Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

秘剣霞颪ーはぐれ長屋の用心棒(19)

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズに戻って「秘剣霞颪」。例によって(笑)、源九郎と菅井が歩いていると、たまたま駕篭が襲われているところに遭遇します。もちろん駕篭に助太刀して賊を撃破。この場は別れますが、後日、長屋に初老の武士がやってくる。名前は倉林、お目付の柏崎藤右衛門の用人とのことですが、この柏崎が先日襲われた駕篭に乗っていたわけです。

実は、柏崎さまは何者かに命を狙われているのだ」
(p.37)

柏崎を護衛して欲しいというのが今回の依頼です。これに源九郎は、

「まさか、御目付さまの命を狙うような者はいまい」
(p.37)

と疑問を投げますが、

「げんに、そこもとたちは、柏崎さまが襲われたのを見ておられよう」
(p.38)

それもそうだし。源九郎は百両でこのミッションを受けます。さてどうしたものかと情報を集めていると、敵に父を斬られたので敵討ちをしたいという若者がやってきます。名前は牧村慶之介。敵というのが、駕篭を襲った奴等なわけですね。慶之介が言うに、

「父は、その男が霞颪(かすみおろし)なる技を遣ったと口にしていました」
(p.56)

でました必殺技! この時点では眉間を割るような技だということしか分かっていません。しかしすぐに、実際に遭遇することになります。

源九郎には武士の刀身が、まったく見えなかった。見えるのは柄頭だけだった。切っ先を後ろにむけ、刀身を水平に寝せているからである。
(p.110)

カムイの得意技に「変移抜刀霞切り」がありますが、これはどちらから刀が出てくるか分からないという技です。刀が見えない系の必殺技に「霞」という名前が付くようです。この時は何とか浅手で済みますが、

「爺さん、なかなかの腕だな。……おれの霞颪をかわすとはな」
(p.112)

ジジイの武士って滅茶苦茶強そうなイメージがあるんですけどね。子連れ狼の柳生烈堂とか。

それはおいといて、長屋の仲間、茂次と三太郎の尾行シーンを見ながら江戸を少し散策してみましょう。

前を行く五人は、行徳河岸から日本橋川沿いの通りへ出た。そこは小網町である。
(p.187)

行徳河岸は東京メトロ行徳駅の近くのようですね。そこから小網町って、結構歩いてません? ここに越野屋という、今回の黒幕の店があることになっています。

前を行くふたりは、入堀にかかる思案橋のたもとで別れた。
(p.188)

思案橋日本橋の近くでしょう。

武士は堀沿いの道をいっとき歩き、親父橋のたもとで右手にまがった。そこは狭い路地で、通り沿いには小体な店や表長屋などが軒をつらねていた。
(p.189)

本吉原のあたりでしょうか。

しばらく歩くと、武士は浜町堀にかかる高砂橋を渡った。
(p.189)

このあたりは人形町交差点より少し北東方面に進んだところだと思います。江戸地図とか欲しいですね。

さて、霞颪を遣う浪人が立川宗十郎であることを突き止めた源九郎は、桑山道場で話を聞いてみようと思い立ちます。道場をノーアポで電撃取材。

「若いころ、蜊河岸に通った華町源九郎でござる」
(p.218)

これで道場主に分かるというのだから結構な有名人ってことですね。道場主とは面識はないのですが。立川はこの道場の出で、破門されていることが分かります。

「華町どの、立川を討つつもりなのか」
桑山が源九郎に目をむけて訊いた。
「そのつもりでいる」
「立川は、悪人だが並の遣い手ではないぞ。やつは、剣鬼だ」
 桑山の双眸が強いひかりを帯びていた。苦悶の表情が消え、剣客らしい面貌にかわっている。桑山も、剣一筋に生きてきた男なのだ。
「承知している。霞颪と称する剣を遣うこともな」
(p.223)

プロはプロを知るといいます。


秘剣霞颪ーはぐれ長屋の用心棒(19)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664560

ランキングのカラクリ

そういえば、今月はなぜ毎日一冊ずつ紹介しているのでしょうね? 先月は毎日紹介するという目標を立てたのですが、今月は別に「雑記」でも構わないのですが。3週間続けたら習慣になってしまうというアレでしょうか。

