Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

きまぐれ藤四郎ーはぐれ長屋の用心棒(20)

順番が滅茶苦茶ですが、どんどん行きます。今日の長屋シリーズ【謎】は、「気まぐれ藤四郎」。

長屋の住人の吾作が、下働きしている富沢屋で押し込みにあって殺されてしまいます。そこで娘の「おしの」が用心棒達に敵討ちを依頼。小銭をかきあつめて持ってくるシーンは泣くところ。しかし後から富沢屋の主人も仕事を依頼したので十分な軍資金はgetした。百両。

この金を分配する時、島田という新入りが首を突っ込んできます。ハブるわけにもいかないので、とりあえず仲間に入れて仕事をさせると、なかなか結構やります。砂絵描きの三太郎とコンビで行動するのですが、三太郎いわく、

「旦那は、町方同心のようですぜ」
(p.59)

武士だけあって、そこはかとなく威厳があるようですね。この島田が調子にのりやがって(笑)、

「実はな、こんな身装をしているが、ここにおいでの方は、隠密に事件の探索にあたられているのだ」
三太郎が声をひそめて言うと、
「お女中、それがしは火盗改の者だ。髭を伸ばしているのも、それと気付かれぬためなのだ」
(p.78)

デタラメもほどほどにしろ。ていうか調子に乗り過ぎて、待ち伏せにあいます。たまたまそれを見ていたおしのが長屋に知らせて、慌てて源九郎と菅井が駆けつけます。島田は斬られてしまいますが、幸い深手ではない。

犯人は夜鴉党という一味らしい。逆襲の手がかりとするため、メンバーの勇造を捕えていろいろ吐かせます。しかし勇造は長屋に監禁されているところを仲間に殺されてしまいます。口封じですね。夜鴉党、怖いです。

何かいつものパターンを書くのに飽きたので、一つ、江戸の風景を紹介します。

永次は、富ヶ丘八幡宮から半町ほど手前で右手にまがった。そこに、路地があった。この辺りは永代寺門前町で、路地沿いには料理屋、そば屋、小料理店、縄暖簾を出した飲み屋などが軒を連ねていた。
(p.229)

この永次を尾行しているのは、孫六と茂次。

「とっつァん、どうする」
茂次が訊いた。
「まず、めしだ。それに、酒。喉が渇いてどうにもならねえ」
(p.230)

ソバと酒というのがこのシリーズでは多発していますが、今の東京では、そういうシーンはあまり見たことがありません。そのような場所に行けばあるのかもしれませんが、私が蕎麦屋で最後に見たのは数年どころか十年前かもしれません。昼間っから酒飲んで蕎麦を食うなんて、なかなか乙なものです。一回やってみたい。明日やってみるか(笑)。


きまぐれ藤四郎ーはぐれ長屋の用心棒(20)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664744

美剣士騒動-はぐれ長屋の用心棒(30)

今日の長屋シリーズは「美剣士騒動」、これは30作目ですね。美剣士というと魔法少女みたいなのをイメージするかもしれませんが、もちろん男です。

源九郎と菅井が浜乃屋で飲んでいると、斬られた武士が逃げ込んで来ます。名前は

室井半四郎でござる。
(p.32)

このシリーズ、源九郎が年配なのでジジイとか多いのですが、この武士はイケメン。浜乃屋のお吟がポッとなってしまいます。源九郎はこれが面白くないのですが、悶々とするだけで口には出さないから面白い。我慢するのが流石は武士です。とりあえず追手を退けて長屋に匿うのですが、この室井、何で斬られたのかというと、本人も分からないという。ただ、

家に相続をめぐって揉め事があるのです。
(p.43)

相続はいつの世も骨肉の争いになりますね。しかも、

室井家は、本郷に屋敷のある三千石の旗本だという。
(p.57)

ってことで、結構エリートのようです。相続といっても世継ぎということになると話がデカすぎる。普通に邪魔な奴を殺すレベルの争いが発生するわけです。源九郎はヒントを求めて、室井が修行した道場に話を聞きに行きます。アポなし訪問すると、道場主が会ってくれます。

「わしが福原峰右衛門だが――。華町どのは、だいぶ剣の修行を積まれたようだが、何流かな」
(p.87)

剣の達人は一瞥しただけで相手の力量が分かる、といいますが、プログラマーはそんなの全然分かりませんね。コードを見ないと。この福原もジジイなのですが、なかなか出来る感じです。しかしこの後出てこないのが残念。とかいってるうちに源九郎が待ち伏せされてピンチです。今回のラスボスは大槻。

