Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

はやり風邪ーはぐれ長屋の用心棒

もうインフルエンザが流行しているそうですが、こうなるといつ予防していいのか分かりませんね。今日は「はぐれ長屋の用心棒」から「はやり風邪」。18作目です。

源九郎は元気なものですが、息子の俊之介が風邪をひいてしまいます。しかも菅井まで風邪で寝込んでしまう。居合の技も風邪には効かないようですな。

この風邪によく効くと噂のクスリがあります。元服丸。これが、べらぼうに高い。しかも実はまがい物で全然効かないし、追加料金を払って祈祷などやると、それが原因で子供が死んでしまう事件が起こる。噂というのは情報操作ですかね。ステマとか。

祈祷したのに子供が死んでしまったので、怒った父親の峰吉がクレームをつけようとしたところ、偽薬を売るような奴等てすから当然邪魔者は殺す。峰吉の親父、棟梁の宗三郎は源九郎に下手人を捕まえて欲しいと依頼します。探りを入れている間に、馴染みの町医者である東庵先生からも依頼を受ける。というのは、東庵の仲間の医者まで何者かに殺されてしまうのですが、

わしは峰吉と良沢どのは、吉野家にかかわる者のてで殺されたような気がするが
(p.111)

吉野家というのは牛丼屋ではなくて薬屋です。東庵は依頼料を渡そうとしますが、源九郎は、日頃世話になっているからそんなものは受け取れないとつっ返します。よく分からんところで義理とか発動しますね。まあ別口で金をもらっているので余裕はあるわけですが。

今回の相手も凄腕です。間宮半兵衛。まあ雑魚しか出てこないと話になりませんが。一合したところで、お互いに互角と見積もります。

このまま斬り合っても相打ちの可能性が高い。
(p.142)

ここで源九郎はやる気をなくします。相打ちになると死にますからね。カムイ伝でも剣豪同士のバトルになると「それほどのものはもらっていない」とか言って勝負を避けたりしますが、今回の敵もデキる奴らしくて、相手も相打ちを避けて逃げてしまいます。この半兵衛、まさに剣豪で、源九郎はいろいろシミュレーションしてみますが、なかなか勝てる手が思い浮かびません。何度も攻め方を変えてどうなるか考えてみる。このあたりが一流の人間なのだと思います。いろんなパターンを当てはめてソリューションを考えるわけです。

最後は一騎打ちを挑みます。菅井と二人で隠れ家に向かって出てこいというと普通に出てくる。

「ひとりか?」
「戸口に菅井が来ている」
源九郎は、隠さなかった。
「ふたりがかりか」
「いや、菅井は検分役だ。もっとも、わしが後れを取れば、菅井がおぬしに挑むことになるかもしれんがな」
(p.245)

一人隠れていて不意打ちするとか、二人で同時にかかるとか、必勝法はいろいろありそうなのですが、それじゃ面白くないのでしょうね。相打ちは嫌だけど、勝てるかもしれないのなら正々堂々と勝負したい。困ったものです。

今回出てくるもう一人の敵は玄仙。祈祷師なのですが、実はにせ修験者。最後も簡単にヤラれてしまいますが、アニメにしたらキャラが立ちそうな感じですね。塒(ねぐら)も簡単にバレてしまうのですが、稲荷の近くに住んでいるなんてのは霊験を拝借しているつもりなのかも。


はやり風邪ーはぐれ長屋の用心棒(18)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664386

東大2020 考えろ東大 (現役東大生がつくる東大受験本)

今日もはぐれ長屋…という予定でしたが、そればかりというのはちょっとアレ【なにが】なので、今日はこちらの本を紹介します。

このシリーズは毎年紹介しているのですが、今年は「考えろ」という副題が付いているので何か考えているのだろう、とは思ったのですが、何がいつもと違うのかよく分かりません。考えても分かりません。あれ?

もしかして、ヤラれましたか。

今回は巻頭カラーページの猪子寿之さん。チームラボ代表です。インタビュー形式の記事ですが、受験勉強で得たもので役立っているものはあるかという質問に、

例えばどうしたら画面の明るさは同じままもっと部屋を暗くできるとか、そういう目標を実現するためには、物理的な法則に基づいて設計していく必要があって、そこでは数学や物理の知識が必要になってくるんだよ。
(p.9)

ソニーの盛田さんでしたっけ、音楽がビジネスに役立つと仰っている、そういう逸話に比べると意外性がないことが逆に意外な正統派ですね。ちなみに私はプログラマーの仕事に役立った科目を訊かれたら、歴史と漢文と答えることにしています。

猪子さんが東大に入ったときに、

みんな何かどうでもいいこと話してる。
(pp.9-10)

何を期待していたのでしょうね?