惰性的に今日も紹介します。今日は長屋シリーズではなく「ランキングのカラクリ」。統計的なトリックについて解説している本です。いろんなランキングが紹介されていますが、中でも、

本書で挙げた例だとたえば、「大学ランキング」なるものは悪質なものが目立つ。
(p.9)

というのは実感としてありますね。そもそも大学の「総合的評価」というのが訳が分からないです。総合的にこっちの大学が上って何、みたいな。

大学ランキングの評価に使う指標の中に「図書館充実度」というのがありますが、

ただし「図書館充実度」の注にあるように、単なる冊数を競っても意味は少ない。
(p.169)

どんな本があるのか分からないから、とのことですが、同感ですね。ただ、それ以外の要素として、快適さなどが重要という主張のようですが、個人的には Wi-Fi やコンセントが使えるとか、書庫にある本の引き出しやすさ、みたいなのも評価して欲しいです。最近だと書籍が電子化されているかというのも重要だと思います。電子化されていないと同時に読める人数がどうしても制限されてしまうからです。なかなか返さない人っていますよね。私のことか。

就職に関する評価では、

(2-1)は「就職者数÷(卒業者数 - 大学院進学者数)×100」という数値を使うそうであるが、一般には「卒業生の中の就職希望者のうち何%が就職したのか」という数字の方がポピュラーである。
(p.172)

(2-1) というのは気にしないでください。就職希望者という概念は正確に把握し辛いような気がします。就職したいけど、希望のところは無理そうだからしない、というのは希望者なのかそうでないのか、というような問題が発生するからです。また、実就職率というのは、一般に、就職率(就職者数 ÷ 卒業者数)で比較すると大学院に進学する学生が多い大学の就職率が低くなってしまう傾向があるため使われるようになったと思われます。東大だと就職率0%の学科が結構ありますよね。全員大学院に進むとそのような数字になります。

就職率に関しては、こんな話も出てくるのですが、

「2017年における、私立大学の就職率は97%でした」、この記事を見たとき、筆者は「えっ」と思った。一応中堅の大学の中で、ウチの大学は就職率の良い大学として知られていたが、それでも96%程度だったからである。
(p.75)

個人的には、97%も96%も変わらんような気もしますが。

ちなみに、こんな話も。

使っている税金の額で言えば、国立大は学生1人あたり約220万円、私立大は約15万円
(p.174)

平均の数字が出てきたときは注意が必要、ということはこの本の最初に注意喚起されているので問題ないでしょう。もちろん学生1人に対して220万円が使われるわけではありません。

面白いと思ったエピソードは、偏差値操作【違】の話。

模擬試験の日、筆者は同クラスの皆に父が経営する大学(大阪商業大学)を第2志望か第3志望に書くよう呼びかけてみた。おもしろがったクラスの半数ほどが実際に書いてくれたのであるが、この他愛ないイタズラによって恐ろしいことが起こった。なんと大坂商業大学の偏差値(難易度)が10ポイント以上上昇したのだ(恐るべしN高校生!)。
(pp.46-47)

そういえば、デジタルハリウッド大学は、国立一本で東大勝負のような人が私立は受けないのですが、空欄にするのもアレなので名前が印象的なこの大学をとりあえず書いてしまって、結果的に偏差値が上がることがあるそうですが…

ちなみに、私の高校は、ラジオのリクエスト番組に組織票を送って、校歌をランキング1位にしたことがあります。

ところで、GIGOという言葉はご存知でしたか?

アメリカに〝GIGO〟という略語があり、これは〝Garbage In, Garbage Out(ゴミが中に入ると、ゴミが出てくる)〟の略であるが、ゴミのような元データを入力すれば、出てくる結果は(どんなに情報機器が進歩しても)ゴミでしかあり得ないことを表す。
(p.67)

この解説はトンカツ弁当の話のところに出てくるのですが、とんかつ弁当はいいですよね【なにが】。

 

ランキングのカラク
谷岡 一郎 著
自由国民社
ISBN: 978-4426125356

怒り一閃-はぐれ長屋の用心棒(24)

てなわけで【なにが】、今日は「はぐれ長屋の用心棒」の「剣術長屋」の次の話、「怒り一閃」です。前回お願いされた松浦藩の剣術指南役に出かけるところからスタートします。今回は菅井メインって感じですね。