「上段霞崩し……。よくかわしたな」
(p.106)

冗談のような技名ですが、これが必殺技。源九郎たちの分析によると、

「上段霞崩しは、初太刀で敵の刀をたたき落として構えを崩すことから名付けられたのではないかな」
(p.126)

つまり単なる力技ですね。

そうこうしているうちに、はぐれ長屋で暮らしている室井のところに美少女がやってきます。名前はお春。春が来た。

お春は小石川に屋敷のある千石の旗本、宅間喜十郎の次女だという。
(p.199)

もう結婚が決まっているのですが、世継ぎが結婚するなんていうとさらに危険ゾーンに突入してしまう。しかしお春は長屋に一緒に住むとか言い出します。金持ちの考えることは分からん。もっとも、勝手知ったる場所で戦力を集めて籠城した方が、戦うには有利という考え方もあります。そして本当に攻めてくる。

後はいつものパターンで、逃げる相手を尾行して塒(ねぐら)を突き止め、一人ずつ片付けていく。全部一度は大変だからタスクは一つずつ片付ける、マネージメントの基本ですね。

最後は上段霞崩しを破って武士の情けでトドメを刺してやるというハッピーエンドです。


美剣士騒動-はぐれ長屋の用心棒(30)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575666625

迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「迷い鶴」。6作目ですから、かなり初期の作品になります。

今回の源九郎は、巡礼姿の娘が拉致されるところに出くわします。それを阻止すると、この娘が記憶喪失で、ここはどこ、私は誰、の状態。仕方ないので長屋に連れてきます。巡礼姿は白装束。掃きだめのような長屋で真っ白なので、掃きだめに鶴、ということで、とりあえず「お鶴さん」と呼ぶことになります。

このお鶴さん、小太刀の構えが出来ます。

お鶴は右手の小太刀を前に突き出すように構え、左手を腰のあたりに添えていた。腰が据わり、構えにも隙がなかった。かなり小太刀の稽古を積んだとみていい。
(p.65)

ということは剣の修行をしたのだろう、と源九郎は考えます。しかし誰なのか分からない。しかも敵は襲撃してくる。何とか撃退したら、今度は謎の武士たちがやってきます。これは幸い味方で、そのうちの一人は何とお鶴の許嫁なのですが、残念ながらお鶴は何も覚えていない(笑)。いや笑いごとではない。話を聞くと、お鶴の名前は房江で、

房江の父、田代助左衛門は黒江藩で二百石を喰む大目付のひとりだったという。ところが、一月半ほど前の夜更、田代家に数人の賊が侵入し、助左衛門、妻の登勢、ふたりの内弟子を斬殺して逃走した。
(p.111)

大目付が殺されたのは、汚職がバレそうになったからです。賊は汚職の証拠を奪おうとしたが見つからない。その調書を持って、助左衛門の子供の房江と鉄之助が、逃げるために巡礼姿にコスプレして江戸に向かったわけです。その途中で鉄之助は捉えられ、房江は危ないところで源九郎に助けられたわけですね。

さて、だいたいシナリオは分かったところで、源九郎は黒江藩の家老から呼ばれて、正式に仕事の依頼を受けます。金百両。気乗りしないと見せておいて実はやる気満々です。ところが仕事を依頼されたら早速お鶴さんがアッサリと拉致されてしまう。拉致した奴等は、国許から持ち出した調書を取り戻したいが、どこにあるのか分からない。

「房江、国許より治さんした調書はどこにある」
(p.177)

この時点で、お鶴さんとしては、調書の場所どころか、自分が房江という名前であることすら分からない。

「し、知りませぬ」
嘘ではなかった。お鶴自身にも、思い出せなかったのだ。
「この期に及んで、まだ言い逃れようというのか」
(177)

記憶にご・ざ・い・ま・せ・ん、とか言ってやれ。

カムイ伝とかだとここで残虐な拷問シーンになるはずなのですが、このシリーズ、割とバサバサと人を斬り殺す割に、残虐なシーンは少ないです。映像にしてもR15あたりかな。駿河問いなんて絶対にありえないです。せいぜい青竹で殴って、

若い娘を打擲していて嗜虐的な気分になったのか、目が異様なひかりを帯びている。
(p.180)

これが限界です。

さて、源九郎と菅井は、お鶴さんを拉致した奴等のいる屋敷に討ち入って、沢口という藩士を捕まえます。手荒なことをしたくないといいつつ、

源九郎は手にした刀の切っ先を沢口の左足の甲に突き刺した。
(p.206)

