Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

彼女が死んだ夜

ミステリーです。ハコちゃんこと浜口美緒が飲み会を先に抜けて誰もいないはずの自宅に帰ってみると、ざんばら髪の女性の死体がころがっています。

美緒のトランクに、まるで洗濯物みたいに引っかけられているそれは、肌色のパンティストッキングだった。
(p.11)

しかもその中には髪の毛が入っているのです。

それも、五、六十センチくらいの長さの、鬘が作れそうなほどの房の両端を、ゴムで束ねてある。
(p.11)

一体何のためにそんなものが、というのが最後の最後まで謎でしたが、最後の解決は個人的にはちょっと納得できないですね。パンストをわざわざ使わなくてもいいような気が。もしかしたら普通の女性も普段からパンストにモノを入れる習慣とかあるのかな。サンタクロースはプレゼントを靴下に入れるそうですが。

さて、普通は死体があれば警察に通報して終わりなのですが、ハコちゃんは友人達に協力してもらって死体を別の場所に移してアメリカ旅行に出てしまうから話がややこしくなります。死体を動かすというのも現実的にはあり得なさそうな話で、そのあたりは小説とはいえアンリアルな感じがします。何かリアルさと荒唐無稽な突拍子なさとが混在した不思議な雰囲気の中で話が進んでいきます。

例えば、山田一郎というよく分からないヤバそうな男に先輩がボコられるシーン。

先輩は、だらんと両腕を垂らしたまま、自分の身体をガードする素振りを、お義理にも見せない。
(p.147)

両手ぶらり戦法(笑)。戦法といっても無抵抗なんですけどね。この先輩は殴られまくって結局人違いだと分かると、

そっと見てみると、山田某は分厚い財布から何十枚かの一万円札を、無造作にボアン先輩の手に押し込んでいた。
(p.157)

やってしまったものは仕方ないから、後は金で解決するしかないですけど。そういう所はリアルです。ちなみにボアンというのはボヘミアンから来ているあだ名なのです。

最後のどんでん返しはなかなか巧妙です。


彼女が死んだ夜
西澤 保彦 著
角川文庫
ISBN: 978-4043540013