剣術指南というのは競争の激しい世界ですから、まず、藩の屋敷で稽古をした後にいきなり喧嘩を売ってくる奴がいる。その名は茂木。

「居合は、立ち合いのできぬ刀術でございましょうか」
(p.28)

茂木は割と強いです。最初、菅井が居合の抜刀を模範演技として見せるというところでマッタをかけて、先のセリフ。立ち合いが出来るのなら俺と勝負しろというわけです。基本、居合は真剣でないと勝負できません。いつの間にか刀が抜かれている、斬っている、死んでいる、というのが居合の本質です。見切りが重要ということで、鞘の内が勝負とも言いますが、竹刀だと鞘がないですからね。

ところが、菅井は木刀で勝負するといいます。前回の道場試合で、菅井は木刀で居合を遣っていますから、経験アリなのです。とりあえず勝負したところで、菅井が圧倒的強さで勝ってしまう。

次は源九郎の番ですが、

つづいて、源九郎が面、籠手、胴の防具を着け、竹刀を手にして稽古場に立ったが、家臣のなかに試合を望む者はいなかった。菅井の腕を見て、恐れをなしたようだ。
(p.35)

もう誰も向かってきません。二人が凄腕だというのでビビってます。ところが、この菅井の妙技を見て、ヘンなのが現われる。

「何としても、居合を修行したいのです。お師匠、それがしを弟子にしてください」
(p.42)

名前は佐々木。今回のメインゲストでしょうか。断ろうとしますが、勢いに押されて承諾してしまう。

ところが、この佐々木が話の途中で斬られて死んでしまうのです。文庫本の表紙で倒れているのが佐々木なのでしょう。背後には藩内の出世争いとか、それで動く金を出す商人の利権争いとか、今の社会と何も変わらないような背景があります。このドロドロに巻き込まれてしまう。そこで菅井が本気で怒ります。こんな奴を本気にさせたらただでは済みません。

敵の凄腕に野末というのがいます。野末が通っていた矢沢道場に、源九郎と菅井が話を聞きに行くシーン。

「矢沢どのは、おられようか。鏡新明智流の華町源九郎が来たと知らせてもらえば、分かるはずだ」
(p.214)

たの~も~う、って感じですかね。幸い、矢沢は源九郎を覚えていたようです。話を聞いてみると、

「わしは、野末の武士からぬ所業をやめさせようとして意見をしたのだが、なかなかあらたまらなかった。それで、やむなく破門したのだ」
(p.217)

破門されたようです。菅井が野末と立ち会うことを伝えると、「存分に」という返事。斬ってもいいらしい。菅井としては本当は斬ってしまいたいのですが、尋問しないといけないので斬り殺せないのです。野末のアジトが分かると、さっさと踏み込んで峰打ちにして捉えます。話を聞こうとすると、話すことはない、とつれない返事。それなら、

「華町、こやつを斬らせてくれ! 佐々木の敵だ」
(p.240)

これはどうも半分本気らしいです。


怒り一閃-はぐれ長屋の用心棒(24)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575665567

八万石の危機-はぐれ長屋の用心棒(33)

今日は長屋シリーズから「八万石の危機」。八万石といえば、登場するのは16巻「八万石の風来坊」で出てきた青山京四郎様です。最初からピンチばかりだったような気もしますが、まだ危機があるのか。

源九郎と孫六が珍しく二人で波乃屋で飲んだ後に、武士の斬り合いに遭遇してしまいます。二人対四人のバトルで、二人の側から助太刀をお願いされてしまう。孫六は逃げようといいますが、時既に遅し。

「逃げたくても、逃げられん」
(p.18)

相手は四人、孫六は戦力外なので源九郎を加えても四対三の戦い。しかも相手が案外強い。絶対的不利な状況ですが、孫六が近くから人を集めてきて騒ぎにしてしまいます。すると、どういう訳なのか分かりませんが、相手としては騒がれるのは都合が悪いらしく、そそくさと退散してしまいます。

斬られるところだった二人は前園誠一郎と里之助。田上藩の者です。田上藩ってどこかで聞いたような…っていうか、現藩主はあの青山さま。となると手助けしないわけにはいかない。

