Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

キノの旅XXI the Beautiful World

今日はまた巻数が飛びますが、「キノの旅」の第21巻からアレコレ紹介してみます。

第一話「有名になれる国」。最後のオチの後にまだオチがあるみたいな所が爽快です。ラジオという設定になっていますが、リアルな背景としては YouTuber とか想定しているのでしょうか。

歪んで大きく育ってしまったシステムは、二度と真直ぐには戻らない。無理に直そうとすれば――、折れる
(p.44)

いっそ全部リセットしてやり直した方が楽なんですよね。

第三話の「Nの国」。Nって何ですかね。ネットかな。教育批判的なシーンが出てきます。

大勢の生徒に一括して教えるのは、効率がいいように見えて、無駄の多いシステムでした。
(p.86)

教室で集団授業をするスタイルだと、分かっている人には教える必要のないことなので無駄だし、聞いても分からない人には時間の無駄になってしまいます。個別に生徒毎を相手に進捗に合わせて教えるのが、個々の生徒の視点で見ると効率がいいでしょう。ただ、教える側にとっては大変な手間がかかります。そこでAIの出番なのです。

第四話「読書が許されない国」。

読書を押し付けられた国民は、反発からか、ほとんどの人が読書嫌いになってしまった
(p.97)

これは何となく分かるような気もします。ただ、例えば、ゲーム機の利用を義務付けたり、動画やテレビを見ることを強制したり、毎週1度以上はギャンブルをしなければならない法律がある場合、強制が理由でその種のことか嫌いになるものでしょうか、微妙な違和感があります。そういえばラジオ体操を強制する職場は今もあるようですが、それが嫌いでラジオ体操は嫌いになった、という人はまだ出合ったことがありません。

第七話「完璧な国」。

全てのメリットにはデメリットがある
(p.143)

メリットがあると、場合によってはそのメリットがデメリットになる、という意味です。光あるところ陰あり、矢のごとし【謎】といいます。

第九話の「女の国」は、アレっ? と思いました。

「もう、奴隷は……、いやです……」
(p.221)

今までのキノパターンでいえば、ここは「奴隷でいたいです」という流れになりそうなものなのですが、何かあったのかな。


キノの旅XXI the Beautiful World
時雨沢 恵一 著
黒星 紅白 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048933995

キノの旅XIV the Beautiful World

今日は「キノの旅」の第14巻。

第四話「開運の国」。師匠が出てくる話です。ネタとしてはビジネスの話ですかね。

きれいに加工して、アクセサリーにしたらどうですか?
(略)
ワシが若い頃はそうしていたが、そのうちに国民全員に行き渡ってしまった。
(p.71)

この石、ダイヤモンドの原石らしいのですが、どうやって加工したのでしょうね。あんな硬いモノ。

第五話「遺作の国」は、ちょっとミステリー。キノにはベストセラー作家の殺害を依頼されます。

急に作品が注目されて売れるようになる
(p.88)

キノは人気漫画家が殺される話があると言ってますが、私の知っているミステリーは画家だったと思います。いろんなパターンがあるようです。

第八話「寄生虫の国」は、ざっくり紹介するならば、普通のいつ死ぬか分からない人生と、50年間は病気にかからない健康な身体が保証されているが、50年で必ず死ぬ人生、どちらがいいかという話です。キノは命を狙われるという理由で50年健康に生きる権利を拒絶するのですが、そこは黙っていれば済む話のような気もします。

第十話「正しい国」は、

ここにあった国はとても〝平和を愛する国〟であり、だからまわりの国々に攻め入った
(p.185)

というストーリーです。平和のために戦争をするというのは、現代とあまり変わりませんね。ただ、今戦争をしている国は、先制攻撃というより、攻撃されてきたので反撃しているパターンだと思います。どっちが先という問題はあるかもしれませんが。


キノの旅XIV the Beautiful World
時雨沢 恵一 著
黒星 紅白 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048689670

四月は君の嘘

今日はアニメで「四月は君の嘘」。紹介したつもりになっていたけど書いていませんでしたっけ。原作はコミックで、作者は新川直司さん。アニメは2014年秋~2015年冬に放映されました。

