Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

武曲

ということで、武曲。映画化されたんですよね、まだ上映しているか。今更アレですけど、曲というのは主人公がラップ的だからなのか。実際にはラップしているシーンはないが。

ストーリーは禅の話…じゃないか。なくもないか。

この世の事物は、実際に存在しているわけでもなく、また空無というものでもない。
(p.14)

ページ数は文庫本から。存在してないから、屏風の帆掛け舟を走らせたり、トラを捕まえたり出来るわけ。禅的なフレーズだけでなく、

――意味がないというのは、とてつもなく重要なことだ。
(p.185)

こんな感じの哲学的なセリフも出てくる。これは禅師であり剣師でもある光邑の言葉。わしを殺してみろというセリフの後に出てくるからわけが分からない。主人公の羽田に対しては、こんなことを言う。

「最高の詩が書けたら、自分も死んでも構わんということだ。本気でそれが好きということは、そういうことだろうが、小僧」
(p.138)

ラッパーの羽田はリリックを書く。だから使いたい言葉はローマ字も書いている。ローマ字にすると韻をチェックしやすいというのだが、禅の言葉は読めないのが多いからローマ字で書いてくれると意外と助かる。

「起こり」という言葉を知らなかったら、「起こり」を見分けることはできない。
(p.70)

三殺法とか勘見とか、禅か剣か知らないがそっちの言葉がバンバン出てくる。剣豪小説とか好きなら読みやすいかもしれない。小説は高校生の主人公の羽田の視点と、剣道の先生の矢田部の視点、交互に進んでいく。矢田部のぐちゃぐちゃぶりが凄いのだが、作者の藤沢周さんはアル中の経験…は、まさかないよな、取材だけでここまで書けるものなのか。

そのキレキレ【謎】に切れている矢田部をはるかに超えて、羽田は剣を持つと人が変わってしまう。

こいつ、頭おかしいから、試合になったら真剣持ってるのと同じだから、それは殺しにかかるっしょ。
(p.450)

羽田のダチの石崎の言葉。喋り方がラップだが、頭おかしいという割にかなり発想はマトモなんだよな、羽田は。そういえば冒頭に気になったシーンがあった。剣道部員が駅のホームで乗客の邪魔になっているところ。羽田がその前を通るところで竹刀をひっかけて喧嘩になって、iPod を横取りされてしまう。

もし私のいた高校の剣道部員がこんなことをしたら、先生に木刀で死ぬほど殴られると思う。ていうか殺される。剣道の先生は戦争に行ったそうだから、真剣で切られたかもしれない。剣道部員というのはそういうプレッシャーというか、部員としての礼節がなければ殺されるみたいな先入観を持っていたのだが、何かこの小説に出てくる剣道部員はイメージと違う。

中途半端なのだが、何かやたら忙しいから今日はここでやめとく。縁があったらまた。


武曲
藤沢周
文春文庫
ISBN: 978-4167903213