で、この本ですが、表紙にも「受験本」と書いてあるように、受験生を想定した内容です。おすすめの参考書、問題集や勉強スケジュール、入学してからの学部選択など、おそらく本気で東大を狙っている人にはお宝的な情報がたくさんあります。

毎年恒例の東大生アンケートですが、合格に必要なものはという設問に、運と答えた人が 46.2% (複数回答可)、というのは少し減ってきましたかね。いつもだいたい半数が運と答えているのです。

あとは、毎年恒例の、巻末に出ている就職先一覧、大企業・有名企業への就職率ランキングでは案外低いところにいる東大ですが、一体どこに就職しているのだろう、という疑問を感じた人は一読の価値があります。何でそんなところに、というような人がいます。

例えば農学部から農林水産省、というのは分かりやすいのですが、トヨタ自動車とかになると、農業用の車両でも作るのかな、というあたりが限界で、大坂フィルハーモニー管弦楽団になってしまうと、農業と何の関係があるのか全く想像できません。あと、くまちゃん動物病院も個人的には気になります。

 

東大2020 考えろ東大 (現役東大生がつくる東大受験本)
東京大学新聞社 編集
ISBN: 978-4130013031

おっかあ―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋…」の15作目、「おっかあ」です。

「おとせさんとこの仙吉、旦那も知っているだろう」
(p.25)

この仙吉がまだ十五、六の若造で、グレて悪い奴等とつるんだせいで、強請りをやる羽目になります。裏には悪い奴等の大物が黒幕として控えていて、賭場も開いている。そいつらをぶっ潰す、というのが今回のミッションですが、身内が相手の中にいるから、そいつは助けてやりたい。ということで、面倒くさい案件ですね。

強請りをやる連中は若造なので、源九郎や菅井が本気で相手をするようなレベルではありません。二人の腕ならその気になれば秒殺で全員斬ってしまえるような相手なのですが、子供相手に本気になるのも大人げない。のかと思っていたら、相手もしたたかだから、ちゃんと用心棒の浪人を雇って源九郎を片付けに来ます。

今回の相手のラスボスは渋沢という浪人。スキルレベルは菅井と互角という凄腕なのですが、ちょっとおっとりした所がありますかね、あと、カッとなる。その性格は直した方がいいです。ということで、今回の見せ場はラスボス対決ではなく、最後の強請りのシーンですかね。強請りに入った店には仙吉の母が働いている店。そこに仙吉が強請りに入ってくるわけです。そこに源九郎が老体に鞭打って駆け付ける。

源九郎は飛び退りながら抜刀し、刀身を峰に返して宗次郎の手元に振り下ろした。
(p.260)

宗次郎というのは仙吉の兄貴分です。悪い奴。それでも峰打ちなんですね、余裕です。ただしこの一撃で宗次郎の腕は折れます。強い奴を片付けたら雑魚は慌てて逃げるのでまず強い奴から、というのが基本ですな。

今回の話は、グレている若い奴等が悪になり切っていない、葛藤している感じがいいです。悪いことをしたいわけではないが、金は欲しいし、兄貴は怖い。そんな感じですね。今の世の中でも同じなんでしょうか。あるいは、もっと怖い世界になっているのでしょうか。

仙吉には茂助という友達がいるのですが、ドジを踏んで仲間にボコられたあげく、

おめえたちに逆らった船頭をひとり殺せ
(p.184)

と言われて、それができずに結局身投げして死んでしまう。

……これが、辰造や宗次郎のほんとの姿だ。
(p.185)

本当の姿なんてのは、なかなか見えないものです。ていうか、目に見えるものを信用していてはいけませんね。

酒やめしをただで飲食させ、博奕で遊ばせてくれていたのは、金を強請り取るための手下をてなずけるため
(p.185)

どこだってそういうものです。タダより怖いものはない。


おっかあ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663761

父子凧―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋…」シリーズから「父子凧」。源九郎の息子の俊之介がメインゲスト(?)でしょうか。この俊之介、ひょんなことから出世のチャンスを掴んだ、と思いきや悪いタイミングで上役の原島が何者かに斬殺されてしまいます。一緒にいた俊之介は何とか命は助かりますが、

「それが今度の事件でな、昇進どころか士道不行届きで処罰すべしという者がおるのだ」
(p.63)

