今日は芦原すなおさんの「私家版 青春デンデケデケデケ」。この作品は第105回直木賞を受賞しているのですが、このときに発表したのは最初に書いた内容を原稿用紙400枚にカットしたもので、私家版というのは、カット前のバージョンだそうです。
主人公の名前は、
ぼくの名前は藤原竹良といいます。(略)「ちっくん」というニックネームが小学校四年のころにできて、以後高校を出るまで親しい友人にはそう呼ばれた。
(p.18)
あだ名というのは重要だと思うのですが、最近はあだ名禁止の学校があるそうですが…、日本は衰退しました。
この作品、バンドがテーマですから、いろんな歌や曲が出てきます。基本的にはベンチャーズの時代の曲なので、そのあたりの歌が好きなら物凄くハマると思うのですが、そのあたり興味がないと少し辛いかもしれません。それにしても、この歌、
教科書に「かんぴょう、かんぴょう、かんぴょう干してる、あの空、この空、かんぴょうは白いネ!」という合唱曲があった。
(p.29)
てんぐさの歌みたいなものでしょうか。この後、「教師と生徒を愚弄するつもりだったんだろうか」とか悩んでいるようですが、作詞者はなーんも考えてないと思います。ところで、竹良の母も面白い。
母の教えの真髄は、一にも二にも「しゃんしゃん手早く」ということで、これは解り易いからけっこう評判がよかった。
(p.49)
「しゃんしゃん」と来たら手拍子足拍子かと思いましたが、解り易いということに納得しつつもいまいちよく分からん表現です。
個人的にこの作品で気になるキャラは、バンド仲間の合田富士男。お寺の子なんですが、コイツはテラ凄い。
その後、彼とぼくは酒の席でもてなされたのだが、彼は器用におっさんやおばはんたちと猪口(ちょく)をやりとりしながら、世間話をした。
(p.58)
高校生が酒飲んで…と思う人が最近はいるのかもしれませんが、当時【謎】は当たり前でしたよ。中卒で就職するのが当たり前なら、もう大人ということで酒も飲めないと一人前ではない、みたいな。
ちなみに富士男、法力も持っているのです。
「わし、ちんまい(小さい)頃、雷に打たれていっぺん死んだんじゃ」
(p.62)
この時打たれたつむじを触ると御利益があるそうです。
ドラム担当は岡下巧。この人は竹良と富士男にドラムやればもてると騙されてメンバーになってしまうのですが、
「永遠の女なるもの、我らを高みに導いてゆく」なんてことを、たしかゲーテが《ファウスト》の中で書いていたと思うが
(p.68)
よくそんな本読んでますね。手塚治虫バージョンでもこのセリフは出てきましたっけ。有名といえば有名ですが、ファウストの最後の文で、ちなみに青空文庫で森鴎外翻訳版が読めますが、
永遠に女性なるもの、
我等を引きて往かしむ。
となっています。
バイト先の吉田さんとか世界史の岩田峰男先生とか、面白い人がどんどん出てきます。岩田先生は、
この人はパチンコをするのに、一つ玉を打ってはその行く末を見届けて「ああ!」と小さく嘆息するまでは、決して次の玉を打たず、
(p.184)
今は全自動ですが昔のパチンコは、手で弾いたんですよ。釘師サブやん、という漫画を思い出しました。
私家版 青春デンデケデケデケ
芦原 すなお (著)
角川文庫
ISBN: 978-4043446018