Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

怪盗探偵山猫 鼠たちの宴

今日は怪盗探偵山猫の3冊目、「鼠たちの宴」です。アジトはもちろん下北沢なんですが、

 下北沢の北口から五分ほど歩いたところにある、雑居ビルの二階に上がったあゆみは、装飾の施された木製の扉の前に立った。
 扉のノブには〈STRAY CAT〉という看板がぶら下がっていた。
(p.6)

こんな感じですね。あゆみというのは、本作の第一話、この本では第一夜ということになっていますが、「鼠の巣窟」に出てくるゲストです。上のシーンは、自殺したことになっている姉が本当は殺されたのではないかと疑って、勝村を訪ねてきたところです。もちろんバーのマスターは山猫です。性格はひねくれていますが、

「誰かを助けるのは勇敢な行為だ。だかな、それで自分が死んじまったら、元も子もないんだよ」
「でも……」
「いいか、ここは資本主義の国だ。金が全てなんだよ。損得勘定のできない奴はバカなんだ」
(p.53)

ポリシーは一貫しているようですね。

この本は4作品からなっていて、第二夜「鼠の経典」では、家長大善という占い師のような人物が出てきます。何か煙に巻かれるような話ですが、この話では最後に山猫がこんなことを言います。

「現実世界の重さに耐えられなきゃ、生きてる意味なんてねぇよ」
(p.149)

山猫自身は耐えるというより避けているような感じがしないでもないですが。第三夜「鼠のバラード」は悪党と怪盗の一騎打ち、ていうか山猫が複数相手に勝ちまくっていますね。相手が無様過ぎる感じはありますが。

第四夜「袋の鼠」は狂犬と呼ばれている刑事、犬井の視点による話。犬井が山猫を追いかけるようになったエピソードです。山猫を捕まえようとしてまんまと踊らされる話です。この話は白石という引退した泥棒がいい味を出しています。白石はこんなことを言います。

「不平等な世の中に、真っ当なんてものが存在するのかね」
(p.255)

窃盗犯らしい言い分ですが、言っていることは真っ当かもしれません。

 

怪盗探偵山猫 鼠たちの宴
神永 学 著
鈴木 康士 イラスト
角川文庫
ISBN: 978-4041015957