Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

雑記

風邪はかなり良くなりました。風邪薬で騙しているような気もしますけど。

とある chat で医師いじめの村というのが話題になったのですが、それでちょっと気になったのは「風立ちぬ」の次に読んでいる「美しい村」です。本当は「美しい村」の続きが「風立ちぬ」という時系列なので、こちらを先に読むべきなのですが、理由があって「風立ちぬ」を読もうとしたので、逆転するという結果になりました。

その「美しい村」には、こんな記述があります。

爺やとの話は、私の展開さすべく悩んでいた物語のもう一人の人物の上にも思いがけない光を投げた。それはあの四十年近くもこの村に住んでいるレエノルズ博士が村中の者からずっと憎まれ通しであると言うことだった。或る年の冬、その老医師の自宅が留守中に火事を起したことや、しかし村の者は誰一人それを消し止めようとはしなかったことや、そのために老医師が二十数年もかかって研究して書いていた論文がすっかり灰燼に帰したことなどを話した、爺やの話の様子では、どうも村の者が放火したらしくも見える。(何故そんなにその老医師が村の者から憎まれるようになったかは爺やの話だけではよく分からなかったけれど、私もまたそれを執拗に尋ねようとはしなかった。)――それ以来、老医師はその妻子だけを瑞西に帰してしまい、そうして今だにどういう気なのか頑固に一人きりで看護婦を相手に暮しているのだった。……私はそんな話をしている爺やの無表情な顔のなかに、嘗つて彼自身もその老外人に一種の敵意をもっていたらしいことが、一つの傷のように残っているのを私は認めた。それは村の者の愚かしさの印しであろうか、それともその老外人の頑な気質のためであろうか?
(美しい村、堀辰雄青空文庫)

小説は所詮小説かもしれませんが、おそらくモデルになった人物がいたのではないでしょうか。村落が閉鎖的だというのは今でも同じことでしょう。

風立ちぬ・美しい村
堀 辰雄 著
岩波文庫
ISBN: 978-4003108918