Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

学年ビリから東大へ進み、作家になった私の勉強法

今日の本は「学年ビリから東大へ進み、作家になった私の勉強法」。ジュニア向けの本。

勉強法の本なのだが、具体的な勉強法はあまり出てこない。後半の第4章になってやっと、英語は覚えろ、数学は解け、国語は本を読め、というような具体的な話が出てくる。この本はおそらく小中学生を対象にしているため、いわゆる受験本ネタのエビングハウス曲線みたいな話は出てこない。

では何が出てくるかというと、ページをたくさん割いているのは、君たちは15年後にどう生きるか、的な話だ。具体的にいえば、AIが普及した時代にどうやって生き残るか、どんな仕事を選べばいいか、ということ。

根っこにあるのは、AIが進化したら今と仕事が変わる。人間はAIのできないことをやらないとダメだ、という発想である。ただ、ここに出てくるAIは前世代的で、最初から創造力やコミュニケーション能力が欠如している、割と人間に都合のいい想像なので、個人的にはもっと SF・ファンタジー的な進展を想定して行動した方がいいと思う。気付いたらAIに人類が支配されていた、というのは…まあそれはそれで面白いかもしれないが。

筆者はAI社会では「ソウゾウ性」が重要だと主張する。

想像と創造という、二つの意味での「ソウゾウ性」
(p.043)

先日紹介した選択問題は、AIにはソウゾウ性が足りないからこういう問題は解けない、という結論にしたいらしい。この問題、実際は人間も解けていないのではないか。殆どの人が同じ選択肢を選ぶ世界のどこにソウゾウ性があるのか。

いずれにしても、失業しないためにはプログラミング力を高めておけ、という結論には賛成である。そのうちAIが勝手にプログラムを書いてくれそうな気もするけど、プログラマーという立場もあるし、そこは同感ということにしておこう。ではプログラマーに必要なスキルは何か。

プログラミングと同時に数学を勉強していなければ、将来的に職業としては使いものになりません。プログラミング能力に数学力がドッキングして、はじめて無敵になれるのです。
(p.046)

数学とは目の付け処がいい。この後、話は学校教育が子どもたちの「ソウゾウ性」をつぶている、という方向に流れていく。ネタとして使われているのは、昔からよくある話、リンゴ3個が入った袋が4袋あるときリンゴは全部で何個か。という問題だ。

「3×4=12が正解で、4×3=12は不正解」
と教えている先生がいるのです。
 これはまったくナンセンスな話です。掛け算には順序の決まりは存在しません。「3×4=12」と「4×3=12」はまったく同じで、順序を入れ替えてもかまわないのです。
(p.057)

今時まだこのように教えている先生がいるのかいないのか知らないが、交換法則とこの問題の解き方は関係ないと思う。

リンゴ3個を4袋と認識したのなら、3個×4袋=12個と考えるのも、4袋×3個=12個と考えるのも正しい。しかし、3袋×4個=12個と考えたのなら、それは間違っている。重要なのは順序ではなく、頭の中で何を考えているかだろう。

この本はプログラミングを重視しているようだからさらに指摘しておくが、プログラムの世界では、a×bとb×aの結果が同じになるとは限らない。評価順序というのがあって、f(a) + g(a) と g(a) + f(a) の結果が違ったりしてビックリする。余計なことを教えると、プログラムが書けない人間ならまだいいが、バグを書く人間を育ててしまうかもしれない。

さて、勉強法に関しては、まずこれをやれという。

「勉強法をまず勉強する」
(p.063)

確かにこれは重要だ。正しい。メタだという話も出てくる。メタは面白い。

で、メタの話が出てきたのなら、とても気になるのは、勉強法を勉強するときに勉強法が分かっていなくても大丈夫なのか、という点だ。でも気にしない。

もう一つ気になった話が、インドは数学が得意な国ということで、

古くは数字の「0」を発見したのもインド人ですし、「1、2、3、…」というアラビア数字も、そもそもはインドが起源なのです。
(p.088)

インドというとラマヌジャンさんを思い浮かべるのだが、それはさておき、だからインドは数学が得意な国だという結論は、いくら何でもコジツケだろう。今のインドが数学が得意な国なのは、数学教育に力を入れているからじゃないのか。

国語が苦手な生徒の話は、ちょっと考えさせられた。

漢字を読めないまま放置していて、それが国語の勉強でつまずく原因になっている人は、意外と多いのではないか。
(p.121)

読解力がない生徒の中には、漢字が読めないために意味を理解できない人がいる、というのだ。個人的に、最近は、もっと本格的に本の読み方を理解していない人がいるような気がしている。つまり、本に書いてある文字を読んで頭の中に世界を構築する、という「読み方」そのものが分かっていないのだ。単に文字を読んで声を出している、ボカロ的な処理しかしていない生徒が、意外と多いのではないか。

とりあえず、今日の一言。

可能性は無限だから、あなたは何でもなれる!
(p.135)

可能性と実現できるかどうかは別だと思うが。でも、空も飛べるはず。地面に激突したら死ぬけど。


学年ビリから東大へ進み、作家になった私の勉強法
英数国の成績が劇的にアップする (YA心の友だちシリーズ)
竹内 薫 著
PHP研究所
ISBN: 978-4569786339