音楽アニメ。ピアニストの有馬公生と、バイオリニストの宮園かをりの成長を描くストーリーです。細かい話は全部省いて見所だけ紹介すると、有馬公生が演奏中に突然覚醒する場面。原作は読んでないのですが、音楽でこれを表現しているのは何となく凄いような気もします。ちゃんと台詞で解説が入るので騙されているのかもしれませんが。

機械的に打ち込まれたデータのように弾く有馬公生が賞を取りまくるのに酷評され、指示を無視して自分の好きに弾く宮園かをりが絶賛されながら評価されないという矛盾した世界感が何となくリアルで面白いです。

アニメの中では演奏シーンで実際にクラシックが長時間演奏されるので、そこも見所というか、聴き所になっています。

風夏

今日はアニメで「風夏」。原作のコミックの作者は瀬尾公治さん。2017年の冬アニメ。コミックとアニメで後半のストーリーがかなり違っています。

ストーリーはバンドを目指す高校生の青春ラブストーリー的な。個人的には高校生の時にバンドをやっていたので、そんなに短期間でベースが弾けるようになるのかとか、バンド活動ってもっとギスギスするものじゃないのか(笑)とか、リアルでない的なモヤモヤ感があるのですが、小雪がいい感じなので後はどうでもいいです。

ヒロインの風夏はアニメでは唐突にソロに走ったり、その割にあっさり戻って来たりというのが違和感があって、個人的にはよく分からなかったです。アニメの尺の都合もあるのでしょうか。何か説明不足感があるような感じです。同じ瀬尾さんのキャラでも涼風のようなやり辛い性格は一貫性があって分かるんですけど。

個人的に、このアニメのクライマックスは第8話の学園祭ライブだと思っています。緊張感が凄い。その後のシーンはそれを超えていないような気がします。

 

ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎

今日の本は「ポパーウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎」です。何だこの長いタイトルは。

このエピソードを知らない方も多いと思うのでざっくり紹介すると、1946年10月26日、ケンブリッジ大学のモラル・サイエンス・クラブにポパー博士が招かれ講演を行いました。この時の様子が。

ピーター・ギーチの記憶によれば、ウィトゲンシュタインは火かき棒を手にとり、それを哲学上の例についてふれるなかで使っていた。使いながら、ポパーに「この火かき棒について考えてみたまえ」といった。
(p.26)

講演中に火かき棒を持ち出すというのは尋常ではありません。そしてヴィトゲンシュタインは討論の途中で出て行ってしまったのです。ポパーの主張に次々と反論している中、何で最後まで反論しないで出て行ってしまったのか。

語りえぬものについては、沈黙せねばならない。
(論理哲学論考ウィトゲンシュタイン著、野矢茂樹訳、岩波文庫、p.149)

…まさか、そういうわけでもないようですが…。

この本は、タイトルになった大激論の内容に関して詳説したものではありません。むしろ、ポパーヴィトゲンシュタインの生い立ちや育った環境、そして時代背景としての第二次世界大戦ナチスの台頭下でのユダヤ人哲学者としての立ち位置、そのような背景情報を紹介した本として受け止めるべき内容です。よもやま話的なもので、哲学は本格的に知らないという人でも読み易いと思います。

途中に出てくる「その他の人」も豪華キャストです。

アルベルト・アインシュタイン、ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタインバートランド・ラッセル
(p.197)

もちろんチューリングの名前も出てきます。もっとも、チューリングとの論争に関しては、内容は殆ど触れられていません。

ウィトゲンシュタインとはどんな人だったかというと、

ウィトゲンシュタインのほうにだけ、なんというか、魔力のようなものがある
(p.34)

カリスマ性が半端ないのです。学生たちは服装やしぐさまで真似したという話も出てきます。言葉としては、先に紹介した「語りえぬものについては、沈黙せねばならない。」が有名ですが、

ウィトゲンシュタインは、わたしたちが語りえない命題こそがほんとうに重要なのだと考えていた。
(p.207)

禅的な問題ですね。世の中には言葉では表現できないものがあります。沈黙せねばらならない側が重要だというのは大きなポイントです。これはウィトゲンシュタインが「論理哲学論考」について書いた手紙に、次のように書かれていたことから分かるそうです。

