、これは、

斎藤緑雨の『縮刷緑雨全集』(大正十一年四月、博文館刊)という、もはや古色蒼然とした、表紙に芋の葉か何かの画いてある小冊
(p.60)

から引用したといいます。確かに、どこかで雨が降るなんて予報は、まあ外れそうにない。

特に面白いなと思ったのは「どぐらまぐら」。もちろん夢野久作さんのあの小説のタイトルに使われた言葉ですが、この「どくらまぐら」というのは一体どういう意味なのか、という話が展開していきます。小説「ドグラマグラ」の中で、この言葉は意味が分からんということが書いてあったりするのですが、日本方言大辞典から、

どぐらまぐら 衰退きわまって右往左往すること。山形県北村山郡「どぐらまぐらする」144
(p.86)

だとか、江戸時代の書籍に、

取切粉(どぎらまぎら)
(p.87)

だとか、

東行西行(どぎらまぎら)
(p.87)

という表現があったとか、.よく見付けてくるものだと驚いてしまいます。この後もどぎまぎか、みたいな話に展開していって、もうわけがわからない。結局この言葉は夢野さんが方言を素材にしたのではないか、と推測されています。

「の」の字、というコラムは、指で書く話なのかと思いましたが(笑)、表記としての「の」が省略される話でした。その中で、

東京の旧市内の外周をめぐる環状鉄道を「山の手線」と呼ぶことは、近年復活したところだが、「山の手」という語が、依然として廃れないで在ったという事情からか、その復活は「山の手」と書くなら確実で、今後しばらくは「ノ」の脱落するようなことにはならないように思われる。
(p.130)

2019年現在、JR東日本の公式ページの表記は「山手線」となっていますが、読みは「やまのてせん」という状態で、表記の「の」がどこかで脱落したようです。ヨドバシカメラの歌も「やまのてせん」と歌っています。

 

ことばの履歴
山田 俊雄 著
岩波新書
ISBN: 978-4004301882