Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

アマンダの影

マロリーシリーズ、「氷の天使」の次の作品です。いきなりマロリーの死体が出てくるニュースを、チャールズとマロリー本人がメシを食いながら見ている、というシーンは先日紹介しました。自分が死んだニュースというのは一度見てみたいような気もしますね。ちなみに私はテレビに映ったことがありますよ。

タイトルはアマンダ・ボッシュというのは被害者の女性の名前から。マロリーと間違えられる位ですから、最初は身元不明なのですが、マロリーが超速で身元を調べます。

指紋のない遺体としては、このスピードは市警の新記録だ。
(p.54)

アマンダが借りていた部屋に入るとネコがいます。文庫本の表紙になっているのがソレですかね。マロリーは猫が好きとかいうタイプではないので、拳銃で威嚇しようとするのですが、

マロリーは、片手を腰に当て、ブレザーを開いて、ホルスターの拳銃を見せた。ほんのつかのま、猫にこの脅しは効かないということを忘れてしまったのだ。
 猫はあと足で立ち上がると、慣れた様子でステップを踏み、優雅にくるりと一回転した。
(p.69)

ネタバレっぽいですが、ここを最初に読んだ時点で理解したら推理小説マニア的にはかなりのハイレベルな読者でしょうね。私は気付きませんでした【なにが】。

で、猫好きではないマロリーはこの猫を自宅に連れて帰ります。ご主人様が殺されて同情したわけではなく、

この猫は大事な証人なの。
(p.108)

証人じゃないですけどね、証猫。つまり犯人を見ているというのです。即ち犯人を見たら反応するとか、あるいは犯人がこの猫を見て反応するのではないかと。

出てくる容疑者は例によって片っ端から怪しい人ばかりですが、性格的におかしい人が多いというのもマロリーシリーズの特徴です。もっとも、一番おかしいのはマロリーなのかもしれませんが。今回のストーリーでは鉛筆が空を飛び花瓶は勝手にテーブルから落ちて割れますから、亡霊も一役噛んでいます。もっとも、これらは心霊現象ではなくタネも仕掛けもあるマジックなのです。多分。

今回のストーリーでもう一つ注目したいのが、アマンダが書いていた小説です。これをチャールズが精読して犯人の手がかりにしようとするのですが、なかなか一筋縄ではいきません。チャールズは猫がマロリーになついていることに疑惑を持ちます。餌をやっているチャールズにはなつかないのです。

「ノーズは体罰によってしこまれたのかもしれない。それに、視覚的な刺激に反応してる可能性もあるわね。あの耳はどうしたの?」
(p.211)

ノーズというのは猫の名前です。体罰の最も大きなメリットは言っても分からない相手に“しこめる”という所にあります。今の世界は猫も杓子も体罰禁止一色ですが、このメリットは一体何で代替すればいいのでしょうね。単純に体罰を禁止して、間違ったことを平気でやる人間を増産している、というのが今の迷惑動画の原因のような気がするのですが。もしかして猫の中には日本語とか分かるのもいるかもしれませんが、

「だとすると、猫は痛い目に遭うまいとして踊るんでしょうね」
(p.212)

これが先のステップとつながってくるわけです。

さて、途中殆ど端折りますが、今回、キャシーの8歳の頃の話が出てきます。

「スナッフ・フィルムというものを知ってるかい?」
「いいえ」
「人をなぶり殺しにするところを撮ったフィルムだよ。」
(p.386)

それにキャシーが殺される役として映っているのです。シーンはモノスゴすぎるので紹介しませんが、映像化したらあまりおおっぴらに公開できないような感じです。もちろん今のキャシーがいるのですからこのピンチを切り抜けるのですが、キャシーは8歳で既にブチ切れてたんですね。

さて、最後に酔いどれライカーの最後を予言(笑)する言葉を紹介しておきます。

いつの日か彼は酒で命を落とすだろう。いざというとき反射神経が働かず、彼のみじめな人生はそれで終わりとなるのだ。
(p.42)


アマンダの影
キャロル オコンネル 著
Carol O'Connell 原著
務台 夏子 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488195076