この二人、実は国許で親を斬られており、その敵討ちで出てきたのですが、斬った相手は七人。敵は出奔して江戸にいるというのですが、いくら何でも二人で七人は無茶というか、早速四人相手に返り討ちにあう寸前に…というのが冒頭のシーンです。二人は上役の高野と一緒に長屋を訪れて、源九郎たちに正式に仇討ちの助太刀を頼みます。とはいえ手練れの七人を相手というのは源九郎としても無理がある。しかし礼金として出てきたのが百両。青山さまとは面識もあるし、百両出されて断る奴はこの長屋にはいません。

青山さまと源九郎達が相談するシーンも出てきます。流石にはぐれ長屋で殿様と会うわけにはいかないので、会談は料亭になります。作戦会議では、長屋に囮を置いておき、探りに来た敵を尾行して住処を突き止める、というアイデアが出て、大目付の高野は、長屋に町人に化けた目付を住まわせておいて、敵が現われたら尾行させようというのですが、京四郎いわく、

「高野、伝兵衛店には、剣の腕だけでなく、尾行や張り込みに長けた者たちがいるのだ。まかせておけばいい」
(p.101)

16巻、17巻のドタバタ騒ぎでよくご存知なのです。

あとはまたしてもドタバタ、急襲したと思えば罠で挟み撃ちに、みたいなシーンが次々と出てきます。しかも話は家老暗殺計画が発覚するところまで発展して、もはやただ事ではなくなってくるのですが、最後はいつものパターンでちゃんと仇討ちもできて予定調和となるわけです。

今回の見どころは、八万石のお殿様、青山京四郎のキャラ。相変わらずってところ。暴れん坊将軍よりはすこく真面目な感じですが、まあヤンチャ系ですね。若様感があってよろしゅうございます。


八万石の危機-はぐれ長屋の用心棒(33)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575667189

剣術長屋-はぐれ長屋の用心棒(23)

今日の長屋シリーズ(笑)は、「剣術長屋」。23話目です。ここまでの成り行き上仕方ないという流れで、源九郎と菅井が島田の道場の師範代を押しつけられてしまいます。島田というのは長屋にいた仲間で、今回、道場を新規オープンすることになったのです。流派は「神道無念流」。

神道無念流の祖は、福井兵右衛門だった。江戸に神道無念流をひろめたのは戸賀崎熊太郎で、その弟子の岡田十松、さらに斎藤弥九郎が剣名を高めた。
斎藤弥九郎が九段にひらいた練兵館は、千葉周作玄武館桃井春蔵士学館と並び、江戸の三大道場と謳われて隆盛をみた。
(p.21)

このことは Wikipedia にも出てきます。

てなわけで道場を開いたら、早速来ました。将棋を指している菅井と源九郎のところに伝令が。

「道場破りです!」
(p.31)

(笑)。源九郎と菅井が駆け付けてその場は凌ぐのですが、後でどんどんややこしいことになります。とかやっているうちに、入門したいという武士が四人も現われた。この四人は松浦藩藩士を名乗ります。

まあそこまでは順調ですが、その後、門弟が襲われるという事件が多発します。殺されたわけではなく、真剣で峰打ちです。その道場ヤメロという警告ですね。峰打ちだって骨は折れますから大変です。それで、島田は源九郎達に犯人を突き止めて欲しいと依頼します。源九郎はこれを五両という大サービス価格で請け負います。

探索の結果、相手が河合道場に関わっていることが判明。相手も本気を出してくる。なんと居合の達人の菅井が斬られそうになるのですが、ていうか実際浅手に斬られているのですが、必死で逃げていると、

 ……このままでは、逃げられぬ。
 と菅井が思ったとき、前方に騎馬の武士が見えた。十人ほどの家士と中間などが馬の前後に従っている。
(p.154)

この武士に助けを求めたら助かるのでは。

「お、追剥ぎでござる! 後ろのふたり、追剥ぎでござる」
(p.155)

といって助けを求めます。追剥ぎじゃないんですけどね。こういうのは先に言った者の勝ちです。武士が、

「追剥ぎどもを、討ち取れ!」
(p.155)

何か本物のサムライっぽい。さすがに二人でこんなのに歯向かうバカはいないから、菅井を追ってきた奴等はさくっと逃げてしまいます。で、菅井は低頭して礼を言うと、武士は「気をつけて帰られよ」とか言って去ってゆく。

誰?

