今日の本はウィンストン・グレアムさんの「罪の壁」。
壁というのは例えばベルリンの壁とかを脳裏でイメージさせたいのかもしれません。 第二次世界大戦を背景にした作品ですが、話自体は戦争ものではなくて、割と普通のミステリーというか、サスペンス。どつき合いで盛り上がる感じです。
舞台は1954年。戦争が終わって歴史的にも微妙な時代でイメージし辛いのですが、この小説には風景の描写が割と出てきて、そこがよく分かりません。ナポリはともかく、アマルフィやカプリ嶌といわれても土地勘がないので分からないのです。
オテル・ヴェキオは大聖堂から少し入った細い切れ込みのような路地の先にあった。腕を左右に伸ばした程度の幅しかない路地で、路上では三階建ての高さのアーチがいくつも渡されていた。
(p.128)
こんな感じで、個人的にはぼやっとした光景しかイメージできないのです。
私の場合、ラノベを読んだりアニメを見る時に、下北沢や新宿が出てくると書いてあることがよく分かります。書かれた内容に実際の光景をオーバーラップさせて脳内に展開するわけです。そこに行ったことがある人が読めば、描写がリアルに感じられるのは当然です。
ストーリーは、フィリップ・ターナーという主人公が考古学者の兄、グレヴィルが自殺したという連絡を受け、その真相を探るというもの。主人公は兄の性格から考えて自殺はあり得ないと判断するのです。
きみのお兄さんのように達成できるだけの十分な能力を持ち高い理想を抱く男は、気持ちの上でのあいまいさというものがなく、妥協できないことがある。妥協できない、あるいは妥協しようとしないんだ。完全にやり遂げてみせるか、あるいは引き下がることができずに死ぬしかない
(p.112)
能力を持っているからクリアする自信があって、途中で逃げ出せない。結果 game over になってしまう、という主張ですが、もちろんこの小説はそんなに簡単な話ではないわけです。
罪の壁
ウィンストン・グレアム 著
三角 和代 翻訳
新潮文庫
ISBN: 978-4102402511