Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

送り火

2018年上半期の芥川賞受賞作。

主人公の歩は中学三年生。転校慣れしていて、集団にうまく溶け込むことができる…ように見えても、転校生としての立ち位置なんてのはいつも微妙なものである。転校した中学校は生徒が3学年全員で12人。この人数だと特定の集団に属するということは不可能で、強制的に集団に所属するしかない。危機的な状況下でも何とかうまくやっていくのだが、それは実に表面的なものであった。

男子の集団のリーダー格は晃。統率力があるというのではなく、発想が危ない。反発すると危ないから皆が服従することになる。この晃が、いじめられ役の稔を殴ってケガをさせたことがある。その理由が、

稔さ売店でコーラ買ってこいって命令したっきゃ、嫌だと答えたんだね。だはんで平手で打った。それでも従わねはんで、拳で殴った。それでも従わねはんで、鉄鋼でガツンさ。
(p.94)

意味がよく分からない。しかし晃の視点で見ると見えてくるものがあるのではないか。あるいは稔の視点であればどうか。この小説の読後感は、自分をどの視点に置くかで激しく入れ替わると思われる。

ストーリー中に燕雀というゲームが出てくる。花札の延長のようなものだ。これで勝負して、負けた人が罰ゲームをすることになるのだが、罰ゲームがかなりヤバい。

六本の試験官の一本に、硫酸が混じっている。燕雀でドボンになった者が、どれか一本の溶液を手の甲にかける。
(p.32)

もちろんこのようなゲームで負けるのは稔に決まっている。イカサマなのである。その後、実際どうなるのかは、ネタバレすぎるから今回は書かない。後味が悪いという人もいるようだが、多少は度胸があった方がうまく読めると思う。


送り火
高橋 弘希 著
文藝春秋
ISBN: 978-4163908731