Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

一発逆転マル秘裏ワザ勉強法 2020年版

これはいわゆる受験本、つまり大学入試のための勉強法を書いた本である。福井さんはおそらく、既にレジェンドと化している和田秀樹さんに続いて多数の受験本を書いている受験本のプロ。しかも脳科学に詳しいから、書いてあることに理論的な説得力がある。先に紹介したように、エビングハウス忘却曲線が間違っているというような主張が出てくると多少驚くのだが、基本的にはこの本の示している方針は納得できるものだ。

戦略は極限まで合理的で、効率的な受験対策を目指している。例えば、

時事問題対策であるが、新聞やテレビのニュースは絶対に見てはいけない! どこが大切なのか全然わからないし、時間のムダだ。
(p.142)

だから1か月のまとめ的な本を読め、という話になっているのだ。このように合理性が徹底している。

この本を読んで、書いてあることを理解し、実行することができたら、学力、もしくは受験力は、かなりいいところまで上がるはずだ。

というのは、この本に書いてある内容は、かなり実行することが難しいのである。この本に書いてあることを実践するには、かなりの理解力と行動力が必要だろう。誰でも出来るようなレベルではない。

だから、これを実践できるのは、それを既に持っている人だけだ。最初からある程度の能力があれば、この本の通りにやれば成功する可能性は高くなる。

例えば勉強時間の配分のところで、次のような話が出てくる。

1つの科目を「よく出る分野」「時々出る分野」「あまり出ない分野」と3段階にわけ、勉強時間を3:2:1という比率にする
(p.54)

出るかどうかは、過去の赤本を分析して調べろという、これも全く合理的な話だ。

しかし、それができる受験生がはたしてどの程度いるだろうか、その前に、この文を読んで理解できるだろうか?

Yahoo!知恵袋を見ていると「400点の8割は何点ですか」のような質問をする受験生が結構いるのだ。このレベルの人がこの本を読んでも、まず 3:2:1 というのが理解できない。3:2 も怪しいのに、3つも数を並べるなんて反則なのだ。

じゃあ比を理解していれば実践できるかというと「よく出る分野」と「時々出る分野」をカテゴライズするのだって、そう簡単なことではない。しかし、そこに具体的なやり方は何も書いてないのである。

おそらく、福井先生は受験生のレベルをかなり高いところに想定しているような気がする。例えば国立大学、あるいは私立でいえば早慶、最低でも MARCH が夢物語ではなくて現実的に狙えるあたりではないか。

合理的という特徴に関してもう少し紹介しておくと、まず学力は勉強量で決まるという前提がある。

受験には頭の良い悪いは全く関係がないし、思考力も必要ない。受験で大切なことは〝暗記した量〟と〝要領〟の2つである!
(p.26)

これは受験の世界では常識だ。もちろん受験生の視点でいえば、成績は地頭や才能で決まるという宗教もある。成績を勉強不足のせいにすると逃げ場がなくなってしまうから、自分以外の要因に全て押し付けて、言い訳として正当化したい、それは分かる。でも地頭なんてものは実際には存在しない架空の能力みたいなものなのだし、仮にそれがあるとすれば、才能は学習によって作られるというのが今は有力な説だから、地頭というのは勉強によって向上する能力の一種ということになってしまうだろう。

さて、学力が勉強量で決まるなら、入試に出るところに時間を割く。これが基本戦略になる。極端な話をいえば、次の入試本番で出る問題だけを勉強すればいい。ただ、それは誰にも分からないから、傾向というゆるいフィルターで勝負せざるを得ない。

必ず分野ごとに自分の得点力を計算し、その結果に基づいて勉強時間をうまく割り当てていく
(p.29)

言えば簡単なことだが、「うまく」などと言われても困るような気がする。

もう一つこの本で非常に特徴的に見えるのが、理由付けだ。具体的にいえば、3W1H法、というのがよくでてくる。これが福井メソッドなのだろう。

どこで(Where)、何を(What)、なぜ(Why)間違えたのか、その対策として今後はどのように(How)勉強すべきかを検討する
(p.59)

これも実際にできる人はかなりレベルの高い受験生だけだろう。なぜ間違えたのか分からないというのが普通の受験生の感覚ではないか。

この本の後半は科目別に攻略法が出てくる。また、おすすめの参考書が紹介されている。この参考書もいわゆる定番のものだけではなく、福井さんが実際にこれだと思った隠れた名著が出てくる。あまり使われていない名参考書を使うことで、他の受験生と差を付けるという作戦だ。同じ参考書ではダメとまで言う。

他のヤツらと同じ参考書で勉強していて、どうして彼らよりも良い成績を取れるというのだ?
(p.52)

福井さんらしいポジティブな考え方である。ネガティブな生徒は、他のヤツらと同じ参考書を使わないと他の受験生が解ける問題が解けないのではないかと不安になってしまうのだが。

攻略法に関して、数学の場合を紹介しよう。まず、レベルが基礎本、暗記本、演習本の3段階に分かれていて、

〝基礎本〟の使い方のポイントは、1分間考えて解けなかったら、すぐに答を見て、やり方を丸暗記
(p.94)
〝暗記本〟の使い方のポイントは、5分間考えて解けなかったら、すぐに答を見て、解法のパターンを暗記
(p.95)

考える時間が違うところがミソなのだろう。基礎に関しては瞬時に思いつかないと話にならないが、少し高度なパターンはそう簡単には思いつかないから少しは考えろというわけだ。演習本に関しては、

問題を見て10分考えながら、わかったところまでをノートに書く。この時点で解けそうにないと判断したら、すぐに正解を見る。解けそうだと判断したら、さらに10分間取り組んで答を出す。
(p.100)

20分というのは実際の入試で記述問題を1問解く時間の目安になるから、そこまで想定した実践力を鍛えるわけだ。

数学に関しては、こういう話も出てきて面白い。

「どんな三角形か?」という問題の答は、直角三角形・正三角形・二等辺三角形のどれかに決まっている。
(p.106)

確かに。理屈的にはABとBCが1:2みたいなケースもないわけではないが、確率的に当たればいいのなら、このような「解答パターン」だって役に立つ。数学の裏技みたいなものだ。ただ、これは大学じゃなくて中学受験レベルの秘伝だと思う。綺麗に図を描けば角度が分かることだってよくあるのだ。

総評としては、細かいノウハウと、具体的な参考書・問題集が結構な数出てくるので、ある程度の学力があればおすすめできる本である。

最後に、数学のヒラメキの話が面白かったので紹介しておこう。

ヒラメキという現象も医学的にはありえない。以前に一度見たことを完全に忘れていたが、その古い〝記憶〟が何かの誘因で突然よみがえること……これがヒラメキの正体だ。
(p.96)

ヒラメキがあることを説明しているように見えてしょうがないのだが…


一発逆転マル秘裏ワザ勉強法 2020年版
福井一成 著
YELL books
ISBN: 978-4753934423