わたしの著作は二つの部分で構成されています。この本に書かれている部分と、書かれていない部分です。そして重要なのは、まちがいなく、書かれていないほうなのです
(p.207)

これに対するポパーに関しては、例えばポパーが本を書く場面。

原稿はつぎからつぎへと書きなおされ、ヘニーがこれをタイプする。一ページが一〇ページになり、一〇〇ページになり、ついには八〇〇ページになる。二人はほとんど死にかけた。
(p.240)

ヘニーはポパーの奥さんです。

一つのことに集中すると異常にのめりこむ性格なんですね。全集中です。特に哲学議論になると人が変わったように攻撃的になるようです。ジョン・ワトキンス教授が紹介している逸話に、次のようなものがあります。

「あるセミナーで発表者が〈…とはなにか〉というタイトルを読み上げた。とたんにポパーがわりこんだ。そして〈なにか〉という問いはまったくの誤謬で、誤解をまねくといいだしたのである。発表者のほうはタイトルを発表するだけで時間をつぶしてしまい、それ以上議論がすすまなかった」
(p.250)

モンスター哲学者ですね。

魔術師とモンスターの戦いですから、無事に済むわけがありません。


ポパーウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎
デヴィッド エドモンズ 著
ジョン エーディナウ 著
David Edmonds 原著
John Eidinow 原著
二木 麻里 翻訳
筑摩書房
ISBN: 978-4480847157

キノの旅VIII the Beautiful World

今日は順序が乱れましたが、「キノの旅」の8巻から。

第一話「歴史のある国」は、師匠と弟子が塔に立てこもる話。アニメ化されています。きれいにまとまった話ですが、相手側にゴルゴ13がいたら負けていたかもしれません。2人vs大勢でドンパチやって2人が勝つというのは、いかにもフィクションで面白いです。

第四話「救われた国」は、宗教の話。

通りで疲れ果てた顔をした女の子がいたから、〝こう言うと気分がすっとするよ。私の国の祝詞だ〟っていい加減な呪文をでっち上げて教えた……
(p.102)

女の子がこれを信じて回復してしまいます。メンタルの問題なのです。そういうことは、日常でよくある話なのですが、これが広まって宗教になってしまうのです。そうなると、もう後には戻れません。

何かうまく行ったので信用する、というのは今の日本にもたくさんありますよね。どれとは言いませんが。

エピローグの「船の国」もアニメ化されています。シズと陸と一緒に旅をしているティーが出てくるエピソードです。

この国の国民は船に乗って生活していますが、その船がメンテされていないため非常に危険な状態で、このままではそのうち沈没してしまう。シズはそのことに気付き、

この国を砂浜に乗り上げ、沈まないようにする。その後、陸地の上での生活を国民に提案する。
(p.197)

というプランを考えて実行します。ところがその国民の選択が…という話です。長老のこの一言が全てを決めてしまいます。

今までずっと、しっかり浮かんでいたこの国が、沈むわけはなかろう。
(p.204)

日本人は特にこの宗教に弱いようです。今そうだから教。


キノの旅VIII the Beautiful World
時雨沢 恵一 著
黒星 紅白 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048666305

デス・パレード

今日はアニメで「デス・パレード」death。2015年の冬アニメ。

死後の行先は二つ。一つは虚無。地獄のようなものでしょうか、無の境地でしょうか。もう一つは転生。またこの世に生まれ変わって地獄のような現世をリプレイということです。それを決めるのが裁定者。主人公のデキムです。

死んだ人は裁定を受けるためにゲームをしなければなりません。ゲームの内容はルーレットで決めるのですが、テレビゲーム、エアホッケー、ババ抜き、のような感じで、そんなのでいいのか的なゲームが出てくるのがいいです。

出てくるキャラの表裏が激しいとか、メンタルがおかしくなっているのはホラー的ですが、第六話に出てくる有田マユのように天然というかおバカさん的なキャラは、かなりいい感じにリアルで人間味があります。

毎回出てくるゲストキャラ、つまり死んだ直後の人達が、最初は死んでいることに気付かず、しばらくするとそれに気付くというのは、死って何なんだろう、と考えさせられます。