というトンデモないことに。正体も知れない奴等に斬られるなどとは何事か、武士として恥を知れ、というわけです。武士は辛いですな。

先のセリフ、話しているのは俊之介の上司にあたる戸田ですが、戸田は俊之介に目をかけていて、とはいっても俊之介では相手にならないとみて、主役の源九郎に下手人を捕えて欲しいと百両で依頼します。金が出てくれば、はぐれ長屋の用心棒達の出番になって、いつものパターン。

一方、俊之介は執拗に狙われて、自宅にいるところまで襲撃され、逃亡して一家で長屋に隠れることになってしまいます。俊之介の妻の君江が、これを猛烈に嫌がるのが面白い。源九郎いわく、

「それがな、嫁がうまく馴染めんようなのだ」
(p.164)

はぐれ者が集まるだけあって、ド汚い長屋です。武家の嫁としては拒絶反応があるのでしょう。しかし長屋の住人は異様に世話好きなので、徐々に馴染んでくるのも面白い。

今回の話は呉服屋の利権争い。幕府御用達になりたいので賄賂を掴ませて云々、という時代劇あるあるパターンです。原島が斬られたのも不正を調べていて邪魔な奴、という当然の理由です。

タイトルの父子凧というのは、俊之介が子供の新太郎に凧を作ってやるシーンがあって、その時に源九郎が手伝ってやるのです。今時の父親の中に、凧を手作りできる人はどれ位いるのでしょうか。もちろん私は作れません。

クライマックスのバトルの相手は塚本十四郎。手練れです。源九郎も危うし、というところで俊之介が手を出して気を逸らせたところに…という連携プレー。二人掛りとは卑怯なり、とか言いそうな状況ですが、殺し合いでそういう悠長なことは言ってられない。しかも、俊之介が塚本の脇腹を貫通する致命傷を負わせたところで、這ってでも逃げようとする塚本に対して、

「武士の情け!」
(p.276)

とかいって源九郎は背中から心臓を突き刺して殺してしまうのだから壮絶です。ま、どうせ死ぬのなら苦しませずに死なせてやろうというのは確かに情けではありますが。この章には「夕暮の死闘」というサブタイトル。たしかに死闘のようです。私は木枯し紋次郎眠狂四郎のように平然と殺す系に慣れているので、あまり不自然には感じませんが、このシリーズ、源九郎は割と平気で相手を殺してしまう。子連れ狼みたいなストーリーだと、殺すのもかなり重みがありますが、それに比べると何か軽いような感じがします。


父子凧―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662795

黒衣の刺客―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋」の第7話、「黒衣の刺客」です。黒衣というのは盗賊の着物ですね。長屋に住んでいる房吉という大工が殺されます。源九郎は殺される前に黒い猿のような男を見ていて、男の目の下にはホクロがあったといいます。

房吉は木菟一味を見たのではあるまいか
(p.66)

と予想します。木菟(みみずく)一味というのは泥棒集団で、黒装束で顔も隠していて、頭巾が木菟に似ているのでそう呼ばれているそうです。そんな名前が付くということは、結構目撃されているわけですね。案外マヌケな盗賊ですね。

房吉の妹、おせつは、敵討ちに燃えています。

「あたし、兄さんの敵を討ちたい」
(p.35)

こんな感じでいつものパターンですが、相手は手練れの用心棒を雇っていますし、おせつは何の技もありませんから、当然、長屋の用心棒たちに丸投げすることになります。ちなみにホクロの男も片付けることになりますが、目の下にホクロがあるというだけで本人と断定していいものでしょうかね。まあ滅多にないことだとは思いますが、人違いとかだとどうするのだろう。

最後の決闘シーンは、菅野彦三という浪人との一騎打ちです。

ずいぶん昔のことだが、一刀流中西派小俣道場で俊英と謳われた男である。その後、巷の噂で室井とかいう無頼浪人と賭場などに出入りし、江戸の闇世界で人斬り彦三と呼ばれて恐れられていると耳にしたことがあった。
(p.279)

「江戸の闇世界」というのが気になりますね。江戸の風俗的な本は結構読みましたが、流石に闇世界の話は出てきません。表に出てきたら闇世界とは言いませんよね。

ところで、風物詩として、大川の川開きの話が出てきます。

大川の川開きは、五月(旧暦)二十八日。この夜、両国では盛大に花火が打ち上げられ、川端や橋上は見物客で大変な賑わいを見せる。この日から、いよいよ本格的な夏の到来である。
(p.127)

