Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

まぐだら屋のマリア

わざわざ解説するのもどうかと思うが、マグダラのマリアというのは新約聖書に出てくる人物で、マグダラは地名である。聖書にはマリアという人がたくさん出てくるので、地名を付けて区別しているのだ。聖書のマグダラのマリアは悪霊に取り憑かれていたのだが、イエスが悪霊を追い出した。これをオマージュしたようなエピソードが同書にも出てくる。

主人公の紫紋(シモン)、そこに居候することになる丸狐(マルコ)、高校教師の与羽(ヨハネ)のように、人物名が聖書に出てくる名前から取られている。紫紋の後輩になる悠太は内部告発を演じる役割だからユダなのか。湯田という人も出てくるのだが。老婆の女将さんの苗字は桐江という。キリエは Kirie eleison のキリエのことだろう。しかし、

この周辺で、マグロとタラをかけあわせたような世にも美味な魚が獲れる、っていう伝説があって。それを食べるとどんな病気も治る、尽き果てかけた命も救われる
(p.62)

その美味な魚の名前がマグダラというのは寒すぎるだろう(笑)。

ストーリーは紫紋が働いていた老舗料亭をとある事件があって辞めて、死ぬ気で彷徨っていてたどり着いたのがまぐだら屋という料理店、そこで働く、という何となくご都合主義的なものだ。登場人物の殆どがとんでもない重荷を抱えて生きているのだが、何となくキャラはチャラい。チャラくなくてはやってられない、ということかもしれない。

いいキャラだと思うのが、漁師のカツオさん。克夫と書く。

カツオさんのひいおじいさんだかひいひいおじいさんだかは、例の『マグダラ』を一度だけ、上げたことがあるんだって
(p.76)

舞台になっている尽果というところの土地の人で、話し方が方言だからよく分からないが、

「ああ、起きんでもええけ。がいに熱が出とったんやけ、今日はゆっくりしていったらええ」
(p.282)

「がいに」は「たくさん」かな。どこの方言か知らないが聞いたことがある。このようなセリフが唐突に出てくると何となくホッとするのが不思議だ。もう一つホッとするのが料理で、最初から最後まで、いろんな普通の料理が出てくる。

最後に蛇足しておくと、個人的にはこの話、ちょっとだけ言いたいことがある。現実の世界はこんなに甘くはないと思うのだ。

いくつかの小ネタは私も似たような体験をしたことがあるが、ことごとく逆の方向に進んでいったような気がする。まあでも小説だからで済ませてしまうのが大人の対応なのだろう。その中では悠太が全然救われていないのは、ちょっとリアルな気がしないでもないが、この話がノンフィクションであれば、逆に悠太は死んでいないような気もするのだ。


まぐだら屋のマリア
原田 マハ 著
幻冬舎文庫
ISBN: 978-4344421578