これは痛い。お鶴は本当に記憶がないのだから拉致しても埒があかないと説得して、死ぬまで拷問するぞといいつつ、今度は右足に刀を向けます。

「ま、待て」
(p.208)

両足は勘弁して欲しいですよね。お鶴さんの居場所を聞き出したら、武士の情けらしいですが、腹を刀で突き刺して切腹したような姿で殺してしまう。情け容赦ないです。

この後ドタバタがあって記憶も取り戻したところで父の敵討ちをして一件落着、というお約束パターン。今回は父の敵を討つ二人が道場で鍛えていますから、割ときれいに片付きます。


迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662351

瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒

今日は長屋シリーズ【謎】から「瓜ふたつ」。源九郎を向田武左衛門という男が訪ねてきます。瓜ふたつというのは、向田と源九郎が似ているわけです。

向田は、昔、道場で一緒に修行した男です。清水家に奉公していたのですが追い出されたとかいって子供と二人で長屋に引っ越してきます。

これだけでは話も始まらないのですが、殺人事件が発生します。殺されたのは武士。死体を見た向田は、

見ず知らずの者でござる
(p.45)

いつも疑問に思うのですが、「ござる」とか本当に江戸時代の武士は使ったのですかね。それはそうとして、明らかに向田の表情がおかしい。何か隠している。このネタはすぐにバレるのですが、要するにこの裏にあるのはお家騒動です。向田が連れてきた子供は

清水忠四郎さまのご嫡男なのだ
(p.67)

清水家当主の兄の子供だというのですね。ヤバいヤバい。しかも裏事情まで打ち明けたのだから、これは仕事の依頼ということになりますね。最初は、このシリーズにしてはショボい十両という金で護衛を引き受けます。後はいつものパターンですね。長屋が強襲されるが協力して追い返す。相手の戦力を削ぐために討って出る。敵の中に島次郎というのが出てくるのですが、島次郎…

まあいいか。何となくカワイいイメージしか出てきませんが。あと、町医者の玄仙。こういう名前は悪いイメージしかありません。

今回は源九郎と向田が昼にソバを食うシーンを紹介します。午後二時というので遅いランチですね。

ふたりはそば屋の追い込みの座敷に腰を落ち着けると、小女にまず酒を頼んだ。喉も乾いていたので、酒がことのほかうまかった。ふたりで、しばらく酌み交わした後、そばをたぐって腹ごしらえをしてからそば屋を出た。
(p.169)

蕎麦の前に一杯飲むというのが乙ですね。天ぷらと漬物でもあるとなおいいですね~。


瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663310

風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)

今月も相変わらずの流れで、「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「風来坊の花嫁」。風来坊というと例の青山京四郎。これが貧乏長屋に直接訪ねてきます。次期当主ですから、そんな所に気軽に来る人物ではないのですけどね。何をしに来たのかというと、

「おふたりに、剣術指南を頼みたいのだ」
(p.17)

お二人というのは、もちろん源九郎と菅井です。身分の違いはありますが、知らない仲でもないし、十両くれるというし、あっさり引き受けてしまうのですが、これがまたいろいろお家の中の派閥争いとかあってややこしくなります。特に剣の流派とか、ややこしいですね。皆、オレの流派が一番と思っていますから。

さて、そうこうしているうちに、田上藩の家臣の柿崎がばっさり斬り殺されてしまう。一撃なので下手人は手練です。さらに、死にはしませんが、菅井も斬られてしまうし、菊江も襲撃される。菊江って誰?

これが風来坊の花嫁候補なのです。若様の結婚話なんてのは政略結婚に決まっていますが、今回はお互い気に入っているので問題はない。しかしそれが気に入らない奴等もいる訳ですな。ということで、今回のミッションは、いろいろ邪魔してくる奴を片付けること。菊江も狙われているので守って欲しい。もちろん依頼主は若様ですから、百両ほどポンと出してくるので、簡単に契約成立になります。

ちなみに、はぐれ長屋の連中、大金を受け取るとすぐに十両で飲みに行くんですよね。当時の1両は諸説ありますが、今の金額にすれば10万円程度ですか。100万円で5人で飲むって、キャバクラでぼったくられる感覚か、銀座でママさん囲むか。まあ一晩で飲んだわけでもなさそうですが。