まあいいけど…

で、次は源九郎が待ち伏せられてピンチ。

「わしの名は華町源九郎。うぬの名は」
源九郎が中背の武士に向かって誰何した。
「渋川十三郎」
(p.180)

大ピンチなのに、相変わらずプロトコルが細かい。さて、この渋川が向かってくると、源九郎はいきなり別の武士に斬りかかります。しかし浅い。絶対絶命の状況ですが、なんとか長屋の仲間が支援に間に合って投石援護してくれて助かった。しかし源九郎も浅手とはいえ斬られてしまった。そのタイミングで、河合道場から島田道場へ試合の申し込みが。

「分かった! おれたちを狙ったのは、試合に出さぬためだ」
(p.207)

強い奴がいたら試合で負けてしまうので、まず片付けてから正式な試合を申し込んだ訳ですな。試合といっても剣術指南がかかってますから、社運、いや、場運【謎】が勝敗にかかっています。

ところが菅井も源九郎も不死身なので試合に出てしまう。しかもご都合主義なので勝ってしまう。予定が狂った河合道場の面子は、島田道場の道場主、島田を斬るという最後の手段に出ますが、そう来るだろうと読んだ長屋の用心棒たちが、島田道場で毎晩酒盛りをしてから寝泊まりして待ち伏せます。やって来たら返り討ちですね。ついてないですね。百人位連れてくればいいものを、一人相手なら楽勝と踏んでたった三人でやって来る。怖い二人と道場主の島田ではとっても相手が悪い。

これにて一件落着なのですが、その後、松浦藩から源九郎と菅井に、剣術指南をしてくれないかという依頼が来てしまう。この話、次作の「怒り一閃」に続きます。


剣術長屋-はぐれ長屋の用心棒(23)
双葉文庫
鳥羽 亮 著
ISBN: 978-4575665345

七人の用心棒-はぐれ長屋の用心棒(39)

七人の侍、という伝説の映画がありますね。今日は「はぐれ長屋」シリーズから「七人の用心棒」。映画を意識したタイトルなのかどうかは分かりませんが。「七人の用心棒」でググったら最初の方は「七人の侍」しか出てこないので慌てました。七人を紹介しておきますと、

源九郎、菅井、安田、研師の茂次、岡っ引きだった孫六、鳶の平太、砂絵描きの三太郎
(p.53)

サイボーグ009みたいな感じです。

今回のストーリー。女と子供が斬られそうになっているところに、源九郎と安田が出くわして、成り行き上、助けてやります。 ところが、何故襲われているのか釈然としません。女の名前は、おはま。おはまの言うには、

知り合いの橋本弥之助という武士が、おはまと長太郎の住む借家に来て、「ここを、襲おうとしている者たちがいる。すぐに、逃げねば、ふたりとも殺される」と白瀬、おはまは長太郎を連れて、緑町の家を出たという。
(p.22)

てなわけで逃げたのですが、追いつかれて斬られそうになった。そこに長屋の二人が通りがかったわけです。白瀬というのは護衛の武士、長太郎が子供の名前です。

行き場もないので長屋に連れてきて匿っていると、いつものパターンで金を持っていそうな武士登場。名前は豊島と里中。二人は味方で、百両出しておはまと長太郎を長屋で匿うよう依頼しますが、この二人にも襲った犯人が誰なのか分かっていません。しかも長太郎は実は殿の隠し子。お家騒動の匂いがぷんぷんします。

敵さんもなかなかの腕ですが、長屋を強襲しても七人の用心棒がいるので攻め込めない。追い返されてしまいます。ここで源九郎は、敵さんは別の手で来るのではないかと読む。

「わしらを、ひとりひとり襲うのだ。……長屋を出たときを狙ってな」
(p.92)

タスクを抱えたときは全部やろうとせずに、1つずつクリアしていくのがセオリーです。長屋の連中も、いつもやってる手ですね。今回も罠を仕掛けます。まず、源九郎が茂次と二人で出歩いて、油断していると敵に誤解させる。人通りの少ないところに誘い込んで、待ち伏せてぶっ叩く。相手は当然逃げる。その逃げた相手を尾行して、アジトがどこかを探る。

三太郎と孫六が尾行するシーンで神田仲町が出てきます。秋葉原の西あたりですかね。

通り沿いの店の多くは、表戸をしめていたが、飲み屋、料理屋、そば屋などからは灯が洩れ、男の談笑の声や嬌声などが聞こえてきた。
(p.107)

