Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

盤上の向日葵

今日の本は、柚月裕子さんの「盤上の向日葵」。ミステリーです。

まず死体が出てきて犯人を捜す、というパターンです。ストーリーは過去と現在が交錯する流れで書かれていて、最後に点が線に繋がるみたいな感じの構成になっています。しかし、ミステリーといっても、謎解きよりも心情描写、特に将棋のシーンが特徴的なので、特に、将棋を知らないとちょっと分かりにくいかもしれません。

個人的には微妙に土地勘のある場所が割と出てくるので、一気に読み切ってしまいました。

犯人を探す刑事役は、スゴ腕の先輩、石破刑事と将棋に詳しい新米の佐野刑事のコンビ。死体と一緒に将棋の駒が見つかるのですが、コレが、

初代菊水月作のものでした
(上、p.43)

値段にして六百万円。高価な駒が遺体と一緒に出てくるのが解せないということで、将棋の知識のある佐野が活躍することになるのですが、石破はいろんなところが非常識で、なかなか面白いキャラです。

仕事先で、酒は飲めん。となれば食うことしか楽しみはない。わずかな予算で料亭みたいなところに行けるわけでもなし、名物の駅弁を食っても罰はあたらんだろうが
(上、p.69)

石破の言葉。食う事しか楽しみがないというのはちょっと違いそうだが謎の説得力があります。こんなことも言います。

人間は、相手を貶したくて仕方がない生き物さ。口ではよく言っても、内心は違う。
(上、p.123)

これは普遍的な真理というよりも、石破の人生観なのでしょう。

主人公は上条佳介。幼少期から苦労の人生が続きますが、将棋の才能があります。頭も良く、東大生になって上京します。そこで出会うキーマンが、仕事師の東明(とうみょう)という人物。仕事師というのは賭け将棋をする人のことで、麻雀だとバイニンって所か。麻雀放浪記に出てくるドサ健役、と思えば知っている人には分かると思います。その東明の言葉。

人はな、身体も人生も、百人いれば百とおりなんだよ。こうすれば幸せになれるとか、ああすれば金持ちになれるなんて嘘っぱちよ。
(下、p.107)

こいつがまたヒドい奴なのですが、最後まで読み切るとどうもモヤっとしたものが残って憎めない、というのがこの作品の醍醐味ではないかと思います。

今日の一言は、これで。

正しい知識を持たなければ、正しい判断は下せない。
(上、p.76)

前半に出てくる先生の言葉ですが、正しく判断するためにさらに、さらに正しい思考が必要です。


盤上の向日葵(上)
柚月 裕子 著
中公文庫
ISBN: 978-4122069404

盤上の向日葵(下)
ISBN: 978-4122069411