今回の見どころは、まずは御前試合。源九郎に勝負を挑んでくる奴等がいるのです。断ると臆病者ということで、剣術指南にふさわしくないとか言われそう。源九郎的には別にどうでもよさげですが。しかも相手は手強い。手強いと逆に戦ってみたくなる。

源九郎には、こうした戦いを避けるべきではないという思いもあった。剣に生きる者の宿命である。それに、貧乏牢人でこの歳になれば、敗れても失うものはないのだ。
(p.132)

失うものがない人間は強いです。ただ、この御前試合、いろいろ裏があるので試合が面白い。そこは伏せておきます。

試合は何とか勝ちますが、次のクライマックスは秘剣「霞剣」の遣い手、沢田との対決になります。秘剣まで出されては後には引けん【寒】。

どういう対決かというと、菊江様が芝の下屋敷に見舞いに行くことを敵は察知して、待ち伏せて片付ける計画を立てている。そのことを察知した源九郎達が護衛することになります。狙われていると分かっていたらそんな危ないところ行かなければいいのに、絶対に行くということになっている。しかも青山の若様までついていくと言い出す。こうなると源九郎と菅井が同伴しても防げるかどうか。そこで、ちょっとした罠を張ります。

「青山さまと菊江さまには、少々あぶない橋を渡ってもらうことになるが」
(p.227)

これに皆が乗っかってしまうから、ほんまにいいのか、って感じもしますけど。ま、それなりの策ではあります。

最後、全部片付いたところで、また若様が長屋にやってくる。何しに来たの、そういう身分じゃないでしょ、といいたいところだが、菅井と将棋をするという。しかも意外なリクエストがあって、源九郎がおふくを呼びます。

「青山さまがな、おふくの煮染が、食べたいというのだ」
(p.279)

武家屋敷には庶民の味付けの食べ物はないのでしょうね。しかし煮染なんて、すぐにできるモノじゃない。おふくとしては食べさせてあげたいのだが、ないものはない。しかぁし、源九郎は店で買ってこいといいます。

「田村屋の煮染でいいのだ。青山さまに、味は分からん」
(p.280)

青山様、騙されてますぜ(笑)。

「おふく、この長屋で煮染を馳走になったこと、生涯忘れぬぞ」
(p.282)

何か重要なところでミスっているような気もするけど、おふくはまんざらでもないようだし。個人的には糠漬けでも所望して「このお漬物がっ!」位は言って欲しいところですが。今は若様ですが、当主になるともうここに来ることはできないから、挨拶代わりに来たらしいのですね。粋な若様なのです。


風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664171

八万石の風来坊―はぐれ長屋の用心棒

最近コレばかりですが(笑)、今日は「はぐれ長屋の用心棒」から、「八万石の風来坊」です。

いきなり、娘さんが悪い奴等に囲まれているシーンです。そこに助けに入った武士っぽい若い男が何か情けない。源九郎が近付いてみると娘は同じ長屋に住んでいる、おふくちゃん。源九郎は軽くチンピラをやっつけておいて、武士はどうなっていてるかと見てみると、刺されたわけではなくて、腹が減って動けないという。

それがし、青山京四郎と申す。
(p.17)

おふくは、助けてくれたお礼に長屋に来てくれといいます。

源九郎は、助けたのはおれではないか、と胸の内でつぶやいたが、
(p.18)

そう思いつつ、長屋に誘ってメシを食ってもらうのが大人の対応です。表もあれば裏もある。しかしこの武士、誰? 食う金もないのですが、長屋にしばらく住みたいといいます。店賃(家賃)は払えるのかと問い詰めると、脇差を手渡して、

「初代是一だそうだ」
(p.34)

是一という名刀は実在しています。これを売って金にしろというのです。

地肌は、黒味を帯びて澄んでいた。刃文は是一の特徴と言われている大丁子乱れである。
(p.34)

ということで、長屋に居座ってしまうのですが、何でそんな宝物を持っているのか。

今回のラスボス役は村上泉十郎。迅剛流の達人です。これが京四郎を殺しに来るのですが、そうはさせじと源九郎との勝負になります。最初に立ち合ったときは、お互い浅い傷を負います。源九郎は村上には勝てそうだが、その間に他の敵が京四郎に向かってくるのはまずいと考え、村上にここは引けと促します。仕切り直した方が、お互い得策だろう。

「おぬしとは、このような見物人のいないところで、立ち合いたいものだ」
(p.100)

引けといわれてあっさり引くのは武士としては納得できない状況ですが、このように言われると面目も立つのでしょう。村上は一旦引きます。

さて、何でそういうウロンな奴等が京四郎を襲うかというと、

京四郎君は、羽州、田上八万石の若君であられるのだ
(p.108)