今だと秋葉原は外国人がわんさかいて何が何だか分からない町になっていますが。後はいつも通りなのでバッサリカットして、今回のラスボスは坂井。源九郎が坂井のいる借家にたどり着くと、坂井は酒を飲んでいます。

顔が酒気を帯びて赭黒く染まり、双眸が底びかりしていた。
(p.263)

このシリーズ、酒を飲んでから戦うシーンが結構多いのですが、酔った状態でまともに刀が振れるのでしょうかね。体が覚えているから問題ないのかも。


七人の用心棒-はぐれ長屋の用心棒(39)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668223

長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒

今日も、はぐれ長屋シリーズ、今回は「長屋あやうし」。何が危ういのかというと、伝兵衛長屋が地上げというか、乗っ取られそうになります。

手口は割と定番で、今でもありそうな気がしますが、まずガラの悪いのが越してきて近所にいろいろ嫌がらせをする。怖くなった人はそこから出ていくわけです。部屋が空いたら仲間を連れ込んで、どんどん雰囲気が悪くなる、とかいう。実は裏にはこの長屋を乗っ取ろうとする黒幕がいて、そいつが悪い奴等を金で雇っているわけです。

ガラの悪い奴の名前は滝蔵。ただし、この長屋には源九郎と菅井が住んでいます。こいつらを追い出すのは並大抵のことではない。悪いレベルでは負けていない。しかし相手もさるもの、大勢で一人ずつボコって長屋から出て行けと脅します。そこで源九郎は考えた。

「わしが、長屋を出違っているとの噂を流してくれ」
(p.114)

引っ越し先を探すふりをして敵を探ろうというのですね。そううまく行くモノなのか。とかいってるうちに、何と大家の伝兵衛にかわって滝蔵が長屋の大家になるという話が出てきた。伝兵衛に確かめに行くと、

三崎屋さんに、わけは言えないが、それしか手はないので何とか頼むと頭を下げられましてね
(p.140)

この長屋の大家さんは伝兵衛ですが、さらに上にボスがいるわけです。大大家、ていうかフランチャイズです。しかも長屋を出たいという噂なのに出て行かない源九郎に敵さんもしびれを切らしたのか強敵出現。その名も平沼玄三郎。前にも書いたような気がするが、玄という字が付くと悪そう。

相手のチンピラを騙して拉致して刃物で脅して情報をgetした結果、どうも三崎屋が息子を人質を取られて悪者の言いなりになっているようだ、ということを突き止めた源九郎が三崎屋の主に直に話を聞きにいきます。息子が何で人質に取られているかというと、博奕に手を出して借金が返せなくなったらしい。そこまで分かったら、人質を暴力的に奪還すれば解決だ。滝蔵は大家という立場を利用して、値上げした家賃を払えと迫ってくるのですが、用心棒まで連れてきたのに源九郎が刀を振り回して用心棒の右腕を斬りつけて追い返した。どっちがヤクザか分からない。

とかいってるうちに黒幕の伊勢蔵のアジトが分かったので強襲してちゃんちゃん、という筋書きです。強襲というのもやり方が汚いというか、まず公権力に話を持ち込む。相手は栄造。常連の親分さんですね。誘拐監禁事件があるけどどうよ、と誘った後で、

賭場のある場所も、一味の隠れ家も分かってるんだぜ
(p.253)

そこまでデカい話なのか、町方的にはお手柄のチャンスがネギを背負ってやってきたようなものだから、絶対に捕まえに行くわけですね。長屋側としては手柄なんかどうでもいいから、全部町方の手柄にして顔を立ててやるのです。その代わり、ムカつく奴等は斬らせてもらうということで。町方としても、悪者が雇っている用心棒なんか相手にしたくないから、むしろ斬ってくれ。Win-Win のシナリオがこうやって出来上がります。

ラスボスの平沼との対決は、いつも通りで何かのんびりしている。源九郎が、立ち会う前に訊きたいことがあるという。

「何だ」
「わしは、鏡新明智流を遣うが、おぬしの流は」
「おろは馬庭念流だ」
「すると、上州の出か」
(p.281)

さっさと斬ればいいのにと思うが、プロトコルというものがあるようです。めんどくさい。


長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663419