大川というのは墨田川のことです。花火大会は令和の今でも続いています。


黒衣の刺客―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662504

おとら婆―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋…」の「おとら婆」です。14冊目のようです。

最初から苦言じゃないですが、老婆がならず者に袋叩きになっているシーンから始まるのですが、これはいけませんね。読んだ瞬間にアレだなと分かってしまいます。よくあるパターンですね。

しかし今回は出てくる浪人がいいです。その名は瀬川弥十郎。浪人なんですが、職業は辻斬り。これが辻斬りで一人殺したところで声をかけられます。声をかけたのは権六。職業は、

「はい、押し込み強盗です」
(p.80)

類友ってやつですね。しかもうまく話を持ち掛けて、はぐれ長屋の源九郎と菅井を斬ってくれないかと仲間に誘います。

この瀬川が谷颪(たにおろし)という秘剣を遣います。

尋常な剣ではなかった。二の太刀がおそろしく迅い。菅井にすら袈裟に斬り下ろした太刀筋が見えなかったのである。
(p.195)

今まで何冊か読んでみて、菅井というのはアクセラレータといい勝負じゃないかと思っていたのですが、上には上がいるようです。フィクションなのでいくらでも速度が上がります。

駆け引きの妙も面白い、ていうか基本、この世界は先手必勝なのですが、寝込みを襲っていると思わせておいて実は罠で大勢待ち構えているとか、結局卑怯な方が勝ちます。長屋軍団、割と卑怯です(笑)。ただ、最後はお約束で尋常な勝負。瀬川と菅井です。瀬川の構えが、

下段に構え、切っ先が地面につくほど下げた。谷颪の構えである。風に総髪や袴が揺れたが、刀身は静止したままぴくりとも動かない。
(p.281)

カムイ伝に出てくる浪人みたいな感じですね。笹一角とか、水無月右近とか。

 

おとら婆―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663594

 

 

うつけ奇剣

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「うつけ奇剣」。このシリーズ結構あるなぁ、と思って調べてみると、最新刊は46の「幼なじみ」のようですね゜46冊もあるのか。ちなみに、「うつけ奇剣」は27作目です。アニメとかと同じで、回が進むと登場人物が増えたりエピソードが今までの経緯を踏まえたものになっていたりするので、順番に読んでいくのが一番いいのですが。

今回の女性ゲストは「きよ」。

きよは一刀流の剣術の道場主、神谷弥十郎の妻だったが、いまは寡婦である。
(p.7)

きよの次男の新之丞と師範代の植村が歩いているところを待ち伏せされ、謎の牢人に立ち合いを所望されます。この浪人が謎の技を遣うのです。その名も、

「火焔斬り…」
(p.20)

いや別に宣言しなくても…とか思ったりしますが、

「相手の刀を擦り上げるとき、火花が出るのか」
(p.50)

ぜひアニメ化して欲しいですね。この謎の牢人、名前は平沢四郎兵衛、に圧倒されて絶対絶命のピンチのときに、源九郎と菅井が駆けつけて助けるというシナリオなのです。

道場主の弥十郎が亡くなったので、誰かが道場を継ぐことになります。剣技に長けた長男の宗之助に継いでもらいたいのですが、どこにいるか分からない。旅から帰ってこない。それで次男の新之丞が探していたのですが、何となくふらっと帰ってきます(笑)。宗之助の雰囲気はというと、

悪く言えば、しまりのない間の抜けた感じ
(p.72)

ということで今回のタイトルが「うつけ者」なんですね。しかし腕は立ちます。こういう人の方が案外怖いです。帰ってきて早速、まずは居合の達人の菅井と一手所望、ということで立ち会うのですが、妙な構えをします。

身構えに闘気が感じられず、顔も眠っているように表情がない。それに、木刀を下げて後ろに引いているので、柄の近くしか見えなかった。
「柳枝の構えでござる」
(p.76)

思わず天才バカボンの歌を歌ってしまいそうな感じです。これでいいのだ。柳生の「無形の位」みたいな構えですかね。

今回は剣術指南役をめぐる道場対道場の争いなので、バトルのシーンが満載です。最後のクライマックスシーンは火焔斬りの平沢と源九郎の勝負になり、先に相手を片付けた菅井が助太刀しようとすると、源九郎が、

「手出し無用!」
(p.278)

尋常な勝負に拘るあたりがサムライなんでしょうね。負けたら大変なことになるわけですが、まあこの本の流れからいえば負けませんからね。


うつけ奇剣-はぐれ長屋の用心棒(27)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575666083