若様だったのですね。ということで、八万石の風来坊というタイトルなのですが、それが何で一文無しで江戸をウロウロしていたかというと、逐電したというのです。逃げたのですな。

この若様、若様だけあって、何かズレています。庶民の感覚がないというのもありますが、かといって偉そうな態度でもない。いいキャラです。源九郎の腕に仰天した護衛の藩士達は、護衛を依頼します。金が出てくれば用心棒達の出番ですね。

若様の居場所はバレバレで敵襲必須なのですが、凄腕の源九郎や菅井が守っていれば動かない方が得策だろう、ということで待ち構えていると、敵が案外多くて慌てたりしますが、このままではジリ貧とみた源九郎達は、いつものパターン、こちらか撃って出る作戦。ちょっとずつ相手を片付けていけばこちらが有利な状況になっていくわけです。

最後は利根川で大決戦になるのですが、結局戦力は互角。マトモにやればどちらも死者多数という予想の中、

「何か手はないのか」
(p.256)

と青山がいうと、源九郎は、

「手はあるが……」
「あるか!」
(p.257)

ないと話になりませんからね。

 

八万石の風来坊―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663945

袖返し―はぐれ長屋の用心棒

これはシリーズ2作目。今回はシリーズではレギュラーのお吟の話。袖返しというのは掏摸(スリ)の技の名前です。

この技を袖返しと呼び、掏摸の仲間うちでは袖返しのお吟の名でとおっていた。
(p.15)

どんな技か、この前に細かく説明が書いてあるのですが、細か過ぎて引用も説明も面倒なので、興味のある方は本を確認してください。要するに袖が返るように見える技なのです。

お吟は源九郎から掏ろうとして失敗して逆に捕まってしまうのですが、町方に引き渡すのも面倒だと思った源九郎は見逃してやります。それからお吟は掏摸をやめ、父親の栄吉と浜乃屋という料理屋を始めて今日に至る、というわけです。ちなみに、栄吉も元は掏摸です。

さて、お吟は足、いや、手? を洗ったのですが、ひょんなことで掏摸を探している武士に捕まえられそうになります。これをたまたま通りがかった(笑)源之助が助けてやるのですが、この武士が、源九郎の旧友だった武士と一緒に長屋にやってきて、掏摸を探していた理由も伝えて、我らでは手に負えんということで、華町に仕事を依頼するわけです。手伝う義理はないですが、手付の十両を目にすると俄然やる気が出る。

ところが、少し探っているうちに、お吟の父親の栄吉が殺されてしまいます。怖い相手です。

今回の見どころですが、元岡っ引きの孫六が、元掏摸の喜八に話を聞きに行くシーンが面白い。喜八は反物屋で働いているので、孫六は客を装って反物屋に入って、お互い、見た目は反物を品定めしているように見せかけながら、裏世界の情報を仕入れている。最後に、

「むかしの親分らしくて、ほっとしやしたぜ」
喜八が目を細めて言った。
「おめえも、老け込むのは早えぜ」
(p.106)

ここで get した情報は、転びのお松という女掏摸の情報。これが今回の黒幕です。つるんでいるのは常蔵。とても悪い奴です。ところがこの常蔵が最後まで暴れて源九郎に斬られるパターンかな、と思いきや、あっさりと死体になってしまう。

源九郎達がお松の住処に踏み込んでみると、子分と一緒に既に死体になっていたのです。先回りして口封じした奴等がいる訳ですね。ていうか、お松は常蔵を見限って武士に殺させておいてトンズラしたんですね。

最後はお松の隠れ家も突き止めますが、源九郎は無茶苦茶な手に出ます。

「今夜、お松の家に火をかける」
(252)

火付は死罪のはずなんですが(笑)。まあ単にボヤですませる計画で、実際それで済んでいます。火をつける理由は、火事になれば一番大切なものを持って逃げるはず、つまり掏り取ったモノを持って家から出てくるからです。そこをお吟が、

「あたしが、お松のふところから抜くよ」
「掏り取るというのか」
(p.254)

女掏摸対決ですね。今回のクライマックスです。

「やるよ。あたしの腕をお松に見せてやる」
 お吟はそう言うと、右袖をたくし上げて、手首に結んであった赤い糸を歯で噛み切った。栄吉がお吟の右腕を封印した糸である。
(p.255)

封印は解かれた!


袖返し―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575661736