グリコ・森永事件という実在の事件を参考にしたフィクションです。フィクションにしてはやけにリアル【謎】な感じがしますが、当時はこの小説に出てくるような、そういう目的の犯罪だとは思ってなかったですね。
ストーリーは事件の時効が成立した後に犯人の身内が証拠物件を発見するところから始まります。当時の情勢をリアルに知っていると生々しさが半端ないです。とはいっても当時を知らない人にとってもリアルな描写がたくさん出てきます。例えば、前半に出てくる清太郎の死についての描写。
その後、襲撃犯の一人が捕まって清太郎さんの名誉が回復されても、会社関係者は線香一本上げにこなかったと、達雄はえらい剣幕でした
(p.51)
このように、誤解で叩かれた後、誤解が解けても誰も謝らない。叩いたまま。今も大抵そうですね。よくある話です。当時の文化的な背景もちょこまかと出てきます。
「ベーマックスはなくなるの?」
(p.67)
なくなったような気がしないでもない。うちは、ビデオデッキがまだ物置にあります。
読んでいる途中で気になったところは、
しかし、ここから刑事たちは、数々の不運に見舞われる。
(p.73)
不運で片付けるのはありがちだけど、そんなに unlucky は重ならないものでしょう。最後に少しネタが出てきますが、それとはあまり関係ない一般論をしては、あまりにも上手くいかない場合は内部に裏切り者がいるというのが常識ですよね。少し大きな会社ならそういうことはよくあるし、警察のような大きな組織だともっとありそうな話。コミック「モーニング」で連載中の「鳥葬のバベル」にそういう設定が出てきます。連載は終わっていますが「ギャングース」もそんな感じですね。
圧巻は犯人グループの一人が終盤で告白するシーンです。
若かった私は、人は満たされると腐るのだと悟りました。
(p.311)
こういう哲学的、思想的な内容がいろいろ出てくるのは深いと思います。
今やったら、監視カメラやら通信記録やらで、もっと早くに追い詰められてたでしょうね。
(p.323)
まあそりゃそうですね。今あるシステムを使ったハイテク犯罪になっていたことでしょう。そういえば消えたビットコインはどこに行ったのでしたっけ。
罪の声
塩田 武士 著
講談社
ISBN: 978-4062199834