今日は長屋シリーズから「源九郎の涙」です。
掏摸の縄張り争いにお吟さんが巻き込まれてしまって、人質にされてしまうという結構危ない話です。源九郎はお吟のことになるとキレるので怖いです。
今回は、お吟の昔の仲間が殺されるシーンから始まります。仲間といっても裏の世界の話なので、町方に相談するわけにはいかない。そこで、源九郎に助けを求めてきます。源九郎も事情が分かっているので、相談に乗るわけです。
「わしは、お吟がこの店をひらく前、何をしていたか知っている。……おまえも、気にせずに話してくれ」
(p.36)
こう話すのは源九郎、相手は掏摸の猪七。ここは縄張り争いで娘が殺されてしまい、源九郎に敵討ちを依頼しに来たシーンです。猪七もこの後襲われて重傷を負いますが、何とか命は助かります
敵のボスは般若の五兵衛。どんな奴かというと、
「深川、本所辺りの掏摸たちを束ねている男でさァ。ちかごろは、賭場もひらいているって噂ですぜ」
(p.63)
ま、悪い奴ですな。今回のラスボス的な強敵は、江島。最初に源九郎と対したときに、
「ご老体、その刀は錆びて抜けないのではないか」
(p.97)
とバカにするので、源九郎が、
「抜いてみせよう」
(p.97)
と挑発に乗ったりする。抜いてビックリ、といういつものパターンです。源九郎はいつもタダの老人に見られてしまうのですが、剣の達人って、相手をちょっと見ただけで腕が分かるのでは。なのに相手がいつも源九郎をナメてかかるのがよく分かりません。
最後は町方と手を組んで五兵衛の隠れ家に踏み込んで御用ということになりますが、隠れていた五兵衛を追い詰めた村上の旦那が、五兵衛を前にしてお前だろと問い詰めると、そいつは五兵衛ではないと言い訳をする。
「五兵衛じゃァねえのかい」
「は、はい、てまえは喜兵衛です」
(p.279)
下手な言い訳(笑)。この後の村上の旦那の逆襲がなかなか面白いですが、内緒にしておきます。
面白いといえば、孫六が通りすがりの男たちに賭場の場所を聞き出すところも面白い。
「へっへへ、この近くにあると耳にしやしてね。兄さんたちなら、知っているとみたんでさァ」
(p.194)
兄さんたちが何の話だというと、
孫六は、これでさァ、と小声で言って、壺を振る真似をした。
(p.195)
これで博奕のことだと通じる訳ですな。なかなかうまい訊き方をするものです。孫六は元十手持ちのはずなんですが、博奕打ちに見えるんでしょうね。
源九郎の涙-はぐれ長屋の用心棒(40)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668445