今日は「はぐれ長屋…」シリーズから「父子凧」。源九郎の息子の俊之介がメインゲスト(?)でしょうか。この俊之介、ひょんなことから出世のチャンスを掴んだ、と思いきや悪いタイミングで上役の原島が何者かに斬殺されてしまいます。一緒にいた俊之介は何とか命は助かりますが、
「それが今度の事件でな、昇進どころか士道不行届きで処罰すべしという者がおるのだ」
(p.63)
というトンデモないことに。正体も知れない奴等に斬られるなどとは何事か、武士として恥を知れ、というわけです。武士は辛いですな。
先のセリフ、話しているのは俊之介の上司にあたる戸田ですが、戸田は俊之介に目をかけていて、とはいっても俊之介では相手にならないとみて、主役の源九郎に下手人を捕えて欲しいと百両で依頼します。金が出てくれば、はぐれ長屋の用心棒達の出番になって、いつものパターン。
一方、俊之介は執拗に狙われて、自宅にいるところまで襲撃され、逃亡して一家で長屋に隠れることになってしまいます。俊之介の妻の君江が、これを猛烈に嫌がるのが面白い。源九郎いわく、
「それがな、嫁がうまく馴染めんようなのだ」
(p.164)
はぐれ者が集まるだけあって、ド汚い長屋です。武家の嫁としては拒絶反応があるのでしょう。しかし長屋の住人は異様に世話好きなので、徐々に馴染んでくるのも面白い。
今回の話は呉服屋の利権争い。幕府御用達になりたいので賄賂を掴ませて云々、という時代劇あるあるパターンです。原島が斬られたのも不正を調べていて邪魔な奴、という当然の理由です。
タイトルの父子凧というのは、俊之介が子供の新太郎に凧を作ってやるシーンがあって、その時に源九郎が手伝ってやるのです。今時の父親の中に、凧を手作りできる人はどれ位いるのでしょうか。もちろん私は作れません。
クライマックスのバトルの相手は塚本十四郎。手練れです。源九郎も危うし、というところで俊之介が手を出して気を逸らせたところに…という連携プレー。二人掛りとは卑怯なり、とか言いそうな状況ですが、殺し合いでそういう悠長なことは言ってられない。しかも、俊之介が塚本の脇腹を貫通する致命傷を負わせたところで、這ってでも逃げようとする塚本に対して、
「武士の情け!」
(p.276)
とかいって源九郎は背中から心臓を突き刺して殺してしまうのだから壮絶です。ま、どうせ死ぬのなら苦しませずに死なせてやろうというのは確かに情けではありますが。この章には「夕暮の死闘」というサブタイトル。たしかに死闘のようです。私は木枯し紋次郎や眠狂四郎のように平然と殺す系に慣れているので、あまり不自然には感じませんが、このシリーズ、源九郎は割と平気で相手を殺してしまう。子連れ狼みたいなストーリーだと、殺すのもかなり重みがありますが、それに比べると何か軽いような感じがします。
父子凧―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662795