てなわけで【なにが】、今日は「はぐれ長屋の用心棒」の「剣術長屋」の次の話、「怒り一閃」です。前回お願いされた松浦藩の剣術指南役に出かけるところからスタートします。今回は菅井メインって感じですね。
剣術指南というのは競争の激しい世界ですから、まず、藩の屋敷で稽古をした後にいきなり喧嘩を売ってくる奴がいる。その名は茂木。
「居合は、立ち合いのできぬ刀術でございましょうか」
(p.28)
茂木は割と強いです。最初、菅井が居合の抜刀を模範演技として見せるというところでマッタをかけて、先のセリフ。立ち合いが出来るのなら俺と勝負しろというわけです。基本、居合は真剣でないと勝負できません。いつの間にか刀が抜かれている、斬っている、死んでいる、というのが居合の本質です。見切りが重要ということで、鞘の内が勝負とも言いますが、竹刀だと鞘がないですからね。
ところが、菅井は木刀で勝負するといいます。前回の道場試合で、菅井は木刀で居合を遣っていますから、経験アリなのです。とりあえず勝負したところで、菅井が圧倒的強さで勝ってしまう。
次は源九郎の番ですが、
つづいて、源九郎が面、籠手、胴の防具を着け、竹刀を手にして稽古場に立ったが、家臣のなかに試合を望む者はいなかった。菅井の腕を見て、恐れをなしたようだ。
(p.35)
もう誰も向かってきません。二人が凄腕だというのでビビってます。ところが、この菅井の妙技を見て、ヘンなのが現われる。
「何としても、居合を修行したいのです。お師匠、それがしを弟子にしてください」
(p.42)
名前は佐々木。今回のメインゲストでしょうか。断ろうとしますが、勢いに押されて承諾してしまう。
ところが、この佐々木が話の途中で斬られて死んでしまうのです。文庫本の表紙で倒れているのが佐々木なのでしょう。背後には藩内の出世争いとか、それで動く金を出す商人の利権争いとか、今の社会と何も変わらないような背景があります。このドロドロに巻き込まれてしまう。そこで菅井が本気で怒ります。こんな奴を本気にさせたらただでは済みません。
敵の凄腕に野末というのがいます。野末が通っていた矢沢道場に、源九郎と菅井が話を聞きに行くシーン。
「矢沢どのは、おられようか。鏡新明智流の華町源九郎が来たと知らせてもらえば、分かるはずだ」
(p.214)
たの~も~う、って感じですかね。幸い、矢沢は源九郎を覚えていたようです。話を聞いてみると、
「わしは、野末の武士からぬ所業をやめさせようとして意見をしたのだが、なかなかあらたまらなかった。それで、やむなく破門したのだ」
(p.217)
破門されたようです。菅井が野末と立ち会うことを伝えると、「存分に」という返事。斬ってもいいらしい。菅井としては本当は斬ってしまいたいのですが、尋問しないといけないので斬り殺せないのです。野末のアジトが分かると、さっさと踏み込んで峰打ちにして捉えます。話を聞こうとすると、話すことはない、とつれない返事。それなら、
「華町、こやつを斬らせてくれ! 佐々木の敵だ」
(p.240)
これはどうも半分本気らしいです。
怒り一閃-はぐれ長屋の用心棒(24)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575665567