Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法

今日紹介するのは、いわゆる受験本。勉強法を書いた本である。タイトルは「東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法」、著者は河野玄斗さん。

ハッキリ言って全然シンプルではない。出てくる項目が多すぎる。これがシンプルだと言えるのは東大に挑戦できるレベルの人だけだろう。シンプル以前に、書いてある内容が理解できない人も多いと思う。他の受験本に比べると比較的易しく書こうという努力は感じられるが、それでも河野さんは勉強のできない人のことが分かっていないのではないかと思われる。

僕の勉強の原動力は、「勉強が楽しい」という、勉強をゲームのように楽しむ気持ちです。
(p.16)

この時点でこの本を投げ捨てる人がいそうな気がする。今の高校生で勉強が楽しいというのはレアケースで、大抵の人は勉強は面白くない、できればやりたくないことではないのか。そのような、勉強が楽しくない、面白くないという気持ちを河野さんは理解していない。もっとも、そのような気持ちになったことがないのなら、仕方ないこかもしれない。

そこを象徴するような話がいくつかある。

勉強に限らず、スポーツでも芸術でも、「何に打ち込む姿はカッコいい」と思われるものです。
(p.40)

もちろん、スポーツや芸術に打ち込む姿はカッコいい、そこは同意できる。しかし、勉強に限っては、本当に打ち込む姿にカッコいいという印象があるのか。そこが怪しいのではないか。このことは、河野さんも指摘していて、

漫画などでステレオタイプに描かれる「ガリ勉=根暗」というイメージもあると思いますが、
(p.40)

いやいや、あるどころではない。根暗というより、ダサい、あるいはズバリ「カッコ悪い」というイメージを持つ人がいるのではないかと思う。じゃあどんなのがカッコいいかというと、世の中の高校生の多くは、勉強しないけど成績がいい、偏差値が高いというのがカッコいいと思っているような気がする。

もう一つ、河野さんの感覚を象徴している話がある。ゲームのラスボスを倒すころには上達しているのは何故か、というのがテーマなのだが、

これは初めてプレイする人でも「できるループ」をうまく回して楽しくプレイできるように、ゲームの製作者が様々な工夫をしているからに過ぎない
(p.53)

全然違う。ラスボスを倒すころに上達しているのは、上達しないとラスボスを倒せないからである。言い換えれば、上達したからラスボスが倒せたのである。

倒せない人も大勢いるのだ。

そのことを河野さんは気付いていない。河野さんにとっては、ゲームは必ずラスボスを倒せるものなのだ。やれば必ずできるのだ。いや、その前に、やれるという大前提があるのだ。それは信仰のようなものであって、途中で挫折してそこまで進めない人はこの世には存在しないのだ。

「勉強それ自体が、誰でもやれば楽しめるものである」と信じています。
(p.63)

やれば楽しめるということはあまり否定したくないのだが、その前に、やれないという人の存在を想定すべきなのである。もっとも、そのような人がこの本を読むということはあり得ないのかもしれないが。

この大きな誤解を除けば、書いてある内容は、他の本に出てくるものと殆ど同じネタである。適切なレベルまで戻って勉強し直すとか、ゴールを決めて逆算して計画を立てるとか、模試を受けて弱点を把握して対策するとか、受験マニア【謎】ならどこかで見たようなことばかりだ。裏を返せば、この本に書いてある内容はおおむね妥当で正しいのだ。

さらに、細かいことが書いてあるという点では、この本は他よりも役に立つ可能性がある。例えば、さりげない話かもしれないが、

僕がオススメしたい手段は「自分よりゴールに詳しい人に教えてもらう」ことです。
(p.91)

スケジュールが立てられないとか、どの参考書をやればいいとか、分からないことがあったら分かっている人に教えてもらえというのである。当たり前だが、これをちゃんと書いてあるのはいい。

リラックスのやり方も具体的に書かれている。

気持ちを落ち着かせたうえで四肢を脱力させてあげましょう。その際、右手→左手→右足→左足と順に力を抜いてあげるとやりやすいでしょう。
(p.128)

根拠ある手順らしい。このような具体的な話が出てくるところは、一読の価値がある。

また、後半には各科目がどんな役に立つのかを説明していて、そこは興味深い。以前紹介した「知的戦闘力を高める 独学の技法」の方が具体的であり深いところまで掘り下げているように思うが、例えば数学に関しては、

問題解決能力が養われる
(p.186)
論理的思考力が身につく
(p.188)

といったことを指摘している。論理的思考はよく言われることだが、問題解決能力というのはいい視点だと思う。これはつまり、解法というのは数学の問題だけではなく、日常生活で遭遇する雑多な問題にも応用できるからだ。つまり、数学の解き方というのは数学だけでなく、いろんな場面で応用できるのである。ビートたけしさんは因数分解を映画作りに応用するとか言ってたと思ったが、そのようなアレンジができれば、いろんな所で数学を問題解決のネタとして使うことができるのだ。

古文・漢文を学ぶメリットとしては、

古文・漢文のメリットとしては、

外国語の学習の練習になる
(p.208)

というのも面白いけど、

2つ目の意義として、古来の人々の価値観を知ることができる
(p.208)

これはいい視点だと思う。古来というとかえって分かりにくいだろう。日本人の考え方が分かる、と明確に断言していい。

社会、特に歴史を学ぶ理由としては、

歴史を自分の人生に生かすことで、失敗を経験せずに済む
(p.239)

歴史は人間の事例集だから、他人の失敗事例から学べば自分はちゃっかり失敗を避けることができるのだ。「こっちの道はヤバいぞ」という伝言ができるソシャゲがあるが、そんな感じだ。みんなで同じ失敗をするのは損だけど、歴史を学んでズルく生きることができる。ズルという言い方がイヤなら、得すると解釈してもいい。歴史を勉強したら損しないで済むのである。これは前述の「知的戦闘力を高める 独学の技法」ではかなりのページを使って説明されている。

ということで、ざっくりまとめると、旧帝を狙うレベルの受験生なら、読んで実践できれば受験の役に立つだろう。学力がそこまでではないのなら、書いてあることを実践すること自体が難しい。とはいっても、出てくる細かい内容が何かの役に立つことがあるかもしれない。そんな感じの本である。


東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法
河野 玄斗 著
KADOKAWA
ISBN: 978-4046023056